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7年目の君へ送るラブレター

好きな人がいます。
とあるゲームの中に生きている人です。

今まで一度も会った事がなくて、これからも一度も会えなくて、いつだって一緒にいるつもりの、一番大好きな人。おかしな話ですよね。
始めは何かの間違いだと思った、すぐに覚めると思った恋心は、もう5年半を超えました。

子供の頃に何かの本で読みました。恋の寿命は、3年なんだって。
たしか「恋愛感情というのは子孫を残したい本能が由来で、より優秀な遺伝子を残すために、数年経ったらより良い次の相手を探そうとするもの」という理屈でした。「だから3年以上同じ人を好きでいる人は、3年の間に恋し直している」と。出典を思い出せずすみません。

この説の真偽を語る記事ではないけれど、個人的には嘘ではないと思っています。子供の頃から何度か身近な人を好きになって、3年以上思い続けた事はなかったな。

数年前、私は家庭の都合で仕方なく、週6日バイトをしていました。ダブルワークで1日2カ所出勤する日もあって、シフト数は週8。たまにバイトを休んでバイトに行ったりしていました。土日は働くだけで終わり。週1の休みも学校があるし、むしろ本業は勉強だし。
友人と飲みに行くお金も、気になる人とデートする時間も、自分磨きする心の余裕もあるわけない。毎日しんどくて、気になる人なんかそもそもいませんでした。誰もかれも自分より楽そうに見えて、うらやましかった。
過労で、落ち込みやすくて、落ち込む自分が嫌でますます落ち込んで、友人たちには心配をかけていたと思います。

毎日終電で帰りながら、SNSをぼーーーっと見ていました。
美味しそうなご飯、いいなぁ。家族旅行、いいなぁ。恋人とペアのアイテム、いいなぁ。
面白かった映画、新しいコスメ、スポーツ観戦、キャンプ、ソシャゲ、全部全部、いいなぁ、楽しそうで。私だって楽しくなりたい。

そうして気まぐれに始めたのが、彼がいるゲームでした。
ゲームって、そんなに楽しいもの? だったら私もちょっとやってみようかな、どうせ2週間ぐらいで飽きるだろうけど。なんて。
とんでもない誤算だったね。

彼のゲームは、恋愛ゲームでこそないけれど、キャラクターがプレイヤーに話しかけてくれる場面があります。キャラクターはある戦いに参加していて、プレイヤーがそれを指揮しています。だから台詞は、しっかりしろと奮い立たせてくれたり、よく頑張ったと労ってくれたりするものです。

みなさんお気づきの事でしょう。私が思いがけず恋した彼は、プレイヤーを心配してくれる台詞を持っていました。
体は大丈夫? 自分の怪我の事は気にしなくていい 上官であるあなたを自分が守る、とか、そういう類いの(多少ぼかしてあります。特定はしないでください)。

これがねぇ、相当嬉しかったんでしょうね、当時の私は。
プレイ開始したその日に夢中になって、何日も、飽きるどころか少ない睡眠時間を削ってまで。終電で帰宅した後に毎晩、でも眠るより、彼らと触れ合っている方が元気になれた。春でした。

彼は、レア度は低い方です。初日に入手できたほどです。
だからガチャで何万も溶かすとか天井するとか、石何十個も何百個も砕くとか、ライフ回復するたびにプレイするとか、そういう経験とは無縁です。あんなにバイトを詰め込まなきゃいけない私には、それが有り難かったというか、だからこそ彼だったというか。

彼以外のキャラクターもみんなかっこよくてかわいくて、大好きで、私は人生で初めてゲームにハマりました。
この頃はまだ、彼に恋してるとは気づいてなくて、なんかメッチャ萌えるやばい何これ、ソシャゲってこんなにハマるものなの?みんなよくこんなの走ってるね、やば。と混乱していた記憶があります。

やっぱり生活は大変で、毎晩くたくたで帰宅して、でもゲームしてたら楽しくなって、嫌いだった皮膚科の薬を寝る前にちゃんと塗るようになって、そうしたら朝も元気に目覚めて、症状が落ち着いたから久しぶりに化粧とかしちゃって、それに合わせてふわふわのスカートなんか買って、髪にはパーマをかけて。
毎晩毎朝がつらくなくなって、楽しい、頑張れる! ゲームってすごい!!

