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不登校の親×依存症臨床家 対談「ゲームとどう向き合うか」

不登校の親であり不登校支援をする長村さんと、依存症支援に携わる阿相さんに、”ゲーム依存”をテーマに対談していただく機会を設けました。二人の異なる立場の心理専門職が語り合い、多角的に”ゲーム依存”について深掘ります。
インタビューは、中高生対象に心理学ワークショップを提供するプシケメンタルスクールの松尾が行います。保護者の方の解決の糸口を得るきっかけとなることを願います。

自己紹介 

松尾:この機会を持てたこと感謝申し上げます。まずは、簡単に自己紹介をお願いできますか?
長村:私は児童相談所やNPO法人で、相談員として不登校の子どもやその親の支援をしてきました。現在は私立大学の学生相談室でカウンセリングをしています。5年前、我が子が不登校となり、心理支援職でありながら、同時に不登校の親という当事者の立場を経験しています。

阿相:心理専門職として、医療領域で様々な依存症・アディクションの回復支援に携わりつつ、学校領域でも多様な相談を受けています。
松尾:依存症と言っても様々ですが、ゲームをなかなかやめられないご相談も受けられていると伺っています。
阿相:年々増えてきたような印象がありますね。


わたしとゲーム

松尾:今回は、ゲームがテーマですが、お二人は、ゲームを普段されますか?好きなゲームや思い出のゲームはありますか?
阿相:小学生高学年頃からRPGやFPSなど様々なジャンルのゲームをしてきましたが、テレビゲームが中心でした。高校生の途中から卒業しましたけど、大人になってからオンラインでPCゲームやスマホゲーム、PS4のゲームなどにハマることが度々ありました。全く知らない人と繋がって、対戦や協力プレーができるようになったことが、ハマりやすい要因でした。
長村:私もゲームが好きで、広く浅くやりましたけど、中でもRPGにハマりましたね。探索していくうちに物語が紡がれて、どんどん深まっていく感覚に没頭しました。社会人になってからは、細切れの時間で出来るパズルゲームに熱中しました。ゲームを有利に進めるために、課金もしました。楽しくてやめられないのに加えて、「あと少しでクリアできる」というゲームのギミック(仕掛け)に影響されていました。今もゲームは大好きですが、最近は家事と仕事が忙しく、スマホを買い替えたのをきっかけにやめています。
松尾:ゲームに取って代わるものが現れたり、もっと夢中になれたり、あるいは真剣にならざるをえないものが台頭してきたということかもしれないですね。私は、操作が下手すぎることもあり、没入したことはありませんでした・・・。

不登校とゲーム

松尾:長村さんのお子さんが不登校だった時期があるとのことですが、お子さんがゲームがなかなかやめられないということもあったでしょうか?
長村:ありましたね。今振り返るとゲームに親しむのには段階があったように思います。最初は、学校に行けないという不安な気持ちを紛らわせるためにゲームをしていたと思います。親としては、リラックスになるのならという気持ちで許可したんですけども、だんだんゲームで遊ぶ時間が長くなってきたり、時間帯が遅くなってきたりして、二つの気持ちで葛藤するようになりました。ゲームをしている間は辛いことを忘れることができるのかもしれないから見守ってやりたいという気持ちと、これを続けていくと我が子はどうなっちゃうのかなという不安の、両極の間で揺れて辛かったのを覚えています。
松尾:応援したい気持ちと、強まっていく不安との葛藤。お子さんの様子を見ていてとても辛い気持ちになられただろうと思います。その後どうなったのでしょうか?
長村:長い期間を経て、紆余曲折はあったんですけども、とにかく「ゲームが与えてくれるもの」について話し合いました。私自身、ゲームが大好きなので、頭ごなしに制限する方法ではなく、ゲームのどの感覚や刺激が楽しいのかというところについて、まず話し合いました。
松尾:ゲームの楽しさについて同じ目線でお子さんとお話しをされたということでしょうか?
長村:はい。子どもがハマっているゲームのソフトの内容について一緒にやってみて、その面白さを教えてもらったりしました。楽しさやメリットを理解する一方で、ゲームを続けさせる仕組みの上手さにも気づきました。子どもの夢中な様子を見て、やっぱりのめり込みすぎているなというような印象もあり、これは依存に近いんじゃないかなと不安に思ったりして、受け入れるのにすごく難しい部分もありました。

依存症か否か

松尾:好きでハマっているのか、依存症なのか、そこの境目についてよくご質問に上がると思うのですが、そのところについて阿相さんからお話しいただけますか?
阿相:大事なポイントだと思います。まず、一般的に、精神疾患としての病かどうかの違いを簡潔に述べるとすると、主には、自分や他者が困り、仕事や学校、日常生活など社会生活に支障をきたしているかどうかがポイントになると思います。依存症で言えば、それに加えて、自分自身で減らしたり止めたりといったようにコントロールができるかがポイントになります。
松尾:そうすると、夜遅くまでゲームをやっていて、もし寝るのが遅くなって朝起きられず、学校に行けなくなっていたとしたら、日常生活に支障をきたしているということになりますが・・・
阿相:ただ、親御さんが依存症か否かにこだわり過ぎることには、注意が必要です。
松尾:詳しく教えてください。

