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もしウル頭銃でルフィが脳挫傷を引き起こしたら
初めまして、地方で理学療法士をしているものです。理学療法士は基本的に病院や施設で働くことが多く、皆様に知られることが少ない職業だと思います。理学療法士や作業療法士、言語聴覚士を幅広く知っていただきたいという思いと、身近な漫画やアニメから、ケガや病気に対して理解を得ていただきたいという思いからこのようなブログを開設させていただきました。
今回は、私が大好きな漫画“ONE PIECE”の世界とリハビリを掛け合わせたIfの世界を描いていきたいと思います。
まず初めに、理学療法士とは
“理学療法士はPhysical Therapist(PT)とも呼ばれます。ケガや病気などで身体に障害のある人や障害の発生が予測される人に対して、基本動作能力(座る、立つ、歩くなど)の回復や維持、および障害の悪化の予防を目的に、運動療法や物理療法(温熱、電気等の物理的手段を治療目的に利用するもの)などを用いて、自立した日常生活が送れるよう支援する医学的リハビリテーションの専門職です。治療や支援の内容については、理学療法士が対象者ひとりひとりについて医学的・社会的視点から身体能力や生活環境等を十分に評価し、それぞれの目標に向けて適切なプログラムを作成します。
理学療法士を一言でいうならば動作の専門家です。寝返る、起き上がる、立ち上がる、歩くなどの日常生活を行う上で基本となる動作の改善を目指します。関節 可動域の拡大、筋力強化、麻痺の回復、痛みの軽減など運動機能に直接働きかける治療法から、動作練習、歩行練習などの能力向上を目指す治療法まで、動作改 善に必要な技術を用いて、日常生活の自立を目指します。”
公益社団法人日本理学療法士協会より引用
と日本理学療法士協会には記載されています。理学療法士は医師の指示に基づき患者様や利用者様にリハビリテーションを提供していきます。
簡単にまとめると、理学療法士は、身体機能の回復を中心にリハビリテーションを行っていく仕事になります。
前置きが長くなりましたが、今回考えていきたいシーンはこちらです。
ワンピース983話でうるティがルフィに対して行った、“ウル頭銃(ウルズガン)”になります!うるティのパキケファロサウルスの能力と武装色の覇気を合わせた技で、これに対してルフィも頭部に武装色を纏い頭突きで応戦していました。
このシーンでルフィが武装色の覇気を纏えずに我々と同じような構造であった場合どうなってしまうのか、またそんなルフィに理学療法士として、どのようなリハビリテーションができるのかを予想していきたいと思います。
~予想される症例”脳挫傷”~
今回ルフィはウル頭銃により頭部外傷を引き起こし脳挫傷(のうざしょう)という診断がついたと仮定させていただきます。
頭部外傷とは、頭に外力が加わることで、皮膚、頭蓋骨、脳の損傷を来してしまう外傷のことを指します。軽度のものはたんこぶ(皮下血腫)で、主に打撲部位の皮膚の中が出血するものです。皆様も一度は経験したことがあるかもしれませんが、自然に治ることが多いです。たんこぶのみの場合は外傷が皮膚までしか届いていないということになります。
しかし、普通の頭突きならまだしも、ウル頭銃の衝撃はこんなものではありません。武装色を纏ったパキケファロサウルスの頭突きは、頭蓋骨や頭蓋内(頭蓋骨の内側)まで届くことが考えられます。
そうなると感がられるのが脳挫傷です。ウル頭銃の衝撃が脳まで届き、脳に損傷やわずかな出血が発生している状態で脳組織が破壊されてしまうことがあります。衝撃を受けた部位の直下にある脳損傷を直撃損傷(coup injury クー インジャリー)といいます。
今回であればルフィは正面から衝撃を受けているので、前頭葉(ぜんとうよう)が直撃損傷にあたります。また、衝撃を受けた部位と正反対側の脳も頭蓋骨に強くぶつかることで対側損傷(contrecoup injuryコントラクー インジャリー)という脳挫傷も同時に起こり、今回のケースでは、後頭葉(こうとうよう)にあたります。
脳挫傷は一般的に直撃損傷が後頭葉や頭頂葉(とうちょうよう)に多い傾向があります。後頭葉や頭頂葉の外傷では、対側損傷が多くみられます。しかし、今回は前頭葉に直撃損傷が起こっています。この場合は直撃損傷のダメージが多く残ります。脳の細胞は一度ダメージを受けると再生はしないため、前頭葉に後遺症が出ることが予測されます。