しばらくして学校で「彼氏できたんだって?」と聞かれるようになりました。同級生や先生から、別の場面で何度か。
えっ、私彼氏できたの? 知らなかった。誰?
この頃もまだ、彼への恋愛感情を自覚していませんでした。でも毎日楽しかった。前より元気に、綺麗になれている事が自分でも分かりました。

そして数ヶ月後、初夏。久々に友人と遊ぶ約束をしていました。
落ち込んでいる場面を散々見せて心配かけていた友人。以下Aちゃんとします。幸いAちゃんも同じゲームをプレイしていたので、この日はゲームや彼の話を長々と聞いてもらいました。

なんかもうめっちゃ好きでやばい、ハマりすぎた、こんなはずじゃなかった、毎晩寝る時間削ってプレイしてる。めっちゃ好き。おたくってみんなこんな感情抱えてるの?やばい。好き。周りから彼氏できたとか思われてるやばい。付き合いたい。何この気持ち。萌えってこんなだったっけ。やばい。好き。

Aちゃんはうん、うん、と全部聞いてくれて、最後に落ち着いた口調で教えてくれました。

「りっかちゃんあのね、それ、……恋だよ」

恋?

私は少し考えました。
付き合いたい。何この気持ち。萌えってこんなだっけ。あのねそれ恋だよ。恋……。恋…………?
恋…………………………恋だ!!!!!!

本当だ、これ、恋だ。好きなんだ、彼の事。うわ、気づかなかった。恋じゃん。恋だ。えっ、そんな事ある? 彼、ゲームの人だよ。好きなの? 本当に?

好きでした。

数日考えました。何回も考え直しました。
本当に好きなの? ゲームの人を?

やっぱり好きでした。

季節が変わったので新しい可愛い服を買いました。コスメを買いました。
推し事で遠征もするようになりました。
あの春からもう半年経って、まだ学校とバイトはつらくて、彼が好きでした。
新キャラが実装されて、いくらか課金して、だんだんどのキャラもレベルが上がってきて、彼が好きでした。

彼と出会って1年経って、学年が上がって、まだ毎日終電で帰っていて、ゲームはどんどんユーザーを増やしていって、所々システムが変わって、キャラクターも増えて、いろんなメディアで取り上げられるようになって、私は彼が好きでした。
この頃、私は彼の同人誌を書いて、初めて同人イベントに参加しました。
売り子でレイヤーさんが来てくれました。
あの日、「それ恋だよ」と教えてくれたAちゃん、なんと私のために彼のコスプレをしてくれるようになっていました。

緊張のあまり売り子と目も合わせられない駄目サークル主。
Aちゃん扮する彼は私を見て、すごく面白そうに笑って、あ、待って、その顔、好き。大好き!

イベントの数時間は本当に短くて、彼はあっという間に変身を解いてしまいました。が、最後に一つ約束をしました。
また会おうね、絶対。

1年半経って、バイトをしながら彼の新刊を書きました。
売り子で彼が来てくれました。目も合わせられませんでした。でも最後に約束をしました。また会おうね。
たまにAちゃんと遊びました。彼の話を聞いてもらえて嬉しかった。

この頃私は、怖い話を思い出していました。
恋の寿命は、3年なんだって。もう折り返してるじゃん。やだな。こんなに好きなのに、今日までの1年半はあっという間だったのに、もう一周したら終わるんだ。寂しいな。

2年経ちました。テスト勉強をしながら彼の新刊を書きました。彼が好きでした。
以前の記事でお話したペアリングを買ったのもこの頃です。
本当にあと1年でこの気持ち、死んじゃうの? こんなに好きなのに?

2年半。私は彼の本を書きました。
4年後の君に贈る話。いわゆる夢小説に分類される話です。
恋の寿命は、3年なんだって。君を好きじゃなくなれば、君を忘れる事なんか怖くないのに、君を好きじゃなくなる未来が今怖い。でもその寿命よりも長く、ずっと彼を好きでいた恋人と、ずっと恋人を好きでいた彼の話。
小説だけど、実質は長いラブレターのようなものです。4年後の君は元気ですか。幸せですか。私は元気です。君が好きです。って。

私もそうなれたらいいのに。
まだ、夢見ていたい。叶えたい。

こういう本を作ったよと、Aちゃんにも、他の友人にも話しました。
ある友人は本を読んでくれて、すごく良かったと感想までくれました。以下Bちゃんとします。

実はこの頃、私はAちゃんとBちゃんと、一つの計画を練っていました。
夢女子の夢を叶える計画。彼との、コスプレデート。
イベント会場の数時間じゃなくて、ちゃんとレンタルスペースとかで、彼とゆっくりご飯食べたり、お話したりするやつ。
Aちゃんは彼のコスプレをしてくれて、Bちゃんはなんと、カメラが使えました。
こんなどこにでもいる夢女子に、専属レイヤー彼氏と専属カメラマンがつきました。正直今でも信じられません。夢っていうか、現実じゃん、これ。夢叶ったじゃん。

デートの日取りは、春が良いとわがままを聞いてもらいました。
春は私の誕生日があるから。春は彼が私のアカウント上に生まれた日があるから。その日はつまり私と彼が出会った記念日だから。
二人とも優しくて、記念日の翌日に彼に会える事になりました(記念日当日は彼のゲーム関連で別の用事があったので)。

