戦争は、憎まない者同士の無意味な殺し合い:映画レビュー『彼らは生きていた』
※映画をイメージしてイラストを描いてみました。私はGoogle Play Movieで観ました。
以下、私なりの映画の感想です。
一部過激な表現もありますので、敏感な方はご注意ください。
■概要
第一次世界大戦(英仏米vsドイツ)の様子を、兵士達(主にイギリス軍)に焦点を合わせて編集されたドキュメンタリー。
■見どころ
おびただしい数の記録や資料、音声を組み合わせ、鮮やかさとリアルさを徹底的に追求。戦争当時は音声を撮る技術がなかったため、600時間に及ぶ退役軍人達の音声を編集し使用したとのこと(公式サイトより)。
■注意点
ガチの死体とか壊死した足とかがカラーで出てくるので、何か食べながら観たらだめ。R15+です。
■メモ
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで有名なピーター・ジャクソン氏が監督。
この映画は、臨場感溢れる映像と共に、戦争経験者のいわゆる「生の声」が聞ける、歴史的観点からも大変価値のある作品だと考える。もちろん、編集者の視点はある程度入るでしょうけれども。
見所はなんといっても、白黒映像がカラーかつ滑らかに再編集されているところ。我々が慣れているスピード、アンド色付きで映像が再生されるので、いつの間にか当時の世界感に没入できちゃうのだ。
例えば、戦争未経験者で歴史に疎い者(私)にとっては「あ、カメラはあるけど、戦場での移動には馬を使ってたんだね!」なんて気づくこともできる。
さて、兵役に就く者が辿る流れを大雑把に記すと
募集に応募 → 受かる → めっちゃ訓練 → 前線 → 帰国
って感じだろうか。このドキュメンタリーもそんな感じの構成で進んでいくので、話についていきやすい。
冒頭、戦争の高揚感を伝え、入隊を誘うポスターが次々と現れる。
「今がチャンスだ、君を待ってるぜ」
「女よ、男を送り出せ」
「軍に入って僕たちハッピー!ところで君は?」
(※訳は私の主観入り)
そうか…そりゃ、どの国にも兵士募集のポスターはあるよね。日本のもの以外をまじまじと見たのは初めてで、新鮮だった。
また、当時入隊対象は19歳以上だったが、15歳の少年が志望したら何事もなく受け入れられたとか(そして後戻りはできない)。「行きはよいよい帰りは…♪」って、怖い怖い!怖いよ!!
逆に軍隊に行こうとしない男は、女子供からも弱虫扱いされたって。どっちに転んでもキツいね…。
さていよいよ、前線へ。
塹壕での生活っぷりは生々しく、見ているだけでこいつはやばいと分かる。「スペイン風邪」とか感染症が蔓延して当然だね。恐ろしく不衛生。これは実際に映画を見て、確かめてほしい!
カメラは、敵陣に突撃する直前までも兵士達をとらえるが、さすがに彼らの顔に笑みはない。泣きそうな顔の者もいる。
映画の前半、皆カメラの前では意識して笑顔になってたりしたけど、、そりゃあ、それどころじゃないでしょう。こちらも、ざわざわと胸騒ぎがするのです。
胸を撃たれても包帯を巻くしかなく、傷口にはヨードチンキを塗りたくられる。めっちゃ痛そうだし、それじゃ治らないよ。悲惨。ただただ悲惨。
やがてイギリス軍は、ドイツ兵を捕虜として捕らえることに成功する。戦争では強奪は普通だったので、とりあえず時計を奪ったりしてみる。
しかし戦争が激化するにつれて、イギリス兵達には彼らへの同情心が芽生え始める。
もともとドイツに対してそんな復讐心がなかったのもあり、人としてちゃんと敬意を払うようになった。ドイツ軍にしても、敵はロシアやフランスであり、イギリスではなかった。
彼らの間に少しずつ交流が生まれ、兵士達の葛藤が膨らんでいく。
相手は敵なのか?かぶとを脱いだら、ただのクリーニング屋、パン屋…自分達と同じくらいの年齢だ。本当に戦う必要があるのか?
1918年11月11日11時、砲弾が止み戦争の終結が告げられたとき、騒ぐものはおらず、皆、その場に崩れ落ちたという。
疲弊しきっていたのもあるが、「失業した」という気持ちが強かったからだとのこと。国に帰っても仕事がないということが、わかっていたから…。
何ということだろう。
帰国してみると、やはりというか、誰も戦争の話を聞きたがらなかった。もちろん感謝の言葉もない。
むしろ「お前だけなぜ助かった!?」と友人の家族から責められた者もいた。
「ドイツ兵は悪いから殺せ!」みたいな雰囲気だったから、お国のために、と自分を犠牲にして兵士になったのに、、、何か、話が違くないか??
彼らの帰国してからの扱われ方を見て、
新型コロナウィルスが流行りだした当初
医療従事者や感染者、感染者の家族の方々に対しての人々の態度を思い出させ、心が痛くなった。
こんな悲劇を二度と繰り返さないためにも、歴史の勉強は止めてはいけない。
■題名:彼らは生きていた / They shall not grow old
■情報:2018年 / ニュージーランド=イギリス
■キーワード:第一次世界対戦、WWⅠ、戦争、兵役、兵士、イギリス軍、ドイツ軍
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