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PSGOZのボカロTips 第3回

今回は日本語VOCALOIDの歌詞入力・音素記号と、子音について解説。
第1回 ではノートの基本的な仕組みとパラメーターVELの解説
第2回 は歌手の表現技法を整理し、VOCALOID上で再現するためのヒントと、特にビブラートについて解説しているので併せて参照してほしい。

注意:当Tipsについては基本的にCrypton Future Media社の初音ミクV4XとPiapro Studio(Mac版)を用いて説明している。その為、音素記号に使われるバックスラッシュ[ \ ] はMac用で、Windowsユーザーは[ ¥ ]に置き換える必要がある。

■ 表記とは異なる発音の修正

VOCALOIDは歌詞を日本語の表記を実際の発音に自動で(勝手に)置き換えることは基本的にしないため"うっかり"ミスが発生しがちである。
(例外である「ん」については後述する)

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助詞「は」「へ」の2種類は手動で置き換えることになる。
結構"うっかり"しがち。勿論、音楽的には敢えて修正しない選択肢もあることも忘れないでほしい。クラシックの声楽家なら声帯保護と音作りの観点から、声門が開いた状態で呼気をわずかに漏らしながら母音を発音しがちなので「へ」 [ h e ],[ h\ e ] に近い音にもなるし、現代の歌手でも息たっぷりウィスパー気味に歌う時も同様だ。
ひょっとしたら「え」[ e ]の発音に「ひぇ」[ C e ]を使う歌手がいるかもしれない。(いた

前提として、歌は現代の日本語のルールに縛られる必要が無いため、サウンドや韻を踏む関係など、発音のルールから逸脱することは往々にしてある。問題となるのは”うっかり”意図しない発音をさせてしまうケース。
それにしてもミスは後になって気がつくものだ......しかも手遅れになるか、ならないかのタイミングで。

結構盲点なのが「お段」の長音(伸ばす音)の扱いだ。

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「おう」「おお」は特に意識をしないと"うっかり"多発である。我々が現代仮名づかいのルールに厳密に従っていれば、お段の長音をすべて外来語のように「-」で示しているはずなのだが、実際はそうはなっていない。混沌としている。

古来「あふ」「えふ」から変化した言葉は「おう」と書かれるらしい。
 →例:「しよう」「書こう」「しましょう」「そうでしょう
では「父さん」は「とおさん」ではなく「とうさん」と書いたりするのは?大阪は「おおさか」であって「オーサカ」でも「おうさか」でもないが、大石昌良はオーイシマサヨシで...?...ぐぬぬ...

「表記どり」を「表記どり」と間違える人もいる。「通り(とおり)」と「道理(どうり)」で表記が分かれる。音はどうする?...悩ましい。「同士(どうし)」というのもある...

「その音」はどうか。「そのーと」とは書かないがVOCALOIDの場合、何もしないと音がただ繋がって長音として扱われてしまう。ピッチや音色といった所謂"抑揚"でなんとかするのか/しないのか、やっぱり悩ましい。
「お」[ o ]を「うぉ」[ w o ]に直すこと(東京の方言らしいが)も多々有り、発音も「お段の長音」はいくつものバリエーションが考えられる。
何を音に込めるのか、何を表現するのか、何を捨てるのか。
VOCALOIDは既にこういう処から楽しい。

● ボカロへの打ち込み方
下図中Aは長音に直した例

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図中Bは母音を連結させた例で、VOCALOIDがサンプルを読込み直す動作をするためか、音は繋がるもののノートの長さによって全体の音色が変わったり、ノート(音符)の長さやアクセント値によっては言い直したかのように(凸凹に)変化する。(詳しくは第1回を参照)

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上図は「おう」の「う」に口の形が変化していくのを表現したい場合のVOCALOIDへの打ち込み方だ。
図中Cのように短い「う」のノートを配置することで、「お」の末尾付近にほんのり「お」→「う」のグラデーションを作り出す事ができる(ノート長は適宜調節してほしい)。
図中Dは半母音の音素記号「w」を置くことで母音の「う(M)」に比べて曖昧な、弱く繊細なニュアンスを作り出すことができる可能性がある。