依存症か否かという問いの落とし穴 診断の先

阿相:まず、依存症か否かを一番気にしているのは誰でしょうか。お子さん本人が依存症なのかどうか気にしているのか、それとも親御さんが気にしてるのか。お子さん自身は問題意識を持っていないことが多いため、後者が圧倒的に多いです。そうしたなか親御さんが強引に医療機関へお子さんを連れていくと、問題解決どころかお子さん本人と対立してしまうこともあります。そこでお子さんが依存症だと診断を言われたとしても、お子さんとの信頼関係が崩れてしまい、ますます困ってしまわれる親御さんは結構多くみかけます。
松尾:診断が出ることは解決ではないですものね。依存症ではないと言われたら言われたで、途方に暮れてしまうかもしれません。ただ、どうしても、気になる親御さんの気持ちも、無理ないと思います。
長村:私は、当時、元の生活サイクルに戻す見通しがつかないことが不安でした。この仕事をしていても、具体的にどんな治療があるのかとか、最新の情報があまりなく、不安でした。
松尾:診断のその先は、どういった道があるのでしょうか?
阿相:お子さん自身の治療へのモチベーションの程度や、日常生活への支障度、緊急性の度合いによって、その先の対応は異なってきますが、依存症専門医療機関であれば、例えば、集団認知行動療法や集団療法などを通して、ゲームに対する考え方やゲーム以外の行動の増やし方、ストレス対処法などを学べる教育プログラムを行う場合が多いです。また集団で行われることが多いので、同じ問題で悩む当事者同士が話し合い、理解を深めていけます。ただ、残念ながら今のところ、ゲーム依存症専門医療機関は少ないのが現状です。そうしたなか、国立青少年教育振興機構と神奈川県にある依存症対策全国拠点機関の久里浜医療センターが協力し、インターネット依存に対する治療キャンプを開催していたりします。ネットやゲームがない環境下で、自然や人との関りも通して教育プログラムを受けられるようです。

子どもが受診できない場合はどうすれば・・・?

松尾:確かに、あまり教育プログラムのことは知られていないかもしれませんね。ただ、ご本人が受診されてこそだと思います。ご本人が来れない場合はどうしたらいいんでしょうか?
阿相:依存症の医療機関であれば、多くの場合、家族相談もあるので家族だけが相談しに行くのもよいと思います。また、今は依存症に対する国の取り組みも盛んになってきていて、アルコールや薬物、ギャンブルがメインになってしまうかと思いますが、各都道府県にある精神保健福祉センターでは、依存症相談窓口が設置されています。依存症の家族教室も開催されているところもあるので、同じような悩みを抱える家族の声を聴けたり、お子さんとの関わり方について相談できると思います。

家での関わり方は?

長村:治療法と並行して、家での子どもとの具体的な関わり方を知りたいという思いがありました。当時、ネット検索をしても、時間管理や生活リズムを整えましょうというような記事はたくさん出てきましたが、子供にどんな声かけをしたらいいかとかというような情報が一切ありませんでした。「こんなふうに声をかけたらいいよという助言が欲しい」、「他の方はどうしてるんだろう?」と、思って過ごしていました。
松尾:いくら検索しても出てこなかったっていうことでしたが、どのように関わられたのでしょうか?
長村:私の場合、いろいろと話しかけてみましたが、結局効果的だと感じたのは、子ども自身が「どうありたいか」「どう過ごしていきたいか」という話だったと思います。本人も、睡眠不足のまま体をどんどん悪くしていきたいのかというと、それは違っていて、でも結局は不安な気持ちを埋めてくれるゲームに頼っている感じでした。今の身体や心の様子や、いいなと思う健康状態はどんなものなのかについて、繰り返し話し合いました。
松尾:確かに、どうありたいかが大切ですね。それを話し合うのに、話の持ち出し方や引き出し方が難しいだろうなと思いましたが、何か工夫されたことはありましたか?
長村:私自身ゲームが好きなのもあり、ゲームを悪者にしないようにしようっていう話を子どもと何回もしたように覚えてます。ゲームを開発する人たちの熱意や、ゲームができるまでのプロセスを私はとても大事に思っているので、子どもと一緒に開発した人たちの苦労や夢についても話し合いました。ゲームを開発する人も、決してユーザーに健康を害して欲しくて作ったわけではないですもんね。だけど、このままだと、ゲームのせいで体調が悪くなってしまったようになるよね、と。頭から否定するのではなく、あくまでも、ゲームは楽しんでするものだという認識で話し合ったと思います。
阿相:先ほど話した通り、親御さんが、病かどうかの確認を焦って優先してしまい、手段が目的化してしまうことが懸念点です。診断はあくまでも手段であって目的ではないと思います。ですので、まずはゲームを頭ごなしに否定せずに信頼関係を構築し、あえてゲームのメリットも共有し、どうしたらよいかということを一緒に話し合うことは、いい案だと思います。

ゲームを悪者にしないことから始める話し合い

松尾:ゲームを悪者にしないという認識、面白いなと思いました。確かにゲームを悪者とすることで見えなくなるものがありそうですよね。
長村:友人関係とかで悩んだ時も、友達が悪いというばかりではなくて、友達の言った言葉に自分がどう反応するのかが大事な部分だという話をした覚えがあります。それと同じかと思います。
松尾:絶対的に悪いものが存在するのではなくて、それに対して、自分がどう応じるかが重要なんだと。
阿相:例えば、インターネットへの依存も、インターネット自体は絶対的な悪ではありません現代社会では、接点を一切なくすことはとても困難だと思いますので、付き合い方を考えることがまず大事だと思います。ゲームも同じかもしれません。

忍耐力・気力を要す関わり…親のサポートは?

