輪廻転生 小説編

登場人物紹介

零:この物語の主人公で神剣を持った霊能力者。
享年60歳。

案内人:閻羅十王の部下。
死んだ人間が迷わないようにあの世に送り届けるのが仕事。

役人:三途の川において死後の手続きを行う。
閻羅十王の部下。

渡し守:三途の川を渡る死者の案内役。
死者の生前の功徳によっては船で渡ることを指示する役割にある。

鬼(獄卒):閻羅十王の部下で地獄の責め苦を担当する。
俗に地獄の鬼と呼ばれる存在だか規律がとても厳しく、その見かけとは裏腹に罪人以外にはとても優しい。
たまに間違えて三途の川にやってきた、まだ生きている者を恐ろしい形相で追いかけてこの世に追い返す役割を担っている。

閻羅十王:地獄を統括する十人の王。
秦広、初江、宋帝、五官、閻羅、変成、泰山、平等、都市、五道転輪の十王。
その審判は公正無私にして一切の情と言うものはない。

菩薩:この世と死後の世界を歩いて死者を救済する役割にある。
その人の功徳によって見える姿が全く変わってみえるという。
 

 輪廻転生 ①臨死体験

 ・死相

 
 ピッ・・・・ピッ・・・・ピ・・・・。

 医師「そろそろまずいかもしれない。
 ご家族にご連絡をするように」
 看護師「わかりました」


 零(ああ、ようやく終わりを迎えることになるのだな)


 ピッ・・・・ピッ・・・・・ピッ・・・・。


 零(長かった人生だったな・・・・)

 
 ピッ・・・・ピッ・・・・・ピッ・・・・。


 零(まあでも振り返ってみるとそれなりに良い地名製だったのかもしれない・・・・)


 ピッ・・・・ピッ・・・・・ピッ・・・・。


 脈拍を計る、無機質な機械の音が病室に響き渡る。


 ピッ・・・・ピッ・・・・・ピッ・・・・。

 
 零(もうじき終わりを迎えると思うと・・・・なんだかあっけないな・・・・)


 医師「死相が出ている。
 長くはないだろうから最後のお別れを済ませられるように手配をしておいて欲しい」
 看護師「もうじきご家族がこちらに到着されます」


 ピッ・・・・ピッ・・・・・ピッ・・・・。

 零(遅いな・・・・まだこないのか・・・・。
 もう待ちわびたよ・・・・)

 
 ピッ・・・・ピッ・・・・・ピッ・・・・ピッ・・・・ピーッ!! 
 医師「まずい!!心停止確認!!心臓マッサージ!!」
 看護師「はい!!」
 医師「電気ショック用意して!!」
 看護師「もう用意してあります!!」
 医師「ご家族が来るまで持ちこたえてくれ!!」


 零(はは・・・・もう十分だよ・・・。
 長く生きたよ・・・・)

 
 零(もういいだろう・・・。
 もう、死なせてくれよ・・・)