《豆知識》ボカロは打ち込んだ通りに音が出るソフトではない


■ たのしい音素記号いじり

VOCALOIDはフレーズやサウンドにあわせて発音を選ぶときの試行錯誤がとても楽しい。多少覚える事があるが、ここを乗り越えれば初心者脱出だ。

当解説ではVOCALOIDの音素記号を編集作業の観点から4つに大別した。
そのうえで、下記の内容について解説していく。

・自動で置き換わる音素記号
  └ Sil(促音「っ」)
  └ 7種類の「ん」とオート逆行同化
・手動で置く特殊記号
  └ ASP(アスピレーション)
  └ br (ブレス - 吸気・呼気)
・手動で置き換える音素記号
  └ 鼻濁音の「が行」「ぎゃ行」
  └ 言葉の途中用「は,へ,ほ」の子音 [h\]
  └ 鼻濁音気味の発音 [ Z ][ z ]
・無声化コマンドと声門閉鎖コマンド
  └ 有声音→無声化 [ _0 ] アンダーバー・ゼロ
  └ 声門閉鎖コマンド [ ? ]

手動による音素記号の変更方法についてはマニュアルを参照してほしいが、Piapro Studio に関しては下図の通り。ノートをダブルクリックして出てくる小窓の上から2番目の入力スペースが音素記号を書き込む箇所だ。

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 ・自動で置き換わる音素記号

● Sil(促音「っ」)
ノートに小さい「っ」(促音)や登録がない語、空白を入力した際は自動的に [ Sil ] に置き換わり、無音を挿入するようになっている。

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前後にノートがある場合は音の接続を切る効果の他に、
[ Sil ] はピッチを引っ張らないという特徴をもっている(重要)。
対照的に[ Sil ]と同様に音の接続を切るが、ピッチを引っ張る効果を持つ[Asp] については「手動で置く特殊記号」の項で説明する。

● 7種類の「ん」とオート逆行同化
【 同化(assimilation)】とは、ある音素が、となりあった音素の影響によって、違った音に変化する過程を指す。

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・順行同化 "影響を与える音素" が前にある場合
 →例:「本棚」 ホ"ン" ナ → ホ"ン" 

・逆行同化 "影響を与える音素" が後にある場合
 →例:ヤッテラ"ナ"イ → ヤッテラ"ナ"イ
 →例:「あんまり」 an  "ma" ri → am  "ma" ri

VOCALOIDは7種類の「ん」の音を、後続する音素にあわせて、自動的にエディター側で切り替えているようだ。

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エディター側による自動切り替え後に音素記号を手入力したノートは、自動切り替えがキャンセルされる(ノート上の記号は赤字になる)。

 ・手動で置く特殊記号

 ● ASP(アスピレーション)
VOCALOIDの[ Asp ] は音声学でいうアスピレーション(帯気音)を再現したものではなく、無音のノートをつくる裏コマンドとして知られている。

歌声ライブラリによっては動作しない場合があるので注意。

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[ Asp ] は、直後に来る破裂音による無音時間を短くする「休符」的な役割の他に「っ」や[ Sil ] と違い、接しているノートのピッチを引き寄せる(ポルタメントが有効になっている)ので、ヒーカップ唱法(第2回参照)を作るときにも活躍することが有るので覚えておこう。

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[ Asp ] を打つと、音の切れ方にも変化が生じる。但し何が何でも[ Asp ] 入力推奨というわけではない。[ Asp ] を打つかどうかは、結果が音楽的かどうかで判断してほしい。

【コラム】 ノート末に置かれた [ Asp ] や[ Sil ] の音色への影響

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2つの隣接しているノートの音を切る目的で、短い[ Asp ] や[ Sil ]を挿入すると、ピッチへの影響はさておき、後続の子音を発音するための準備(前の母音に起こる音色変化)がキャンセルされて、後続のノートが無い状態と同じ音色に戻るという事が起きる。

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上図で薄ピンクに着色されている部分は、単体ノートの状態を保っていることを表している。後続の子音に前の母音が影響されることで滑舌や音色に問題が起きるようなら、[ Asp ] や[ Sil ]の挿入を検討しても良いだろう。