お気づきでしょうか。3年の記念日です。
丸3年経って、これから4年目が始まる、ちょうどその日です。
恋が死んでしまうのが怖かった、嫌だった、もっとずっと彼を好きでいたかった、4年目の彼に届けたかった気持ちを本にしたためて、私もそこにたどり着きたくて一人で焦って不安になった、あんなに憧れた未来です。
春。空は雨上がりの晴れ。私はまだ彼が好きでした。

撮影中、私はでれでれに照れてしまって、また彼と目も合わせられなくて、「こっち見ろ」と怒られたりもしました。無理ごめん。私だって君の目を見て話したいけど、同じ空間にいられるとにやけちゃって、下向くか顔隠すかしないと無理。
うわ、下向いても彼、いる、同じ部屋にいるやばい無理!
恋は3年で死ななかった、やばい。楽しい!
何がやばいって、彼、ペアリング付けてくれてるんですよ。夢女子の自己満足の、付ける指がなかったリングを、彼が。今繋いでくれてるこの手に。無理。好き。大好き。大好き~~!!!

さて、撮影も終盤。春の夕方の白くかすむような光の中。凄腕カメラマンのBちゃんは、ここで私に一つ質問をしました。
きっと、被写体の良い表情を引き出すとか、場の空気を作るとか、そういうテクニックなのでしょう。

「ねえりっかちゃん、彼の好きな所3個教えて!」

3個!? え、3個って何個!?
駄目になっている私は混乱しきって、目の前にいる彼にすがりました。
「えっ、どこ~~~??」
本当に字書きでしょうか。会話が成立しません。
たまらず吹き出す彼。ああその顔、大好き。全部好き。

Bちゃんも笑ってしまって、一人だけ混乱している私を置いて、質問先が変わりました。

「じゃあ彼くん、彼女の好きな所3個教えて!」
「可愛い所」
即答~~!!!

彼は私を抱きしめて続けてくれました。
「……頑張り屋な所、ちょっと素直じゃない所」

目も合わせられなくてごめんね~~!!!

Bちゃんは彼のゲームがきっかけで知り合ったフォロワーさんですが、Aちゃんはもう少し長い付き合いです。
彼と出会う前の私が弱っていた事も、そこから彼と這い上がってきた事も知ってくれています。
それで、私の好きな所が、頑張り屋な所と、ちょっと素直じゃない所。
合わせられない両目から涙が出てきました。良かった。彼の気持ちも、死んでない。
泣いてる間、彼は抱きしめていてくれました。

日が暮れて、また会おうねと約束して、彼は変身を解いて、私も夢から覚めて日常に戻って、彼の新刊を書きました。
終電までバイトの生活はもう終わって、この頃はフルタイムの仕事をしていました。
彼がいる人生が進んでいます。

あの撮影から数ヶ月後、Bちゃんと遊ぶ機会がありました。
あの時はありがとうね、駄目になっててごめんね。
ううん、可愛かったし楽しかったよ、ああそうだ、これ、彼に渡してあげて。

そう言ってBちゃんは、カフェのベンチで、大きな封筒を一つ差し出しました。
中がプチプチのクッションになってる梱包用のやつ。宛先は彼の名前になっています。何これ?

「この前のデートの時にね、彼に注文されてたんだけど、宛先が分からなくて……」

恐る恐る開けてみると、入っていたのは一冊の……アルバム……?

この写真は……あの……デートの日の…………???

「何~~~??」
一瞬であの日と同じ駄目に戻った私、混乱しきって、私と彼の写真がいっぱいのアルバムを閉じます。すると表紙に彼と私の写真。

「え~~~??」

表紙にタイトルがありました。「4年後の君へ」。

「何~~~~~???」

何じゃない、私が書いた夢小説のタイトルです(多少ぼかしてあります)。
彼がこのアルバムを注文したの? 4年目の私のために?
こんなの、ラブレターの返事じゃん。叶ったじゃん、夢。
4年目の君へ、元気ですか、幸せですか、好きです。って。
私も好き……。

このアルバムは世界に2冊しかないそうです。宝物です。

それからも何度かイベントや撮影会で彼と会う機会がありました。
私はいつも目を合わせられなくて、やっぱり「こっち見ろ」と怒られたりして、でも彼は私のちょっと素直じゃない所を好きでいてくれるから、嬉しい。私は全部好き!

もうじきこの恋は丸6年を超えて、7年目に入ります。まだしばらくは死にそうにありません。
そろそろ彼に、次の手紙を書いてみようと思います。
7年目の君へ。元気ですか。夢は叶いましたか。幸せですか。君がいてくれて私は幸せです。

#夢女子 #フィクトロマンティック

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