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遠い将来なら待てるが、近い将来なら待てない
このタイトルはジョージ・エインズリーという精神科医の言葉である。
この人は双曲割引というものを提唱した人として有名である。
双曲割引の説明は、少しややこしいのでここでは差し控えるが、それを簡単に結論づけると『遠い将来なら待てるが、近い将来なら待てない』となるわけだ。
これは人間の非合理性を唄った理論であり、簡単にいうと、経済学的理論の『人間は利益を最大化するために行動する』という仮説を反証する内容となっている。
皆さんも『今はこれをすべきじゃない』と分かっていながら目の前の誘惑に負けて時間やお金を浪費したことはないだろうか?
合理的に考えれば、その目の前の報酬は取るに足らないもので、その報酬を我慢した結果、遠い将来により魅力的な報酬や利益があるにも関わらず、そちらを選べないのが人間なのだ。
つまり、常に利益を最大化するように行動しているようではないということだ。
これは行動経済学の世界では『時間の不整合性』と呼ばれるもので、スチュアート・ヴァイスという心理学者がこの現象を見事に証明している。
彼は学生たちを集めて、2つの封筒を示す。
片方の封筒には10ドルが入っており、もう片方の封筒には12ドルが入っている。
学生たちは当然12ドルの封筒を選ぶ。
次にヴァイスは学生たちに『今10ドルもらうか1週間後に12ドルもらうか』と尋ねる。
すると、学生はまだ12ドルを選ぶ。
しかし、12ドルをもらうのが2週間後、3週間後となっていくと話が変わってくる。
学生たちに『今10ドルもらうか2週間後に12ドルもらうか』と尋ねると、今すぐ10ドルもらう人の数がグンと増えた。
2週間我慢すればより大きな報酬があるにも関わらず、学生たちは今すぐもらえる小さな報酬に飛びついたわけである。
そして、さらに面白いことに、2週間後の12ドルよりも今すぐの10ドルを選んだ学生たちに『28週間後に10ドルもらうか30週間後に12ドルもらうか』と尋ねると選好はまた12ドルに戻る。
2週間という遅れの期間は同じであるにも関わらず、遠い将来だったらより大きい報酬を得るために選択できるのに、近い将来の2週間は待つことができないのだ。
この現象は人間が目の前の報酬に異常なほどの価値を置くことによって起きるとしている。
例え、それを今受け取るのが合理的なことでないことは頭の片隅では分かっていても、なんならそれを我慢すればそれよりも大きな報酬が将来に待っていると分かっていても、それ以上にすぐに手に入る目の前の報酬が魅力的に見えてしまうのだ。
人が誘惑に負けて怠けてしまうのも、ギャンブルやお酒から抜け出せなくなるのも、『痩せたい』などと言いながらダイエットなど全くしないのも、その先のゴール以上に目の前にぶら下げられた人参の方が魅力的だからだろう。
そのための方法は一つしかない。それは、なんとかしてその誘惑を遠ざけることだ。
僕が普段から言うように、人は目の前に誘惑があって勝つことなどほぼ不可能なのだ。
遠い将来なら待てるが、近い将来なら待てない。
最後まで読んでいただきありがとうございました。