● br(ブレス - 吸気・呼気)
・吸気音:息を吸うときの音
・呼気音:息を吐くときの音

音素記号で出せるボカロのブレス[ br1 ] ~ [ br5 ]はノートの音高で変化が見られない。(↓C0〜C4あたりまでの音を見てみた)

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また、ノートの長さを変えると音色を維持したまま伸縮する。どこか一箇所がループするのではなく、全体が引き伸ばされるイメージだ。
最長で約16,400msecくらいまで音を伸ばすことができる。
ブレスのノートはピッチを引っ張るので、[ Asp ] のような使い方が可能だ。そこで[ Asp ] との違いを見ておこう。

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上図の3つ目は、[ Asp ] を置いた時とブレスを置いた時の波形を重ね合わせたもので、明るい部分がブレス。[ Asp ] と違い、ブレスは鳴らす音がある関係で手前の母音との接着部に変化をもたらす。微妙な差だが使い所によっては目立つ可能性もあるので、シビアに作り込む際には気をつけたい。

 ・手動で置き換える音素記号

● 鼻濁音の「が行」「ぎゃ行」

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「が,ぐ,げ,ご」濁音を鼻濁音に変更するには、音素記号を[ g ] → [ N ](大文字)に変更する。また「ぎ」「ぎゃ」「ぎゅ」「ぎょ」を鼻濁音化するには[ J ] [ N' ]に変更する。「に」は鼻濁音の「ぎ」に割と近い音が出る。

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子音を鼻濁音に変更したことで、後続の母音も濁音に比べて"こもった"音のするサンプルに変更されているようだ。おそらく音高によっても"感じ"が変わってくるので都度注意深く確認しよう。(図のピッチはF3)

● 言葉の途中用「は,へ,ほ」の子音 [h\]
Piapro Studio のオペレーションマニュアル(77p)には「言葉の途中用の発音」として[ \ ]付きの[ h\ ]が記載されている。

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歌声ライブラリを変えて、いくつか聴いてみたところ、通常の[ h ]よりも薄い・弱いといった印象の音が多い。後述の語尾息として[ h ]単体ノートを使う場合、より控えめな音が欲しい時に試してみても良いかもしれない。

● 鼻濁音気味の発音 [ Z ][ z ]
「じ」「ぢ」「ず」「づ」の4つ(四つ仮名)は現代日本語において発音の統合が進んでいる。下の画像はPiapro Studioで「づ」「ず」を打ち込んだ例で、どちらの発音記号も[ dz ]になっていることが確認できる。

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現在の標準語、共通語では、四つ仮名は語頭および撥音の直後では [ʥi] 、 [ʣɯ] と破擦音で発音されるのが標準である。ただし破裂の程度はあまり強くない。語中では [ʑi] 、[zɯ] と摩擦音で発音されることが多いが、破擦音で発音されることもあり揺れがある。
Wikipedia「四つ仮名」

VOCALOIDには[ dz ][ dZ ]の"サブ記号"として[ z ][ Z ]の音素記号が用意されている。Piapro Studio のオペレーションマニュアル(78p,79p)には「鼻濁音気味の発音」として[ Z ] [ z ]の記載がある。

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微妙に子音が長い事が鼻濁音気味に聴こえるというなら...そういう事もあるかもしれない。これも歌声ライブラリによって内容は異なるだろう。

 ・無声化コマンドと声門閉鎖コマンド

● 有声音→無声化 [ _0 ] アンダーバー・ゼロ
母音や有声子音から有声音を除去し、ヒソヒソ声にする。呼気(語尾息)にも使える。この無声化コマンド[ _0]はメーカーサポート外の裏ワザで、ノイズ等の品質については保証されていないので注意。

無声化したノート(音符)は音高によっても音が変わる。
下図は [ a_0 ]の音高をC0〜A5まで徐々に上げた時のもの。

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DYN(ダイナミクス)値を操作した場合(図の音高はC3)の変化↓

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無声化した音が目立たなければDYN(ダイナミクス)を上げるよりも音高を上げる事で解決することもあるだろうし、ピッチの関係でDYNを上げざる得ないケースもあるだろう。覚えておくと役に立つかもしれない。

● 声門閉鎖コマンド [ ? ]

