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室元拓人さん(セミファイナル新曲作曲者)、セミファイナル後インタビュー

6名のセミファイナリストの演奏が終わった直後。まだ頭の中に演奏が鳴り響くような興奮のまま、今年の新曲課題である「凍(い)てつく火花 ピアノソロのための」
を作曲された室元拓人さんにお話を伺いました。セミファイナルを聴きにいらした、昨年の新曲課題の作曲家、片山柊さんにも同席いただくことができました。

ご自身の曲が6名のピアニストに演奏されました。どのように聴かれましたか?
室元さん(以下室元):自分の曲が、同時に複数の奏者に演奏されること自体が初めてで、素晴らしい経験でした。全員が全く異なるアプローチで演奏されていて、私が作曲段階で想定しなかったような表現もありました。あらかじめリサイタルを想定して組んだそれぞれのプログラムの中で、どこに私の曲を置くかということも含めて大変面白く拝聴しました。

例えば、ひとり目の津野さん。楽譜に書いてある音を丁寧に拾って演奏してくださっているな、という印象でした。また、休符を独自の解釈で入れてくださっていて、第一生命ホールの残響を考えて演奏されたのかなと推測しながら拝聴しました。

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山本さんは、すごく曲の全体像をとらえた演奏というか、スコアリーディングの面でイメージに近いと感じました。

大山さんは、とても瑞々しく軽やかなタッチで、生き生きと表現してくださいました。

塩崎さんの演奏では、ベートーヴェンやショパンという錚々たるクラシックの中にこの曲があると、こんな風になるのか、という発見もありましたし、ダイナミックな演奏という印象です。

金崎さんは、非常に端正な演奏だと思いました。アルペジオとか装飾音符の入れ方が他の方とは違ったんですけれども、そうした解釈も面白いと思います。

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最後の南さんは、「凍てつく火花」というタイトルの通り、この火花のイメージが掻き立てられるような演奏でした。テンポが速すぎても、あとは強弱が強すぎても曲のイメージが変わってしまうのですが、強弱のコントロールやテンポ感、フレーズの作り方、どの面からも素晴らしい演奏をしてくださいました。

ありがとうございます。ではこの「凍てつく火花 ピアノソロのための」という曲について、改めてお伺いさせてください。昨年、片山さんから4分という時間が難しい、というお話を伺いましたが、今年も同じような依頼だったのでしょうか?

室元:はい、4分というご依頼でした。依頼された際、内部奏法を用いないことに加え、できるだけひとつのテクニック偏らないようにということも伝えられました。例えばトリルが得意な方もいらっしゃれば、リズミックな表現が得意な方もいらっしゃるという風に、ピアニストによって得意なテクニックが異なりますよね。偏りなく、またできるだけ多様なテクニックを盛り込むということを意識して作曲しました。

それらを4分の中に盛り込むというのはやはり苦労したところです。当初はパッサカリア、変奏曲にしようという構想もあったんです。でも4分で変奏を盛り込むことは難しく、結果的に、色んな角度から現代的な音響を見せるような作品というところに行き着きました。

どのように曲想を練って行かれたのでしょうか?

室元:今回の作品に関しては、最初にピアノを弾きながら様々な音響を探ってデッサンを描いていきました。そうした中で何か共通して見出せるイメージがないかなと探っているうちに見えて来たのが「火花」だったんです。ですから、音のイメージが最初にあって、最後にタイトルが付いた、という順番ですね。事前のミーティングでもお話したように、僕の中で大切なテーマである「火」のイメージや幼い頃に遊んだ線香花火のイメージなどにも自然につながっていきました。

一般に曲の依頼を頂く際には、あらかじめ奏者や演奏のシチュエーションが想定されています。でも今回は最終的に誰が弾くのかは分からないし、複数の演奏者に弾いていただくということになるという難しさはありました。ただ、第一生命ホールで弾くことは決まっていましたから、強弱や響きについて、このホールを意識したところはあります。実は僕、昔このホールのレセプショニストという形でお手伝いさせていただいていた時期があって、なじみ深いホールなんです。ですから今日の演奏の中で、自分のイメージがぱっと音になって響いた瞬間は、すごく喜ばしいものがありました。

室元拓人さんとセミファイナリストの皆さん

昨年よりも曲の難易度が上がったのでは、という印象がありましたが、意識はされましたか。

室元:そのあたりについては、新曲課題の監修をされている片山さんとも相談したところです。

そうだったんですね。片山さんからもそのあたりをお聞かせいただけますでしょうか。片山さんは2020年からこのセミファイナルにおける新曲課題の作曲家の選定および曲の監修をされていますね。

片山さん(以下、片山):
ピティナと相談して、まず昨年度より日数が長い準備期間が1週間長いこと、去年までは暗譜で弾いた人も半分くらいいたことを踏まえて、意識的に少し難しくしようという指針になったんです。また、新曲課題に取り組んでもらう趣旨として、コンテスタント達が新しい記譜や表現に触れるきっかけになって欲しいということもあります。そういった観点から、今海外で勉強されていて、最前線のものを体感されている、優れた作曲家の室元さんをご提案させていただきました。

今回は暗譜で弾いた方はいらっしゃいませんでしたね。難易度は狙い通りだったということでしょうか。

片山:そうですね、狙い通りと言っていいと思います。皆さん素晴らしい演奏をされていましたが、譜読みからもう一歩踏み込んで、この曲やタイトルからどういう音色や響きが要求されているかを追求して欲しいと感じた演奏もありました。そういった面からしても、課題曲として、ふさわしいものになったと思っています。

同時に、この作品は、長く弾きこんで演奏者独自のイメージや響きを追求していける作品でもあると思います。今日は作曲家の意図が表現できているかということにとフォーカスして演奏を聴かせていただきましたが、コンサートでは作曲家の意図から離れて、独自の解釈を加えるようなこと・・例えばこの火花はネズミ花火をイメージしてみよう、とかね。そういう自分なりの深堀りをしていただきたいですね。

新曲課題曲は、毎年話題になりますし、楽しみがありますね。

片山:そうですね、もう今から来年はどなたに作曲を依頼しよう、と考えはじめています。それはとても楽しい作業です。

私個人の感想ですが、日本的な和声が多用されているわけではないのに、非常に日本的な要素を感じました。武満徹作曲賞を受賞された「ケベス ─ 火群の環」も国東(くにさき)半島のケベス祭をテーマとしたものでしたが、作曲を通じて、日本人独自の感性を表現していきたいという思いがあるのでしょうか。

室元:はい、それは意識しているところがあると思います。今ちょうどお盆ですが、ご先祖がこの時期だけあの世からこの世に訪れて、また帰っていく。祭りも、神さまをこちらの世界にお迎えすることで、翌年の豊穣をもたらすものと捉える。日本人の神と人、あるいはあの世とこの世の境界の捉え方、その根底にある畏敬といったものへの意識はあります。作品を通じて、それが少しでも伝わったのなら、とても嬉しく思います。

室元さん、片山さん、貴重なお話をありがとうございました。
これからもお二人の作品を楽しみにしています!

(文:山平昌子)


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