 医師たちが懸命に蘇生処置を施していくその最中にスッと、病室の扉が引いた。
 いや、実際には扉は開いていなかった。
 黒服を着た性別不明の人物が病室に入ってきた。
 案内人「お疲れさまです」
 その人物は既知の人に話しかけるようにニコニコと笑って言った。
 零(・・・・お迎えか?)
 案内人「はい、お迎えに上がりました」
 軽く会釈をした。
 零(長かったよ・・・・。
 ようやく、離れられるよ)
 案内人「いえいえ、まだあなたは死んでいませんから」
 零(どういうことだ?)
 案内人「まだ死んでいない人をお迎えに上がるわけにはいきません。
 なのでまだ待機させていただきます」
 零(まだ、かよ・・・・。
 もう、いい加減いいだろう?)
 案内人「いいえ、まだ天命を全うされていませんからね。
 ですがそこからちょっとだけ、お出かけすることはできますよ?」
 零(そうか・・・。
 じゃあ、このまま、出かけてみようか・・・)
 案内人「かしこまりました。
 本当は規約違反なんですけどね」
 苦笑いをしながら言った。
 医師や看護師たちが懸命の救命措置を行っている中、スッと立ち上がった。
 案内人「大丈夫ですか?ふらつきませんか?」
 零「ああ、大丈夫だ・・・・ちっきしょう・・・やっぱりフラフラするな・・・・。
 長い間ベッドで寝ていたせいだ」
 案内人「すぐになれますよ。
 それにしても・・・あなたくらいですよ。
 終わりの間際に出かけたいなんて言われる方は」
 苦笑いを深めた。
 零「ずっと病室に縛られていたんだ。出かけてもいいだろうが」
 案内人「はいはい。
 それではお出かけしましょうか。
 まずはどこに行きますか?」
 零「そうだな・・・このところ病院食ばかりで飽きたから何かうまいものが食べたい。
 案内してくれないか?」
 案内人「お元気な方だ。
 普通ならご家族に会いに行くと言われますよ?」
 零「幽霊になって会いに行ったらみんなひっくり返るぜ!
 それにどうせもうじきこっちに来るんだ。
 それまでに出かけておくのが良いってものよ」
 案内人「まあ、遺産相続やお葬式などで揉めますからね・・・」
 零「好きなだけ揉めてもらうさ。
 連中ときたらこっちが聞こえているのを知らないで金の話ばかりするからな。
 飽き飽きだ」

 ・お迎えとお葬式

 ピッ・・・・ピッ・・・・・ピッ・・・・ピッ・・・・ピーッ!!

 医師「13時25分、死亡確認」
 看護師「・・・お疲れ様でした」
 看護師が慣れた様子でテキパキと身体に繋がれていた機械を外していく。
 零「おう、お疲れ」
 そのすぐ傍で自分の身体から機械を外されていくのを本人がみていた。
 零「ようやくお役御免になったな」
 案内人「あなた位ですよ、そんなことを言うのは」
 苦笑いを浮かべながらその人の傍に立っていた。
 零「おう、早いな、もう来ていたのか?」
 案内人「放っておくとどこにいくのかわかったものではないから絶対に目を離すな!と閻羅十王様から厳命されておりましたので」
 零「・・・・随分とまあ酷い言われようだな」
 呆れているのか、困っているのか、複雑な顔になった。
 零「それで?さっさとあの世に連れていくかぃ?」
 案内人「通例通り死後の『お見送り(故人がこの世に未練を残さないための儀式)』をするようにと言われております。
 三日から一週間ほどこちら(この世)に留まることが許されておりますが、どうされますか?」
 零「そうだな・・・。ま、自分の葬式くらい見てから行くか」
 案内人「ではそのように取り計らいます」
 遺族が最後の別れをする中、振り返ることなくそっと病室から出て行った。

 僧侶「南無阿弥陀仏・・・・」
 零「なんだかねぇ~陰気臭くていけないね」
 ウンザリしたかのように言った。
 案内人「皆さん大体こんなものですよ。
 あまり文句を言う事はないのではありませんか?」
 零「そうはいってもなぁ・・・・。
 陰気臭いのは嫌いなんだよ。
 どうせならヘビメタ系の洋楽かクラシックでも流せと遺言しておけば良かったぜ」
 僧侶の読経が流れる中、次々と弔問客が神妙な顔つきで焼香をしていく。
 案内人「あなたらしいですね」
 笑顔で言った。
 案内人「そろそろ行かれますか?」
 零「そうだな、最期にちょっとだけ挨拶をしてきていいか?」
 案内人「・・・ご随意に」
 にっこりと笑って言った。
 零「ありがとうよ」
 それまでの青天から一気に雲が陰り、落雷を伴う豪雨になった。
 まるで別れを惜しむかのような雨だったと葬儀の参列者は言ったという。
 

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