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声帯を閉じて急激に声を止める、声門閉鎖という動作を模す[ ? ]のコマンドを母音の後に半角スペースを開けて書き込むと、母音が語末140msec手前から減衰すること無く持続して素早く音が途切れる(上図2段目)。

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声門閉鎖コマンドを書き込んだノートの直後に母音があった場合が上図。
何もしなければ繋がっていた音が一旦止まっており、母音連結時の音色変化も免れているようだ(上図の上段は音が途中から太くなっているが、声門閉鎖のある下段はそれがない)。
下の図は後続のノートが子音+母音だった場合の波形。オレンジ色の枠はPiapro Studio上の実際のノートの長さを表している。

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通常、手前のノートがしっかりと後続ノートの先頭に伸びていても、後続の子音(ここでは[ s ])が前に食い込むが、声門閉鎖コマンドが適用された母音は、ほぼ実際のノートの長さで音を伸ばし、子音の侵食を受けない。音も語末の直前まで音量が維持されるので音量感が増し、次の音への移り変わりにもメリハリが出てくる(機械臭さが出すぎる可能性もある)。VOCALOIDの"滑舌が悪い"箇所に試してみるのも良いだろう。

実際の音は上のツイートで確認してほしい。


■ 語末/音節末のプッとか ツッ とか クッとかスッとか

VOCALOIDの日本語ライブラリーで外来語の発音を表現しようとする、もしくは近年の日本語の発音に近づけようとすると、どうしても必要になるのが語末/音節末の閉鎖音(プッとか ツッ とか クッ とか)や摩擦音(スッ)。

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上図の赤い✗印は日本語ライブラリーには無い音素。()の記号はVOCALOID上での音素記号。
参考:今仲 昌宏(2010) 声楽のための英語発音法に関する分析(3)(PDF
参考:VOCALOIDの発音 @ ウィキ

作り方としては、音素記号の編集で目的の音素記号を単体で記入した、短いノートを置くことだ。子音単体のノートを扱う時はいくつか注意点がある。

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ノートの音高を変更しても音の変化は見られない。

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閉鎖音自体は決まった長さがあり、子音単体ノートを長く伸ばすと、その手前の「気流の停止」区間が伸びていくようだ。

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引き伸ばされる「気流の停止」区間は"ミーッ"というノイズに成りやすい。子音単体ノートはあまり伸ばさないようにしたい。

子音単体のノートは後続に母音のノートがあった場合、すこし困った動作をするようだ。↓

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上図のように母音の発音位置が変わってしまうのは困ったものだ。しかも音素によっては手前に引っ張られたり後方に遅れたりする。更に、ズレた母音に引きずられて隣接していた子音までも発音タイミングにズレを引き起こしている。そもそも子音の音素記号単体での使用はメーカー的にも推奨というわけではなさそうなので、注意して使っていきたい。もしくは無声化した母音と共に使うのが良さそうだ。


■ 語末に吐息を入れるテクニック

第1回の「 基本! ノートの置き方を覚えよう」では発展型のノートの置き方を解説したが、その中の語尾に「吐息」を付加するテクニックについて、もう少し解説をしたい。

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解説の流れは下記の通り
・  語末の吐息って何?ボイスリリースって何?
・  語末の吐息はいつ入れる?
  └ 短い吐息
  └ 長い吐息
・  語末に吐息を入れる3つの方法
  └【推奨】無声化した母音
  └【準推奨】は行の子音
  └【非推奨】E.V.E.C Voice Release

 ・  語末の吐息って何?ボイスリリースって何?

有声音を止めた際に漏れる/漏らした呼気の音は、Piapro Studio で「Voice Release(ボイスリリース)」と名付けられており、マニュアルの上では「吐息の抜き方」と表現されている。一般的にはウィスパーやブレスの範疇に含まれていて、これといった名前はない(定着していない)ようだが、VOCALOIDの世界では、"歌を生々しくする"手法として定着している。

尚、UTAU界隈ではボイスリリースの事を「語尾息」と呼称しており、結構定着しているようだ。ツイッターの情報によると2010年頃に生み出された造語らしい。

 ・  語末の吐息はいつ入れる?

