見出し画像

第48回ピティナ・ピアノコンペティション 特級グランプリ受賞記念 南杏佳ピアノコンサート

第48回ピティナ・ピアノコンペティション 特級グランプリ受賞記念 南杏佳ピアノコンサート

開催日程:2025年02月02日(日)
会場:4F ヤマハグランドピアノサロン名古屋
出演:南杏佳(p)
主催:株式会社ヤマハミュージックジャパン
後援:一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)

CFやSXシリーズなど多くのヤマハグランドピアノが展示される中、ひときわ輝くCFX。ヤマハグランドピアノサロン名古屋で、2024年ピティナ特級グランプリに輝いた南杏佳さんのリサイタルが開催されました。この日を楽しみにしていたお客様も多く、開場時間と同時に貴重な40席の客席が埋まっていきます。
拍手の中、南杏佳さんが笑顔で現れCFXの前に着席しました。

(撮影:カイネ♪あのん)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第28番 イ長調 Op.101
ゆったりとしたメロディが奏でられると、ベートーヴェンの深遠な海が静かに広がって行きます。寄せては返す波の間にのぞく追憶の痛み。各フレーズが多彩に色分けされ、これはオーボエ、次はフルートと、南さんの演奏はまさにオーケストラのよう。各音色が融合していく様はとても味わい深く、心に沁みました。

シューマン:クライスレリアーナ Op.16-1、Op.16-4、Op.16-7、Op.16-8
着席のまますぐに演奏が始まりました。幕が開くと同時に登場人物が転がり出てきたかのように、性急な音型が速いテンポで明確に表現されていきます。曲調が目まぐるしく変わり、第4曲は水中に絵の具が溶けていくような音の拡がりが美しく、第7曲では胸に響くフォルテの迫力に圧倒されました。さまよい歩くような同一リズムが印象的な終曲は緊張感を保ったまま静かに幕を閉じました。

リスト:超絶技巧練習曲 第9番「回想」 S.139/9 R.2b 変イ長調
リスト:超絶技巧練習曲 第4番「マゼッパ」 S.139/4 R.2b ニ短調
ここで南さんがマイクを持ち、演奏前に曲解説を。「『回想』は叙情的な一曲」。粒立ち良くスケールが駆け上がり、トレモロがキラキラ光を放ちます。鳥のさえずりや天使のささやきが聞こえ、愛に満ちた歌がずっと続いていました。
「『マゼッパ』はヴィクトル=ユーゴの抒情詩を題材に、英雄マゼッパの苛烈な人生と生命への強い希求を描いた難曲」。蠢くアルペジオや強弱などで、各場面を南さんが鮮やかに表現していきます。演奏後の会場は映画を見終えたような興奮と感動に包まれました。

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178/R.21
「人生を表しているように感じる」と南さんが語るソナタは「演奏者の人生も映し出される」そう。決然とした打鍵が客席をすぐにソナタの世界に引き込みます。嵐のような混沌と対立、合間に訪れる緩徐的場面で安らぎを感じるも、新たな嵐が再び巻き起こる。南さんは集中を維持したまま、冷静な手捌きで壮大な世界を築き上げていきます。ラストは希望に満ちた明るい未来が見えるような心地になりました。
アンコールでは「Over the Rainbow」のジャズアレンジに大きな拍手が送られました。



■終演後に南 杏佳さんにインタビューさせていただきました。

🎵1 本日のプログラムについてお聞かせください。

南:今回のテーマは「振り返り」です。
例えばベートーヴェン「ソナタ第28番」は後期のスタートになる曲であり、ベートーヴェンが人生を振り返り回想している雰囲気を感じます。
「クライスレリアーナ」でシューマンは、登場人物〈クライスラー〉の音楽家としての苦悩に自身の人生を振り返りつつ重ね合わせています。リストの「回想」はそのままですし、「マゼッパ」は英雄マゼッパの人生を回想。ソナタは人の一生を思い起こさせる曲です。人生を振り返り、「人生とは」「生きるとは」ということを考えられるプログラムになったと思います。