松尾:ただ、そういう話し合いができるか否かは親御さんだけの力ではないと思います。先の見通しを持って考えたり、客観的に健康状態を把握できる段階でないお子さんや、そういう視点を持つことが不得意なお子さんもいると思います。そういった話をするのは、気力が要ることですし、親御さんの忍耐力が問われるものだと思います。
長村:私は心理職としての経験と知識があったこともありますが、それでもいっぱいいっぱいな時には、冷静に話せなかったと思います。「どうしてなの」と責める言い方になって対立してしまいそうになったこともあります。子どもと同じく、親へのサポートが必要だと思います。
松尾:親御さん自身がサポートを得られる社会資源・サービスというと、どんなものがあるでしょうか?
長村:私は、子育ての中で母親に任される作業や工程の種類がとても多いと感じていました。学校との連携や、両親や親族、夫への説明とか。どちらかの親が一人でハブの役割を負っている場合が多いんじゃないかと思います。でも役割を誰か一人が持ってしまうと、余裕がなくなってしまうんですね。だから、保護者としてではない、ひとりの人間の相談として扱ってくれる専門家に繋がっていただきたいなと思います。いいお母さん・いいお父さんでなくても大丈夫だと言って接して下さる人に。弱音や、世間一般には批判されるような考え方でも、安心して話せるような人と空間に繋がってほしいと思います。
松尾:不登校の子どもについてどうすべきかというよりも、子どもの不登校という状況を抱える自分の苦しさを話せることがまず子どもと関わるときの余裕を生むかと思います。子どもと関わるときの辛い気持ちを内省できることで得られた気づきがヒントとなり、お子さんの状況・状態を理解する観点に生かされることもあると思います。ただ、どうやってそういった相談相手に繋がったらいいのでしょうか。
長村:コロナ禍を契機に広まった、オンラインでのカウンセリングの利用が定着しつつあるように思いますが、ご自身の求める内容を受けられる専門家かどうかは判断が難しく感じると思います。できれば、不登校の子ども支援が得意な方ではなくて、不登校の親を支援している方を探していただけるといいのかなと思います。また、最近は、親のつらさに寄り添ってくれる支援サイトもありますので、いきなりカウンセリングは怖いよと思われる方にオススメです。


本質を見て向き合うプロに委ねることも

松尾:「不登校の子どもの保護者として」の側面だけではなく一個人として話せるように、お子さん本人も「ゲーム依存」や「不登校」としてレッテル貼りをされずに接してもらえる場も有用なようにも思いましたが、いかがでしょうか?
阿相:根本的な問題は別にあって、その問題の現れ方の一つとして、ゲームがやめられないということが起きていることもあります。例えば、学校での人間関係や勉強、進路、家族関係などで生じた心苦しさやモヤモヤ、イライラを軽減するために、辛い現実から自分を守るためにゲームにハマる…または、現実社会で得たくても得られないような万能感や達成感、承認欲求、所属感などがゲームによって満たされているのかもしれません。なので、ゲームを通して、どのような苦悩が軽減したかやどのような感情が得られたかなどを聴いてみると、より根本的な問題が浮かびあがってくるかもしれませんそうした感情に寄り添っていくことは、本人が自ら変わろうとする力を勇気づけることにも繋がるかもしれません。
長村:子どもの悩みを親自身が聞き出す限界を感じている人も多いと思います。専門家にその悩みを聞き出してほしいニーズは強いのではないかという気がします。
松尾:思春期であれば、そもそも、気持ちを言葉にすることが難しく、自立がテーマで、親に反抗したり、素直になれないこともある時期ですものね。
長村:やはり我が子だと難しいところがあり、苦戦しましたが、本来心理専門職は、総じて非言語的なところも汲み取りながら信頼関係を築くことに長けていると思います。専門の方であれば、芸術療法・箱庭療法などの心理療法を適宜用いて、言語を用いない心理支援をされる方もいらっしゃいます。
阿相:親御さんとお子さんとの二者関係で行き詰ってしまうようなら、必要に応じて専門家に相談してもらえたらと思います。お子さんを支援者に繋げるにはどうしたらいいかということを、相談してもらうのもいいと思います。



阿相さん・長村さんのイベントを、夏休みの終わりに設けました。もっと知りたい・実際に質問してみたいと思った方は、よければ参加してみてください。

● 8月17日(土)  19:30~20:30   ※録画配信あり

● 8月24日(土)  19:30~20:30   ※録画配信あり






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