脊髄損傷と合併症

原因

外傷性:交通事故・転倒転落・スポーツ
遅発性:腫瘍・後縦靭帯骨化症・脊髄空洞症

分類

完全損傷

脊髄ショック期を除いて、肛門周囲(S4/5領域)の運動・感覚が消失します。

不完全損傷

  • 中心性脊髄損傷

  • 脊髄半側症候群(ブラウン-セカール症候群)

  • 前脊髄動脈症候群(前部脊髄損傷)

  • 脊髄円錐症候群

  • 馬尾神経症候群

  • 後索症候群

  • 側索症候群

  • 横断性脊髄炎

脊髄ショック

重度の脊髄損傷を受けた際に脊髄反射が一過性に消失した状態
期間は受傷直後から数日、数週間と言われています。

症状

  • 弛緩性麻痺

  • 反射消失

  • 運動・感覚機能消失

  • 自律神経機能消失

  • 尿閉(排尿困難)

  • その他合併症

完全損傷の合併症

自律神経過反射

原因:T5-6損傷以上で起こります。膀胱の充満、便秘、褥瘡などがトリガー(誘発因子)になることが多いです。
症状:血圧上昇、頭痛、顔面紅潮、徐脈、損傷レベルより上の発汗、鼻閉、呼吸困難、瞳孔散大
対応:排尿排便コントロール、褥瘡の予防

起立性低血圧

原因:T5-6損傷以上で腹部・下肢の血液貯留により起こります。血管運動障害、筋ポンプ作用障害、圧受容器反射の低下が原因となります。
対応:腹帯・下肢弾性包帯で血液の貯留を防ぐ、立位練習

呼吸障害

原因:頚髄損傷による呼吸筋(横隔膜、外肋間筋)の麻痺でおこります
症状:外肋間筋による胸郭の拡張が行えず、拘束性換気障害を起こします。沈下性肺炎
対応:無気肺の予防、残存呼吸筋強化、胸郭ROM、気道貯留物の排出

褥瘡

原因:感覚麻痺により皮膚異常を感じることが出来ずに、皮膚に持続的に圧迫・湿潤・摩擦・不衛生が加わることで起こります。
好発部位:骨突出部に起こります。画像問題で出されることもあります。背臥位における、後頭部や肩甲骨、仙骨、踵。側臥位における大転子、腓骨頭、外果など
対応:2時間ごとの体位変換、体圧分散マットレス

異所性骨化

原因:完全にはわかっていませんが、下記のことが言われています。特に不適切なROMは国試で出されることがあります。

  1. 炎症反応: 脊髄損傷は強い炎症反応を引き起こすことがあり、この炎症が異所性骨化の引き金になる可能性があります。損傷によって放出される炎症性サイトカインや成長因子が、周囲の軟組織で骨形成細胞の活動を促進すると考えられています。

  2. 物理的刺激: 脊髄損傷後に行われる不適切なリハビリテーションや過度の圧迫などの物理的刺激が、骨形成を促進する可能性があります。これは、刺激された組織での修復過程が過剰に働くことによるものかもしれません。

  3. 神経因子: 脊髄損傷は神経系の機能障害を引き起こし、これが組織の修復プロセスに影響を及ぼす可能性があります。損傷部位から離れた場所の神経支配の変化が、骨形成を引き起こすかもしれません。

  4. 血液循環の変化: 脊髄損傷により血流が変化し、特定の領域への栄養素や酸素の供給が変動することがあります。この変化が骨組織の形成を促進する可能性があります。

好発部位:股関節が圧倒的に多く、大関節周囲の軟部組織に発生することが多いとされています。
対応:愛護的なROM

骨萎縮

原因:2か月から一年で発症します。血液中のCa濃度を増加させ、尿路結石の原因になることもあります。

  1. 骨形成の抑制と骨吸収の増加: 脊髄損傷後、骨形成が持続的に抑制され、骨吸収が慢性段階で高まります。この不均衡が骨減少に大きく寄与しています(Lin et al., 2015)。

  2. 急速な骨減少と骨強度の低下: 脊髄損傷は、特に大腿骨近位部で、骨減少を急速に引き起こし、捻れ剛性と強度が低下します(Edwards et al., 2014)。

  3. 骨リモデリングの非連結化: 骨リモデリングプロセスが、骨吸収に有利な方向で非連結化し、損傷直後から始まり、約1〜4ヶ月でピークに達します(Maïmoun et al., 2011)。

  4. 複数のシステムの関与: 骨格系、中枢および末梢神経系、血管系、骨リモデリングユニット、カルシウム代謝ホルモンなどの局所因子を含む様々なシステムと構造が、脊髄損傷関連の骨減少に関与しています(Alexandre & Vico, 2011)。

  5. 骨吸収の増加と骨形成の減少: 脊髄損傷は、骨吸収の増加と骨形成の減少により、急速な骨減少を引き起こします(Morse et al., 2008)。

  6. 慢性炎症と神経信号の喪失: 慢性炎症と神経信号の喪失が、脊髄損傷で経験される骨減少を悪化させます(Metzger et al., 2019)

関節拘縮

脊髄損傷においては、その損傷高位で残存する筋が異なります。拘縮は、麻痺によって主動作筋と拮抗筋のバランスが崩れ、主動作筋の作用方向に拘縮が作られることが分かっていれば、一つ一つを丸覚えしなくてもいいです。

  • C4損傷:僧帽筋、胸鎖乳突筋、肩甲挙筋、斜角筋などが、残存しているので肩甲骨挙上位になります。

  • C5損傷:三角筋、上腕二頭筋などの機能が残存するので肩外転位、肘屈曲位、前腕回外位になります。 肩甲骨挙上はそのままです

  • C6損傷:長短橈側手根伸筋が残存するため、手背屈位になります。肩外転位、肘屈曲位、前腕回外位はそのままです。

  • C7損傷:総指伸筋、小指伸筋が残存するため、MP伸展位となりますが、テノデーシスアクションでIP屈曲位となります。

排尿障害

中枢神経や末梢神経の損傷によるおこる排尿障害を神経因性膀胱と呼びます。脊髄損傷ショック期では尿閉が起こります。排尿中枢であるS2-4を基準にそれより上の脊損を核上型、S2-4の脊損を核型、S2-4末梢神経障害を核下型といいます。すべての型で尿意を感じなくなります。

核上型:上位ニューロン障害により、排尿反射中枢の抑制が効かない状態になっています。尿が500ml程度溜まると、排尿反射が生じ、自動的に排尿されます。そのため、反射膀胱、自動膀胱、痙性膀胱と呼ばれています。T5-6以上の脊損だと、膀胱に尿が溜まると自律神経過反射が起こります。尿意はありませんが、自律神経過反射が尿意の代わりに尿の貯留のサインとなり、このことを代償性尿意といいます。

核・核下型:下位ニューロン障害により、排尿反射中枢が機能しない状態になっています。核上型とは反対に、無緊張膀胱、自律膀胱、弛緩性膀胱と呼ばれています。正常だと、排尿反射が起こるため、膀胱容量は500mlとされていますが、排尿反射が起こらない核・核下型だと物理的限界容量である600~1000mlの貯留が可能になります。内圧が高くなると、溢流性尿失禁が起こります。

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