手話通訳士試験を受けて
先日、手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)の二次試験を受けてきました。
Twitterやネットのブログを探しても、今年の試験感想ツイートやブログ記事が見当たらない。
二次試験でも1000人弱は受験してるはずだから、何人かは感想を書いていてもおかしくないのに。
というわけで、おそらく現時点で唯一の、2023年度手話通訳士試験の感想を書きます。
手話通訳士の一次試験(筆記)は7月末にありました。9月頭に一次合格通知があり、10月頭に二次試験(実技)という流れでした
一次試験のときのnoteはこちら。
一次試験の2日前に子どもが産まれたので、仕事の調整や出産の立ち会い、各所報告で全く勉強どころではなかったのですが、無事に通過していて安心しました。
【二次試験の流れ】
僕の受けた会場では、50-60人ごとに会議室に集められて試験の説明と本人確認がありました。
受験者の大半は全身真っ黒の服装でした。政見放送の手話通訳みたいな格好ですね。
試験会場では、当たり前なのかもしれませんが、情報保障はありませんでした。今日本にろう通訳の資格はなく、手話通訳士になれるのは聴者だけ。ただ、そう分かっても情報保障がつかないのは何となくもやっとしました。
説明と本人確認が終わると、受験番号の若い順で8人ほどまとめて呼ばれて、各受験者が個室に入って試験を受けました。
個室には三脚付きビデオカメラと、テーブルの上にパソコン・ICレコーダーが用意されていて、担当者の指示に従って試験を進めました。
試験終了後は、まとめて呼ばれた人たちが改めて集合して、持ち物確認等を受けて解散しました。
僕はその会場で一番若い受験番号だったので、最初のグループに入りましたが、もし後半だったら2時間以上は待つことになったと思います。本当に運が良かった。
待機する会場はスマホも使えず、パイプ椅子が並べられているだけ。静かで緊張した雰囲気の中待つのはとても大変だと思います。
試験の内容についても書いておきましょう。
二次試験は聞き取り通訳2問と読み取り通訳2問の計4問で構成されています。
【聞き取り通訳】
ビデオカメラの前に立って、横のパソコンから流れてくる音声を手話に通訳します。過去問は検索すると出てくるので確認してみてください。内容は時事的な話が多いです。
1問目は、「システム手帳について」でした。サークル内の趣味の紹介のような場面で、さまざまなサイズの手帳を紹介する話でした。「A5サイズ」と表現するのにAを小文字で表してしまい、「a」プラス「5(指文字のて)」表すことになったのは失敗でした。またリングのサイズを10mmや13mmなどに選べる話も聞こえた数字をそのまま表してしまって、実際の手帳のリングのイメージをあまり伝えられなかったのが反省。内容的に難しい日本語はありませんでした。
全体的に聞こえたものをすぐ表してしまい、あわただしい表現が多くなっていました。ただ、例年の過去問を見ていても、普通に通訳していたら時間内に間に合わないので、帳じりを合わせられたのは良かったです。
2問目は「少子高齢化について」でした。
実はこの話題、今受講中の手話通訳者養成講座で同じテーマを取り上げていたので、かなり高い精度で通訳することができました。実際の出生数や少子化の原因など、通訳講座で出てきた言い回しと似ている表現も多く、落ち着いて意味を掴んで通訳することができたと思います。
ただ、「去年と比べて◯人減った」や「このデータは◯年度の報告の数字です」といった、これまでの過去問でも出題されていた表現を焦って正確に訳出できなかったのは準備不足でした。
全体として、とにかく止まらずに訳し続けることを意識しました。通訳士試験は日本語対応手話でもいいので表せることがまず大切と何人かから聞いたので、あまり「見だめ」せず、日本語から置いていかれないように表現しました。結果的に帳じりは綺麗に合わせられましたが、かなり手話として見づらい表現も多くなってしまったかと思います。
【読み取り通訳】
パソコンの前に座り、画面に表示される手話動画を見ながら用意されているICレコーダーに対して手話を日本語に通訳して吹き込みました。こちらも過去問は検索すると動画や原稿を見ることができます。
1問目は「手話の二重文節性について」でした。
内容が専門的で驚きました。言語学もそれなりに学んできたので「ギャローデッド大学のストーキー氏」の指文字も読み取れましたが、初見で知らなかったら厳しかったでしょう。内容的にも手話を読み取ったというより、知識として知っている内容を喋った、に近いと思います。ニュアンスとして手話は言語であるということをつかめていればオッケーなのか、音素の話まで正しく訳出できている必要があるのか、通訳士試験の基準が気になるところです。
全体的にとても丁寧な手話で、読み取りはしやすかったです。内容的に大きく外れた日本語は選んでいないと思いますが、細かい部分は正直あまりわからないまま、ごまかして日本語にしていました。
2問目は「がん治療について」でした。
乳がんの発覚と緩和ケア、その後の転移までの話でした。緩和ケアのイメージと実態についての話は大きく外れていないと思います。ただ治療方法が具体的表現だった(もしくは医療関係の用語を僕が知らない)ため、適切な日本語が出てこず、重要な用語を落としてしまった気がします。また何年前に発覚、何年前に転移などの数字を見落としてしまい、辻褄の合わない年数になってしまったのは大きな失敗です。1問目がニュース的手話だったのに対して、2問目はろう者の自然な会話の中で出てくる手話という印象です。個人的には一番手応えのない問題でした。
読み取りについて、全体的に焦りが多かったと思います。聞き取り同様、止まると追いつけなくなってしまうことが怖くて、文単位ではまとめて喋りましたが、全体としての繋がりやまとまりはない言葉選びでした。
【総合感想】
試験会場に入ったときは、その雰囲気に少し怖気づきました。でも、個室に入って試験本番になると落ち着いて通訳できました。先に聞き取りがあって、とりあえず手を動かせたのがよかったのかもしれません。読み取りは、話が分からなかったらもう「詰み」なので、問題との相性もありそうです。
ある程度問題のパターンはありますが、事前情報はほぼゼロのぶっつけ一発本番のため、幅広い教養と通訳の実力が問われる試験でした。
初の手話通訳士試験で、問題との相性は良かったです。そして、自分の実力がよく分かりました。落ちたら完全に僕の実力不足だと納得できる、良い経験ができました。
あと、なぜネットに感想がないのだろうと思っていたら、noteに載せるタイミングで気づきました。原因の一つは受験者の年齢層が高いため、SNS等に感想を書いていないということ。
(かなり前のmixiのグループやYahoo知恵袋の質問は見つけました)
しかし、それ以上に受験の感想を書けば受けていたこと、そして報告がなければ落ちたことが分かってしまうから書かないのかもしれません。
合格発表は来年1月末です。僕は受かっていても、落ちていてもnoteに感想を書こうと思います。
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