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特級ガラコンサート演奏曲紹介とショパンコンクールの名演 Vol.2~ノクターン 変ホ長調 Op.55-2

2月11日(火・祝)にせまった特級ガラコンサート「ショパンとシューマン ふたりの天才」の演奏曲目を、ショパンコンクールの名演とともにご紹介するシリーズ、第2弾です。

南杏佳さんのノクターン第13番 ハ短調 Op.48-1で幕を開けたコンサートは、続けて、山本悠流さん(特級銀賞)のノクターン第16番 変ホ長調 Op.55-2へと引き継がれます。

短調で深みがありオペラ・オーケストラ的な響きがするハ短調のノクターンから、長調で広がりがありポリフォニーの芸を尽くした変ホ長調のノクターンへ。1840年を過ぎたショパン後期の奥行きのある対比をお楽しみいただきます。

ハ短調 Op.48-1に比べると、変ホ長調 Op.55-2は、ショパンコンクールでは少し登場回数が少なくなりますが、そのぶん、このノクターンを選んでいるコンテスタントには、コダワリの強い名手がそろっています。まずは、2021年のコンクールから、スペインのマルティン・ガルシア・ガルシア。表情豊かな演奏スタイルの中に、色彩感あふれる音と細かな芸を尽くして、見事に第3位に入賞しました。

マルティン・ガルシア・ガルシア(2021年第3位、第1次予選)

レポーターの飯田有抄さんも思わず「ギャップ萌え」。

もう一人、2010年のコンクールから、ロシアのミロスワフ・クルティシェフをご紹介しましょう。すでにショパンコンクールの3年前、2007年のチャイコフスキー国際コンクールで第2位(最高位)に入賞するなど実力は折り紙付きのピアニストでした。惜しくも入賞はなりませんでしたが、本選まで進み、気品のある凛とした演奏で印象を残しました。2013年には、同じ2007年のチャイコフスキーコンクール・ヴァイオリン部門で優勝した神尾真由子さんと結婚し、日本にも縁のあるピアニストです。

ミロスワフ・クルティシェフ(2010年ファイナリスト、第1次予選)

歴史的なアーカイブからは、1965年に第4位に入賞した、日本を代表するピアニストのひとり、中村紘子さんの演奏を。受賞後は、膨大な演奏歴はもちろん、執筆活動や、浜松国際ピアノコンクール審査委員長・浜松国際ピアノアカデミー音楽監督としての後進の育成など、日本のクラシック音楽の発展に大きな足跡を残しました。

中村紘子(1965年第4位、第3次予選)

同じ1965年に圧倒的な評価で優勝し、現在も世界的に活躍するマルタ・アルゲリッチも、コンクールでこのノクターンを選びました。

公式のチャンネルでリンクできるものがありませんが、のちに録音されたCDからお楽しみください。

マルタ・アルゲリッチ(1965年第1位)

ショパンコンクールでは、過去の優勝者・入賞者が、その後の審査員にたびたび招かれています。中村紘子さんも、マルタ・アルゲリッチも、審査員を務めています。

1980年の第10回コンクールでは、審査員のアルゲリッチが審査結果に対して反論する<事件>が起きました。騒動の中心にいたのは、ピアニストのイーヴォ・ポゴレリッチ(1980年奨励賞)。個性的な演奏に審査員の評価が分かれ、本選への進出を逃しますが、アルゲリッチは「彼は天才」と言い放ったといいます。ポゴレリッチも、このOp.55-2のノクターンをコンクールで演奏しています。コンクールの動画は公式には公開されていないので、ここでも、のちに録音されたCDの音源をどうぞ。

イーヴォ・ポゴレリッチ(1980年奨励賞)

ポゴレリッチがすっかり話題をさらってしまった第10回大会で優勝したのはベトナムのダン・タイ・ソン(1980年第1位)でした。優美さ・繊細さに秀でた彼のピアニズムは、アジアに初のショパンコンクール優勝をもたらしました。
ダン・タイ・ソンは、今では世界的なコンサート・ピアニストであると同時に、屈指の名教授として後進を育成しており、前回2021年大会では最も多くの本大会出場者を指導しました。そのときの記事はこちら。

ショパンコンクールに限っても、2015年入賞のケイト・リウ、エリック・ルー、トニー・ヤン、2021年入賞のブルース・リウ、JJ・ジュン・リ・ブイなどを育てています。

そんなダン・タイ・ソンは、ノクターンを、現代のピアノと、ショパンの時代のピアノ(エラール、1849年)とで演奏する企画CDを発表しています。聞き比べてみると、ショパンが生きていた時代の響きの豊かさを味わうことができます。

ダン・タイ・ソン(1980年第1位) 使用楽器:エラール

ダン・タイ・ソン(1980年第1位) 使用楽器:スタインウェイ

ダン・タイ・ソンも、今や、ショパンコンクールの審査や、国立ショパン研究所のコンサートシリーズ「ショパンと彼のヨーロッパ音楽祭」の常連です。
2023年には、同じコンサートに愛弟子のケイト・リウ、エリック・ルーとともに出演しました。

ケイト・リウ&エリック・ルーは、今年2025年3月に来日し、横浜や東京で、ソロとデュオを組み合わせたコンサートを行います。横浜公演は、親交のある反田恭平さん(2021年第2位)のプロデュース、たのしみな企画です。


すっかり話がそれてしまいましたが、「特級ガラコンサート」でも、今年の特級入賞者の中でも際立つ芸術家肌、山本悠流さんがこのノクターンを演奏します。どんな解釈を見せてくれるのか、ぜひお楽しみに!


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