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【精神科専門医試験対策note】子どもの統合失調症

はじめに

このページでは、精神科専門医試験対策として、
1.子どもの統合失調症の教科書的事項の整理
2.過去問の解答・解説
とを行います。

 統合失調症は、主に青年~成人期にかけて発症する精神病性障害です。統合失調症自体の有病率は、報告により多少の差はありますが、人口の1%、ないしややそれを下回る程度で報告されており、けして稀な疾患ではありません。一方で児童期発症の統合失調症(Childhood-Onset Schizophrenia: COS)はとても少なく、とくに12歳以前の発症例はきわめて稀であるとされています。海外のコホート研究からの知見も踏まえると、COSの発生率(注:有病率でない)は0.04%に満たないとされるのが一般的です。

しかしながら、その反面、児童思春期には、幻覚・妄想といった精神病症状を主訴とする児童が多く認められます。これらの精神病症状は統合失調症に特異的なものではなく、
1.ストレスに曝露された神経発達症児において生じやすいこと
2.気分障害や神経症性障害、解離性障害をはじめとする様々な精神障害を有する児にも生じえること

を考えれば、そのような児が多いことには不思議ではありません。加えて、一般人口内でも、幻聴などの精神病体験が一過性に存在したことのある児童は多く、日本国内の調査においても一般中高生の約1割が過去に幻聴体験を有していたことが分かっています。したがって、児童思春期の統合失調症の診断にはある程度の慎重さが求められます。

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診断・臨床的症状の特徴

 COSの診断は成人の統合失調症診断に準じて行われます。ここではDSM-5の診断基準の抜粋引用を下記に記します。

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その上で、COSの診断にあたって注意すべきことを2つ指摘すると、
1.精神病症状の表現型が成人と異なることがある
2.神経発達症による症状修飾の可能性
これらをそれぞれこれから説明します。

1.COSの精神病症状の特徴
 まず総論的事項として、成人の統合失調症とは違って、COSでは幻覚や妄想の対象や内容があまり明確ではないケースがあります。すなわち、幻覚は要素的であいまいな表現となったり、妄想も体系化されていないものとなったりします。

 COSにおける幻覚の特徴として、幻聴が最も頻出であるというのは成人と同様ですが、その他の幻覚も少なからず存在するというのが特徴です。以下にその特徴を箇条書きで列挙します。
・幻視の頻度も(成人に比して)多い。
・幻視は幻聴と併せて認められることが多い。
・幻視の割合は年齢が低くなるほど多くなる。
・幻触や体感幻覚の頻度も(成人に比して)多い。

2.神経発達症による症状修飾を忘れない
 DSM-5診断基準のF項目にも記載されているように、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)の病歴があれば、統合失調症の診断にはより慎重にする――すなわち、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加えて少なくとも1カ月存在する――必要があることが明記されています。これは操作的な基準ではありますが、具体的にはどういう背景があるのでしょうか。

 ASD児が「心の理論」を通過し、他者から見た自分という視点を獲得したのちにこれまでの生活で経験していた体験が決して自分にとって快いものではなかったと認識することがあります。そのような体験は被害関係念慮・被害妄想へと進展していく可能性が指摘されています。またASD児においては自閉的ファンタジーへの没入により独語や空笑が見られることも、更に過去の記憶がありありと想起されるタイムスリップ現象(※)が妄想と誤認されることもありえます。ASD児に統合失調症が併存するのは高く見積もっても数%程度であり、多くはストレスに対する一過性・反応性の精神病症状であると考えられます。

 このようにASD児に見られる幻覚・妄想をアセスメントするにあたっては、その縦断的経過を慎重に見ながら判断する必要があります。

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疫学的事項の整理

 COS自体が大変まれな病態であるため、その疫学的事項についてわかっていることも報告によって一致しないことも多いことには注意が必要です。その中でも、
1.性差
2.予後
の2点について取り上げます。