🎵2 特にリストを演奏している南さんはとても自由で楽しそうに感じました。

南:リストは大好きな作曲家なので、よくそのように指摘されます。最初にリストに取り組んだのは高校生の時で、テクニック面強化の一環として「マゼッパ」を練習しました。「マゼッパ」は以前動画で、スーツの女性が弾きこなしているのを見て以来憧れの曲。さらに先生に「回想」と「鬼火」を勧められ、「3度のエチュード」を加えた超絶技巧プログラムでピティナG級に出場しました。
その後田村響先生から「リスト=派手な演奏と連想されるが、信仰心に満ちたもっと聖なるものだ」と教えていただき、より一層愛が深くなりました。米国から帰国し演奏が変わった今、自分の演奏するリストがどういう風になっていくのか興味があります。リストの作品は私の個性に合う部分がとても多いですし、「手が小さいのに」と言われることもありますが、だからこそできることがあると思っています。


🎵3 「クライスレリアーナ」は今回は抜粋でしたが、2月11日(火・祝)「ピティナ特級ガラコンサート」では全曲を演奏されますね。

南:曲決めの時に「シューマンを演奏したい」と伝えたところ、「クライスレリアーナ」を提案していただきました。シューマンは大好きな作曲家なのに、なんとなく苦手意識があり取り組む機会がありませんでしたが、今回は挑戦してみようと思いました。
30分強の演奏の中で曲調が次々と変わっていくので、パッパと素早く感情の変化をつけていくのが大変。曲に込められたシューマンの人間性をどのように表現するのか、全体をどういう風に作っていくか等すごく難しいです。さらに曲を読み込み仕上げていきたいと思います。

🎵4 ガラコンサートに向けて、特にどんな部分をを聴いていただきたいですか。

南:まず注目していただきたいのは、ファイナリスト4人が久しぶりに集まって演奏するということ。昨夏のピティナ特級ファイナルから半年経ち、それぞれの場所で色んな経験をした4人がどんな音楽家になったのかというのを聴いていただきたいです。私も4人で会えるのが嬉しくて仕方ないです(笑)。
個人的には今回演奏するショパンとシューマンはコンクールでも使ってこなかった初お披露目曲。「ノクターン第13番」のハ短調に表れるショパンらしさとドロドロした部分や、「クライスレリアーナ」の二面性やキャラクターの違いなどをお伝えできたらと思っています。J:COM浦安音楽ホールはピティナ特級二次&三次予選で演奏した会場なので楽しみです。

🎵5 最近のマイブームを教えてください。

南:アーティストの「ちゃんみな」さんが大好きです。音楽をやっている人間からすると、彼女の言葉には深く突き刺さるものが多く、彼女の「自分の過去に中指を立てちゃダメ」という言葉が苦手意識の克服にも繋がりました。演奏前には必ず彼女の曲を聴いています。

🎵6 「人に影響を与える」「アーティスト」という点で、南さんも小さなお子さんと接することがある等、通ずる部分があるかもしれませんね。

南:受賞者コンサートなどで子供達と触れ合う機会も多く、とても喜んでくれたりアドバイスをずっと大切にしてくれたりと、私の言動一つ一つが及ぼす影響に驚くことが何回もありました。最初は恐縮するばかりでしたが、無責任な発言はできないと、その重みを感じるようになりました。
演奏者の〈人柄〉は演奏にも出ますし、私もずっと大切にしています。子供達にも同じように大切に思ってほしいし、それが伝わったと感じる場面に出会うととても嬉しいですね。なのでこれまで以上に私自身が〈人柄〉を見失わず、大切にしていかなければと思います。忙しいと、目の前のことでつい一杯になってしまうのですが(笑)。

(画像はヤマハグランドピアノサロン名古屋様より)

*****************************

南さんを始め2024ピティナ特級入賞者4人が出演する「2024特級ガラコンサート」はこちら。ライブ配信もあります。

(レポート・インタビュー:カイネ♪あのん


いいなと思ったら応援しよう!