飯田有抄のショパコン日記43~反田恭平さんのファイナルを心酔エール耳で聴く!
ただいまポーランド時間の22:18。本選初日の超満員のホールからようやく出て、ホテルに戻りました。まだ、興奮が冷めません・・・。
あまりにも美しい4名のファイナルステージ。正直、こんなにファイナルがすでに祝祭的で、全員がキラキラと輝きを放つステージだとは、想像できていませんでした。3次予選までとは打って変わって、登場する奏者は皆どこか晴れやかな表情で、オーケストラとの舞台を心から楽しみにしてきた雰囲気をまとっています。素晴らしい!
反田恭平さんは、本日3番目の奏者でした。
共演は、アンドレイ・ボレイコ指揮、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団です。
実は反田さん、三次予選の最中に会場の中でばったりお会いしたときに話してくれたのが、このオーケストラと指揮者のボレイコさんとは、まさにショパンの協奏曲第1番をツアーで共演した経験がおありだということ。
「協奏曲をまるで交響曲のように振る指揮者もいますが、ボレイコさんは違います。きちんとソリストと一緒に、協奏曲として音楽を作ってくれる素晴らしい指揮者なので、また共演できるとしたら、それは本当に嬉しいですし、楽しみです」
(リハーサル風景)
今夜の演奏でとても驚いたことの一つが、まさにボレイコさんの指揮とオーケストラの演奏が、ソリストによってまったく変わったこと! それも、冒頭のオーケストラだけの序奏から違うのです。リハーサルのときから、奏者と打ち合わせたり、奏者がもっとも力を発揮できるような音楽作りを確認していたのでしょう。なんて素敵な指揮者!素晴らしいオーケストラ!
反田さんの演奏では、オーケストラは輝かしくダイナミックにスタートしました。配信でご覧になった方もよくわかったと思いますが、反田さんとボレイコさんのアイコンタクトの多さは素敵でした! 時にうなづきあったり、微笑みあったり、「一緒にショパンの音楽を語り、歌い、築きあげていこう!」という濃密なコミュニケーション。反田さんはオケから受け渡された響きの中から自分の音を繰り出し、また自分の伝えたいことをオーケストラに音と目線で丁寧に受け渡していきます。第1楽章の後半からは、ピアノとオーケストラとの一体感がどんどん高まっていきました!
第2楽章では、かくも音符の全てに意味を読み取り、そして意味を乗せた独奏はあっただろうかと思われるほど、さまざまに繊細なメッセージをピアノが発し、それをオーケストラがすべて包容するかのように寄り添います。第3楽章の軽やかな音型もひとつひとつの語尾がエレガント。オーケストラとピアノ独奏はもう完全に「大きな一つの楽器」となって、ショパン若き日の協奏曲を輝かしく締めくくりました。
これまで、自身のレーベル立ち上げやオーケストラの創設など、同世代の若い音楽仲間たちの活躍の場を作り、支え、アンサンブルにも精力的に取り組んできた反田さん。音楽作品に対する愛情、そしてミュージシャン・シップを大切にする反田さんの優しく大きな人間性・生き方そのものが、今夜の音楽となって、ワルシャワのホールに響き渡りました。
ピアノパートの最後の一音が終わり、オーケストラが曲を終える前に、がまんできないとばかりに起こった客席からの大喝采! 私には祝福の嵐のように聞こえました。
※記事の速報性を上げるため、リハーサル時の写真を使用しています。
写真:©Wojciech Grzedzinski/ Darek Golik (NIFC)
(ヘッダ写真:マルタ・カルシ/ピティナ)