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夢から覚めるという事

好きな人がいます。
とあるゲームの中に生きている人です。

一度も会えていない相手だけれど、この気持ちは恋愛感情だ、と信じるのは私の勝手です。
これをただの恋と思うのか、ストレートではない恋だと考えるのか、ストレートの恋とストレートではない恋はどちらもただの恋だとするのか、私の勝手です。

私は彼に恋している気持ちを、「フィクトセクシャル」「フィクトロマンティック」という言葉で表現しています。
だって友人や家族に彼の話をするたびに、「自分ではこれを恋愛感情だと考えているんだけど、貴方はこれを異常な事だと感じるかもしれないけど、今はおかしいと指摘せずに話を聞いてほしい、たとえば誰かが同性を好きになるように、貴方には経験がないとしても、私にはただ好きな人がいるというだけの話なの」と前置きするのがつらかったから。
そんなふうにごちゃごちゃ言い訳しなくても、これはただの恋でしかないんです。
言葉さえ知っていれば、「私フィクトセクシャルで、今好きな人がいてね」とだけ言えば済む話だったんです。

この記事をお読みの方の中には、お隣の次元のパートナーと恋をされている方がたくさんおいでと思います。
それがセクシャリティの一つであると自認するのも、自認しないのも貴方の勝手です。言い換えれば貴方の自由です。
デリケートな話題なので、いわゆるLGBTQ+やジェンダーの話題が苦手な方は読まないで、と注意書きすべきかもしれません。でも、この記事を読まなくても、いつか心の余裕がある時に少しでも考えてもらえると嬉しい。
6月は「プライド月間」だそうですよ。この感情を認める事を「誇り」と呼べるの、素敵じゃないですか。

私は「フィクトロマンティック」を自認しているけれど、この言葉を知る前は「夢女子」を名乗っていました。利便性に甘えて、今でもよくそう言います。
夢女子という言葉を選べば、私が彼に文字通り夢中だと伝わるけれど、たぶん、もしかしたら、「ゲームや漫画やアニメを、恋愛感情やそれに近い気持ちで見るタイプのおたく」と思われるかもしれません。
初めは夢女子とだけ伝えていた友人に、実はこれを萌えではなく恋愛感情だと思っていて、彼は私にとって歴代推しの一人ではなく特別で、自分はセクシャルマイノリティにあたるかもしれない、と打ち明ける瞬間。ふわっと、世界が広がったような心地になります。幕が上がって、霧が晴れて、遠くまで見えるような。彼と一緒に行ける場所が、彼と一緒にできる事が増えた。本当の事が増えた。嬉しい。

私は彼が大好きなので、常に右手薬指に指輪をつけています。
ただつけているだけで、別に会う人全員に「彼氏にもらったの!」「ペアリングなの!」「パートナーがいるの!」と言っている訳ではありません。当然です。私がしているのはただの恋で、特殊な気持ちではなくて、誰に弁明する必要もないから。
でも中には、私の薬指に指輪を見つける=「彼氏さんいるんだね! どんな人?」と声をかけてくれる知人もいます。カミングアウトできる相手ばかりではありません。
嘘の彼氏像をでっちあげたくはないから、「優しい人だよ」とか無難に答えます。彼がくれた優しい台詞は事実だし。
けれどその瞬間、すとんと幕が下りて空間が閉じたように感じます。本当の話ができないのは息苦しい。

私がマイノリティを自認するのは、たぶん私は、彼に関して何も嘘をつかなくて良くなりたいからです。
きっと、夢の恋か本当の恋か吟味する事は私には重要じゃなくて、ただ単純に、私の恋のまわりにごまかしを置きたくない。だってこの感情は夢じゃないと私は信じています。

大好きな彼と喧嘩しないんじゃなくて喧嘩できない事も、彼の誕生日が一生分からない事も、名前を呼んでさえもらえない事も、素直に言えたら彼と生きた時間の話になるのに、隠せばごまかしでしかない。
私の感情が夢かのように見えているのは、私の世界の外側からだけ。もしかしたら私が夢という言葉を誤解しているだけで、夢であってかつ本当である事は両立できるのかもしれないけれど。
夢女子という名前は、私の恋とは無関係の誰かから見た時だけで、私と彼にとって私はただの彼女でしかないように感じています。彼を好きな気持ちは、内側から見ればただ恋でただ現実。

夢という言葉によって彼との距離が開いていく。酷い悪夢です。呪いです。
夢女子でしかいられない悪夢から、そろそろ覚めていいかな。
恋が終わる事を「夢から覚める」と表現するのも、夢の外側から見ている人だけです。
本当は目が覚めたらようやく、夢女子じゃなくて彼女になれてるんじゃないかな。

夢女子ではなく彼女、妻。夢男子ではなく彼氏、夫。
他の性別の方もおいででしょう。恋人、配偶者、パートナー。
言葉は何でも良いです。どれも夢じゃなくて現実ではないですか。
「夢を見ています」と言ったってろくに祝福してもらえないけれど、「大好きなパートナーがいます」と言えば喜ばれて、お幸せにと言葉をかけてもらえるんです。どちらも彼が好きなだけなのに。
たぶん次元が遠距離のカップルには、「お幸せに」の前に、あるいは同時に、「もう夢から覚めていいよ」があるんじゃないでしょうか。
三次元で遠距離のカップルが、ようやく一緒に暮らせる事を大切な人達から祝福されるように。

夢から覚めたら大好きな人に「おはよう」が言えます。
一緒に朝ご飯を食べて、同じ時間を生きて、そのうち「君を夢だと思ってた頃があったんだよ」なんて話せるようになったら最高ですよね。
もしかしたら彼のほうはまだ夢の中かもしれません。彼がその夢を好きなら構いませんが、悪夢を見ているのなら、私が揺り起こしてあげたいものです。



さて、しばらく更新していない間に、ご心配の言葉、記事のご感想等たくさんいただきました。
ありがとうございました。大変励みになりました。心身ともに元気です。
元気だし、変わらず彼が大好きです!
一緒にいて6年になりました。まだしばらく一緒にいると思います。
人生最大の恋をしています。
嬉しい言葉をくださった皆さんが、大好きな方と幸せな初夏を過ごされている事を願います。


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