● 短い吐息
次に息を吸う直前の音の末尾(参考動画
吐き捨てるような表現(参考動画

● 長い吐息
柔らかく、音が消え入る表現(参考動画
デクレッシェンド、つまり有声音が次第に弱くなって、徐々に呼気の音が強くなっていくような表現の時、場合によっては長めの吐息を入れえることでそのように聴かせる事もできるかもしれない。ウィスパーボイスへの音色変更や無声音化母音とのクロスフェード処理等の手法と共に検討しよう。

歌手は声帯の振動による音と呼気の音を別々に操り、表現を作る。有声音とともに呼気も止めるのか、有声音が途切れた後も呼気は続いていくのか...
何を音に込めるのか、何を表現するのか、何を捨てるのか。
是非考えてほしい。

 ・  語末に吐息を入れる3つの方法

【推奨】無声化した母音
語末に同じ母音を前述の裏コマンド[ _0](アンダーバーゼロ)で無声化し、必要な長さだけ設置する方法である。無声化したノートは当然ピッチを引っ張る効果もあるので、語尾にブレスを入れつつピッチをまっすぐにしたり、裏返らせたり、フォールさせたりも出来る。無声化した母音ノートは音高によって音色に変化がある事も思い出そう。

【準推奨】は行の子音
は行の子音単体(音素記号を編集して子音だけのノートをつくる)を設置することで、ブレスっぽく聞かせようとする試み。
下表はどの母音に対してどの子音単体ノートを選ぶかを記してある。

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VOCALOIDの歌声ライブラリによると思うのだが、初音ミクOriginalのようなのライブラリーの場合、[ h ] [ C ] [ p\ ]の子音単体ノートの音は「息漏れ」というよりも語尾で息を「吐き切る」ニュアンスだ。無声化した母音のような滑らかさはない。

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上図の中央の列は長音 [ - ]のノートを子音単体ノート(息)の手前に挟み込んだ場合なのだが、母音部分の音量が不自然に盛り上がっており、バグっぽい挙動をするので注意。[ - ]の長さによっても音量変化の具合が違う。

【非推奨】E.V.E.C Voice Release
Crypton Future Media社のVOCALOID V4Xシリーズに搭載されたE.V.E.Cの Voice Release という機能がある。ShortとLongの2種類から加えるブレスを選択でき、母音の種類と音高によって加える音を変化させる丁寧な作り(当たり前か)、語末ブレスを1ダブルクリック+3クリックで付けられる!と当初喜んだ(喜んでない)のだが、下図を見てほしい。

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まず Voice Release を付けると、ノートの長さは変えていないのに図の通り母音が短くなる。ブレスの長さも固定(薄橙色の部分)されている。
音もLongの方が若干聴こえやすい程度で、圧倒的に音量が小さい。

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後で音量を上げる手間を増やす程の息のリアリティが有るわけでもない。
正直お勧めできない。


■ 巻き舌/タントリルを作ってみよう

巻き舌、Tangue Trill (タン トリル 一部の地域ではタングトリル)は、ら行(R)の音が2回以上鳴らされる状態。ボーカリストのトレーニングによく用いられているらしい。→Michael Jacksonのトレーニング動画
トリルじゃなくてトレモロじゃないかというツッコミはさておき...いくつかの動画から、タントリルの周期は約20〜25Hz(一周期 40 ~ 50msec前後)なのではないかと推測した。これは楽曲のBPM:120だと32分音符の三連符よりも少し遅いくらいの感覚でノートが並んでいる状態といえる。
下図:Michael Jacksonのタントリル+リップロール(前述の動画から)

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VOCALOID上での再現方法を4つ挙げてみる。
「ら」(4 a)の巻き舌/タントリルを作成する場合
1.[4 a][4 a][4 a][4 a][4 a]  短いノート(32分音符くらい)を配置 ※推奨 

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2.[4 ][4 ][4 ][4 ][4 a] 短いノート(32分音符くらい)を配置 ※準推奨 

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3.[ 4 4 4 4 a ] 1つのノートに[ 4 ]を複数(要半角スペース)記載

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4.Crypton Future Media社 E.V.E.C の子音拡張を使用