1.COSの性差
 COSには性差はないと考えられています。この点、ASDとは大きく異なる点であります。

2.COSの予後について
 COSは、成人発症の統合失調症とくらべても不良な経過をたどりやすい。これは神経発達障害仮説・脆弱性ストレスモデルなどの従来の統合失調症の発症を巡る仮説を振り返ってみても理解しやすいと思われます。まとめてみると、
・COSは成人の統合失調症と比して概して予後不良
・機能水準の低下は初発後数年にわたり進行する (以降も経時的に進行するという知見はない)
という理解が一般的です。

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COSの治療について

 COSに対する薬物療法的介入は、成人に準じて行われます。COSに対しても成人と同様に抗精神病薬が使用されるが、小児への使用にあたり充分にエビデンスの揃っていない薬剤があること、適応外使用になってしまうこと、用法用量が成人よりも細やかな調整が必要になりえることなどには留意が必要です。
 抗精神病薬は非定型抗精神病薬のなかから選ばれることが一般的で、患児の状態に応じて適切に使用がなされるべきです。使用される頻度が多いのは、リスペリドン、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピンといったもので、定型抗精神病薬が1stチョイスとなることは少なくなってきました。治療抵抗性の症例に対してはクロザピンが検討されえるのは、成人例と同じです。

■ 精神科専門医試験過去問 解答・解説 ■

 以降は、精神科専門医試験で過去に出題された【子どもの統合失調症】についての問題を列挙し、その解説を付記します。いままでのnoteを一読いただければ、解きやすくなると思われます。
収録問題:2-96、3-74、6-70、9-51、10-20

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【解説】COSにおける一般的事項が問われています。
×a COSでは幻視が見られることも多い。
×b COSでは一般的に男女の精査はみられないとされる。
×c クロザピンは難治例にもちいられ、第一選択薬にはなりえない。
×d 水準低下は生じる(が一般に最初の数年間以降は固定される)。
〇e Kannerの早期幼児自閉症の概念と同一視される時代が続いた。もしも歴史的事項を知らなかったとしても、a~dが×だとわかると、自動的にeが正答であるとわかります。
【正答】〇e

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【解説】COSにおける一般的事項が問われています。
〇a 幻視は(成人の統合失調症に比して)多くみられる。
×b 若年発症は予後不良である。
×c 児童期発症はまれである。
×d 薬物反応性は一般的に不良である。
〇e 症状の表現型が横断面で似通ることもあり、診断にあたっては慎重になる必要がある。
【正答】〇a、e

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【解説】COSにおける一般的事項が問われています。
〇a COSでは成人と比して妄想構築は少ないとされるが、出現率が低いということではない。
×b、〇c 幻聴を含めた幻覚はおおくみられる。成人でもCOSでも、幻覚でもっとも出現するのは幻聴である。成人に比してCOSでは幻視(や幻嗅)の出現率は高い。
〇d 予後は不良。
×e あきらかな男女比の偏りはないとされる。
【正答】×b、e

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【解説】COSにおける一般的事項が問われています。
×a 男女比は一定しないが大きな偏りがないというのが一般的。
〇b 前駆症状として強迫症状、チック、不安抑うつ、など多彩で非特異的な症状が挙げられている。
×c クロザピンは難治例への使用となる。
〇d 成人例よりもCOSの方が幻視の出現率が高いとされる。
×e COSの方が成人に比して妄想は体系化されない。
【正答】〇b、d

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【解説】COSにおける一般的事項が問われています。
×a COSの、特に10歳以下の発症は極めてまれである。
×b 幻視を含め、すべての種類の幻覚が高率に認められる。
×c 妄想構築は稀である。
〇d 症状の表現型が多彩で曖昧であることが多く、気分の問題が前景化している場合などでは、双極性障害との鑑別が困難になりえることもある。
〇e 幻聴は人間や動物、奇妙な声などが多いともされるが、幻聴内容は不鮮明なものや一過性のものが多いともされる。
【正答】〇d、e

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