ある女の幸せな話
いらっしゃい、僕の枠へようこそ。こういったラジオ配信は初めて?
────そう。やっぱりね。コメントがぎこちなかったから、さ。
まず、枠というのは配信している場所を指すんだ。配信者は枠主。この枠の枠主は僕、って感じかな。
ああ、ごめんね、それでさっきの話に戻るんだけど────初見さん……初めて来た方にも話が分かりやすいように、最初から話すね。
これは、僕がまだこの配信アプリを始めたばっかりの頃の話。今はもう枠をやってない方だけど、使い方や用語を教えてくれた枠主さんがいてね。
その枠主さん、「ちょっと惚気け話を聞いて」って言い始めてね。恋人の話かと思ったら、セキセイインコの話だったんだ。
彼女、一ヶ月前にもセキセイインコの雛を飼い始めたらしいんだけど、1週間経った日、部屋の中を散歩させようとケージから出した瞬間飛び出して、そのまま窓に激突して……って事だったらしい。しかも、運悪く日曜日に。
それでも何とか立ち直って、また飼う為に勉強や準備をしたんだって。
で、準備が整ったある日、インコを飼いますってSNSに投稿したんだ。
「次を飼うのが早すぎる、もっと勉強しろ」
みたいなコメントもあったし、元々心が弱かった彼女はもちろん深く深く傷付いた。買いに行く間も、迎えてからも、ずっと飼っていいのか悩んだみたい。
しかも、前のインコより少し成長していたその仔は、頭が良いのか警戒してさ。手を近づけようものなら、ギャギャギャッ!と鳴いてつついてきたんだってさ。
それだもの。彼女も二、三日ずっと緊張状態で食欲も無かったんだ。
……でも、ある日。そっと手を近付けても怒らなくなったんだ。
おや?と思ってくちばしに触れても、抵抗しない。
多分皆も思ってる通り、少しだけど心を開いてくれたんだよ。
それからは毎日スキンシップを少しずつ取って、最初あんなに嫌がっていた顔も、いつの間にか撫でさせてくれるようになったんだって!しかも、気持ち良さそうに目を瞑ってるらしいんだ!
そこまで話して、彼女の声がパァっと明るくなったんだ。次は手に乗ったり、安全になるまで神経質に掃除した部屋を散歩させたりしたいって言っていたよ。
……でも残念ながら、先述した様に今はどうなのか知らないんだ。
インコちゃんと仲良くしていたらいいな、って僕は思ってる。
……ああ、ごめんね。しんみりさせちゃった。前聞いた幸せな話を共有したかったのに。
じゃあ、次のコメントを読むね。
───────退屈な夜を吹き飛ばさんとする明るい男性の声をスマートフォンから流し、大きくなった愛しのセキセイインコにお休みを言って、私はケージに布をかけた。