飯田有抄のショパコン日記16〜音にどれだけ性格は出るのか?
人間なんて、いろんな面がありますからね。簡単にその人を知った気分になんて、なっちゃいけません。だいたいみんな、自分のことだってよくわからないんだし。
とはいえですよ、音楽はコミュニケーションですから。そこから伝わる「その人」ってやっぱりあるし、たとえば短いインタビューで発する話し方や言葉の選び方などからも、やっぱりその人のキャラクターは滲みでますよね。
ベトナム出身のヴィエット・チュン・グエン Viet Trung Nguyenさん、(読み方教えてくださったTwitter とFBフォロワーさん感謝です!)は、ショートインタビューで惹きつけられました(わたしそういうこと、よくあります)。彼の口調はおだやかでね。「ベトナム人のダン・タイ・ソンさんがショパンコンクールで優勝した年に、お母さんが、『ベトナム人も優勝できるのよ』と夢を持たせてくれた」っていうお話をしていたと思います。このインタビューを見た時に、やはり「国籍」ということについて、考えさせられたんですよね。(※編集注:以下アーカイブでそのインタビュー部分を頭出ししています)
「何人だから」というときに、血統的な意味でものを論じるのは危険です。それよりも、ナショナリティというのは、やはりどうしても、その人が置かれた環境として、「恵まれて」いたりだとか、逆にかなりの「困難があった」とか、そういうことは多いに関係してくる。そしてもっとも影響力のあるのは、私は母国語と生活習慣だと思っています。とくに母国語は、子音と母音に対する感性やリズム的なことが体に刷り込まれる大きな要素ですからね。どんな言葉(一つなのか複数なのか)を、どのくらいの土着度で話しているかで、音楽的なその人の傾向に、少なからずの影響を与えるのは自然だと思います。
話がちょっと見えなくなるその前に戻して・・・と。ヴィエトさん(もうファーストネームで呼びますよ)は、その短いインタビューと、そして1次予選の配信、2次予選で聴いた演奏から、もう本当に、明るく朗らかで落ち着いた人なのだろうな...と思えるんです。彼の音楽は、聴いていて、フッと笑顔になってしまうというか、とにかく「幸福度」が高い。同じ抒情性でも、同門のネーリングさんのそれとは、色合いが違って、隠しきれないハッピー度がある。それがショパンの音楽としてどうなのか、というのは置いておいて、幸せになれる音楽は、やはり素晴らしい。
同じことを、じつは角野隼斗さんの音楽にも感じています。角野さんは、2018年のピティナ特級グランプリ受賞直後のインタビューから、各種メディア、新譜リリース時、最近ではアリス・紗良・オットさんとの対談など、さまざまにお話を伺ってきておりますが、とても根が明るくて、幸福感に下支えされた性格の方とお見受けしています。それがですね、音に出るんですよね、やっぱり。コンクール本番ですから、緊張やさまざまな感情が入って、やや「陰り」のような表情となって、ショパンの音楽を伝えてくれた2次の演奏でしたが、とりわけワルツop.18には、朗らかで静かに明るい角野さんの性格的なところが、光挿すように聞こえたように感じました。
演奏を先に聞いて、あとからインタビューをしてみたら、「ぜんっぜん意外なキャラの人だった!」という経験は、ほとんどなかったことにも気づきました。
この先の奏者たちの演奏から、「きっとこんな人なのかな」と想像しながら聴くのも、また楽しみの一つとなるのではないでしょうか。
写真:©Wojciech Grzedzinski/ Darek Golik (NIFC)