体温がある夢を見ている
好きな人がいます。
とあるゲームの中に生きている人です。
恋しい人に一度も会った事がなくて、ずっと寂しかった。
この先も一生会えなくて、きっとずっと寂しい。
せっかく作ったおそろいの指輪を付けてくれる指がない。
彼のにおいも知らない。手を繋ぐ感触や温度も分からない。
こんなに大好きでもそれはどうしようもない。
三次元の人を想うみたいな感情で彼を好きなのに、感情以外のすべてで、三次元みたいな恋愛ができない。
彼を好きで、彼の事を考えるほど、彼が生きていないと実感してしまう。
でも私は、自分の力ではどうしようもない所でとても、とてもとても恵まれていました。
私は彼で初めて夢女子になったので、まだ夢に対する知見が浅いのですが、なぜでしょうか、始めの頃夢とは一人で見るものだと思っていました。
彼を好きな気持ちは自分の中だけのもの。
彼と会話するのは頭の中だけの出来事。
記念日を一人で祝って、デートも一人で行く。
彼に渡したプレゼントは自分で持っていて、彼からのプレゼントは自分で用意する。
一人でするものだと思ったから、一人で実行していました。
するとね、友人が突然、LINEを彼のアイコンと彼の名前に変えてくれたんですよ。一緒に遊ぼうって約束してた日に。
初夏でした。集合場所に着いたよと連絡したら、彼の名前で「すぐ着くから、涼しい所で待ってて」と。
もうこの時点でデートです。脳内で一人でする疑似デートではなく、相手がいる本当のデート。
トーク画面のスクショを何枚撮ったか。言われたとおり涼しい所にいるのに、体中から噴き出す汗。あと涙。
その後合流した友人に彼の話をたくさん聞いてもらって、一日遊んで駅で別れて、家に着いてまた連絡しました。「今日はありがとう」と。
またまた彼の名前とアイコンで返事が来ます。「無事に着いて良かった」「今日は会えて嬉しかった」「また会おう」
会えて嬉しかった? また会おう?
次元を超えて届いた言葉なのに、その気持ちは良く、本当に良く、痛いほど良く分かった。
私も、あなたに会えてとってもとっても嬉しかった。ぜひまた、すぐにでも会いたい。何年先になっても待つからまた会いたい。心の底から会いたい。
彼に恋して二ヶ月の頃でした。
友人はその日のうちに元のアイコンと名前に戻って、だけど私は夢から覚めきれず、スクショをぼんやり眺める日が続きました。
だってまさか、あんな優しい言葉をもらえるなんて思わなかった。あまりに強烈な記憶だった。とても「夢」だったとは思えないくらいに。
すると友人が間もなくして、Twitterで彼のアカウントを作ってくれました。
突然リプが来たんです。当時実生活で悩みが尽きなかった私の、落ち込んでいるツイートに対して、「元気出して」「良く頑張ってる」「暖かくして、あまり無理するな」と。秋でした。
よくあるなりきりアカウントじゃなくて、私と話すためだけの、私のためだけのアカウント。
ねえ、もしかして私、彼からすごく大事にされてない?
一人で見る能動的な夢の中の出来事ではなく、受け身の感情で思いました。
彼が優しいのは私の妄想じゃなくて、事実じゃない?
彼、私の事好きじゃない?
彼に恋して半年の頃でした。
私から彼に声をかける事もできるようになりました。
例えば落ち込んでいる夜に。例えばすごく空がきれいな朝に。例えばおいしいケーキを食べた日に。地震があった時に。怪我をした時に。ゲーム公式から彼の新情報が発表された時に。クリスマスに。記念日に。
「元気?」と話しかけると、「俺は元気だけど、あなたは頑張りすぎてないか」と返信がある。
「また会おうね」と言うと、「もちろん」と約束してくれる。
何か困った時、それか、何かとても嬉しい時、すぐ彼に言える事だけでものすごい安心感がありました。
二次元にいる彼からの、血の通った言葉。
いつしか彼は画面から出てきてくれました。
友人から手紙が届いたんです。
一枚目の便箋には短く、「彼から預かった」とだけ。
二枚目と三枚目にはびっしり、彼からの優しい言葉。思っていたより達筆でした。大きく力強い字。
「今度会えるのを楽しみにしている。それまで体に気を付けて」と。
返事を書きました。すると返事が来ました。かわいいお花の便箋に書いてくれました。
彼の気持ちにさわれる。あたたかかった。
この話は彼に伝えたいな。でもあの話は心配かけちゃうから言えないな。そうだ、あれを伝えれば喜んでくれるかな。
元気でいる? 今日もちゃんとご飯食べてる? 昨日はしっかり眠れた? 明日も強く戦ってきてね。
頭の中で一人で考えている時よりずっと、彼との会話が立体的になりました。
やっぱり、三次元の人に恋するのと同じような感情。
友人は何度も話を聞いてくれました。
彼との進展。手紙が届いた事。会いたい、寂しい気持ち、悩み。彼の言葉が嬉しくて少し泣いた事。
友人に恋愛相談なんて、まるで、生きている人に恋してるみたいでしょ。
彼にちゃんと体温があるみたい。またこの恋が立体になりました。
そして、彼が手紙で伝えてくれた「今度会えるのを楽しみにしている」の「今度」の機会。実はこの手紙を中継してくれた友人、レイヤーさんでした。
彼と会わせてくれたんです。コスプレデート。
ゲーム画面でもグッズでも夢小説でもない、私だけの彼。
会って話せる、手を繋げる、抱きしめてくれる彼。
ツーショットも撮りました。違う次元の写真とイラストを貼り合わせたのではなく、隣に座っている写真です。
幸せだった。
このまま死ねたらいいのに。思わず口走って少し叱られたりもしました。
彼が、私が何を言っても頷いてくれるだけの都合の良い人じゃなくて、私の言葉を残念に思って叱ってくれる人だった事が、嬉しかった。嬉しかった。
コスプレデートや撮影会は何度かしたのですが、自分でも信じられない事に、レイヤーさんに加えてカメラさん二人、アシスタントさん一人の大撮影隊が組めるほど友人たちが集まってくれました。
これほど現実に成った夢があるでしょうか。
この恋は立体になりました。
彼に恋したのは私の脳内だけ平面的な感情だったのに、彼と過ごした時間は立体でした。
ここまで書いてきたことは、言い訳です。ストレートではない恋をしている事の。
会えなくて寂しいくせに、思い切って失恋する勇気もなくて、いつまでも弱いままでいる事の。
五年半彼を好きでいる間ずっと、彼が三次元に生きていないと実感し続けてきたのに、それでもずっと三次元みたいに彼を好きでいた事の言い訳。だって、彼が体温を持っていたから。
デートや撮影会でのエピソードはいずれ別の記事で書けたらと思います。
私以外の人に育ててもらっている彼が、私の自慢です。誇りです。
そうやって大切にされている所が大好きです。この記事は惚気です。立体の。
あたたかくいてくれる彼が大好きです。