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上記4つが考えられるが、3と4の方法はどちらも周期を変更できないのが難点だ。どちらも人間の半分くらい短い周期の為、非常に嘘っぽいというか別物に聞こえてしまうのが残念。


■ マニュアルの子音分類をもう少し詳しく

Piapro Studioのオペレーションマニュアル(v2.0.4)p.77 には日本語版VOCALOID音素記号表とともに子音分類が載っている。

【 有声音 】
 └ 鼻音
 └ 流音
【 無声音 】
 └ 破裂音
 └ 破擦音
 └ 摩擦音

マニュアルには「VEL調整の参考に」とあるが、それだけでは正直何の参考になるのかさっぱりわからない。そこで各分類ごとにVEL(ベロシティ)を操作した時のイメージ図を付けてみた。

【 有声音 

声帯震動を伴う音

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「鼻音」「流音」「半母音」も有声音 。
ノート(音符)で表されるピッチ(音高)がはっきりとわかる。

 ・ 鼻音

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上図は左から順に「が」(鼻濁音)「な」「ま」の発音。
スペクトログラムで観察すると、枠で囲った各子音部分の基音(一番下の明るい層)より上の倍音が減衰している。また、子音の後に続く母音も記号は同じ「a」だが別のサンプルを読み込んでいるようで、スペクトログラムを見ると倍音の出方に違いがあり、聴感上で明瞭度に大きな差が出ている。
上図2枚目、1段目(VEL=64)と2段目(VEL=0)でパラメーターVEL値の操作により子音が伸長する様子を確認できる。3段目は子音の前に母音があった場合の音同士がくっつく様子を確認できる。
薄ピンクの部分は、直前の母音が各子音に合わせて音色変化している部分で、その区間の公式な情報は見当たらないのだが、140msecで固定されているようだ。(筆者調べ)

 ・ 流音

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流音も鼻音と挙動は同じで、子音部分が前に伸びていくタイプ。直前に母音がある場合の音色変化する区間も約140msecとみて間違いなさそうだ(観察では正確な区切りが分かりづらい)。

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● 鼻音・流音:上図は鼻音と流音の子音がパラメーターVEL(ベロシティ)値の操作でどのような挙動をするかを表したもの。直前に母音がなければ子音部が伸びていくだけだが、直前に母音が隣接していた場合は、その母音末尾の約140msecの区間の音色を変化させる。

【 無声音 】

声帯震動を伴わずに出る音。
国際音声記号では記号の下に「。」を表記する。
VOCALOIDは裏コマンド「_0」(アンダーバー・ゼロ)を母音の音素記号に付け加えることで母音を無声音化できる。

 ・ 破裂音

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破裂音
鼻腔と口腔の双方の通気を同時に完全閉鎖するように、喉頭部または声門を閉鎖するか、あるいは口蓋帆を上げて鼻腔内を通る声道を閉鎖した上、口腔内の上下の調音器官を密着させて口腔内の声道も閉鎖することによって、閉鎖位置までの気圧を高め、その閉鎖を開放することによって発生する音

 ・ 破擦音

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破擦音
破裂音と同様の閉鎖を作るが、閉鎖を開放するときに摩擦音が発生する

 ・ 摩擦音

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摩擦音
声道内に狭い隙間をつくり、空気がその狭めを通るときに噪音を発する。調音点の隙間がこれよりも狭いと破裂音になり、これよりも広いと接近音になる。摩擦音は破裂音と異なり、それだけを持続して発することができる。

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● 摩擦音:[s] [S] [h] [C] [h\] [p\] [p\']はパラメーターのVEL(ベロシティ)値を下げることで子音の持続時間(上図の白塗り部分)が前に伸びる。
● 破裂音・破擦音:子音の持続時間は延長せず、子音の前に「気流の停止」が挿入される。「気流の停止」時間はVEL値で伸縮する。

余談だが、VOCALOID3では無声子音にホワイトノイズをソースとして使用したり、破裂音の閉鎖区間を伸長したりといった子音伸長の改良が行われたという。(情報処理学会・音楽情報科学研究会「歌声情報処理最前線!!」2012.2.3での剣持秀紀氏の解説



■ E.V.E.C 子音拡張について

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