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~ルフィの前頭葉が損傷してしまったら起こりえること~
前頭葉の働きは、人の行動のプログラミング、行動の抑制(ブレーキ)、感情のコントロール、意欲や発動性、時間も見積もり、行動の先読み、注意や集中等に加えて運動機能を司っていいます。
これらの機能が低下するとルフィがどうなってしまうのか。
① 遂行機能障害
これは、物事を論理的に考え、計画し、問題を解決、推察し行動することが出来なくなり、指示されたこと以外行動ができないことを遂行機能障害といいます。
② 意欲と発動性の低下
何かを行うための意欲、やる気が起きない、行動できない会話ができない、人に関して無関心になることが起きることが予測されます。
③ 脱抑制、易怒性
脱抑制とは体の動き(静と動)や自分の感情のコントロールが難しくなります。普段優しかった人が急に起こりやすくなったり、体のコントロールが思うようにいかなったりします。
④ 注意障害
表情の変化が乏しくなり、集中が続かない、落ち着きがなくなる、忘れっぽくなる、外的な刺激から自分に必要なものを取捨選択することが難しくなります。
⑤ 運動機能障害
運動の細かいコントロールやプログラミングができない、運動麻痺(手足が動かしにくくなる)が出現する可能性があります。
ルフィは、980話にてお玉がお腹いっぱいごはんを食べられていないのに、カイドウの部下がおしるこを床にぶちまけているところを見つけ激怒していました。これは、広い会場からおしるこをぶちまけている部下の情報を選択(④)し、お玉は何も食べられるものがないのに粗末にしているという問題点を推察(①)し、カイドウの部下に対して自分から行動を起こし(②)、体と感情をコントロールしながら(③)、象銃(エレファントガン)をぶつける(⑤)という流れになっています。
もし、ルフィの前頭葉が脳挫傷により損傷してしまったなら、おしるこを被った瞬間におしるこに対して激怒することが予測されます(①③)。論理的に考えることができないため、食べ物を粗末にしていることと、お玉がお腹を空かせていることを結び付けられません。ただ、おしるこが自身にかかることの不快感により声を荒げて起こる可能性があります。また、大勢人がいる中から騒ぎを起こしている人物が特定できなかったり(④)、見つけたとしても無関心になったりすることがあります(②)。自分では行動を起こすことができないので、近くにいたゾロに命令されて何とか動き出せたとしても運動の調整やプログラミングができないため、ゴムのように手足を動かすこと、武装色の覇気を纏うことができない、相手に攻撃を当てられないといったことが考えられます(⑤)。
~ルフィに理学療法士としてリハビリテーションをするなら~
前頭葉機能において意欲の低下が大きな問題になることが多いです。意欲の低下が起こったルフィにカイドウを倒すため、海賊王になるためにリハビリをしましょうと声をかけてもやらなくていい、今は眠いから放っておいてくれと言われるかもしれないです。何度も声をかけているとうるさい、向こうへ行けと怒られることもあるでしょう。そのため、現在日常生活で困っていることはないか、やりたいことはないか確認をしていきます。やる気を失ったルフィに大きな目標を掲げるのではなく、まずは小さな目標をクリアしていき、成功体験を積ませていきたいです。また、感情のコントロールや行動の制御をしてもらうために、目の前の状況を一つ一つ整理してお玉が食べ物を食べられていないことと、その原因や、部下が食べものを粗末にしているという現状をマッチングさせていきます。
運動機能に対しては、初めはゴムゴムのピストルを模擬的な動かない標的に当てる練習から行っていきます。当たったときには、褒めて褒めて、褒めまくり、意欲を掻き立てます。慣れてきたら動く敵に、次は同様の手段でゴムゴムのガトリングなどのコンビネーション技を練習していきます。
ルフィには、海賊王になってもらわないといけないので以上のような関わり方ができたらと思っています。
私だったらこんなリハビリをします!
このシーンどうですか?
等お待ちしております!