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生成AIと京島らしさの展開と実証実験の考察@向島EXPO

10月1日から30日まで行われていた「すみだ向島EXPO」という地域芸術祭に、「京島LoRAプロジェクト」を1日限定で出展させていただきました!
これまでに行ってきたLoRAプロジェクトに加え、「京島らしさ」をくみ取るための建築模型の立ち上げや、生成AIを用いた意思決定手法のためのアナログなプロトタイプなど、いくつかの展示を行いました。


これまでに行ってきた「京島LoRAプロジェクト」は以下からご覧いただけます。今後も活動を続けていく予定です!



#1. 向島(=京島)という場所

この芸術祭において、向島という場所そのものに大きな感銘を受けた。私たちが対象にした京島も向島の一部であるため、もともと色々関わっていた地域ではあるが、改めてここにしかない凄みを体感することが出来た。

東京のなかの異質な場所

向島という場所には、東京のなかにあっては異質とみなされる要素がたくさんある。古くから木造住宅が立ち並ぶこの墨田区の下町エリアは、関東大震災や東京大空襲、バブルの開発からも逃れた、数少ない伝統区域だ。地域に根差した自治的なコミュニティも存在し、DIYによる改修やコモンズ的な協働認識を持ち長屋をケアし改修しながら住み繋いでいる。大量生産大量消費的な現代社会には希薄なケアの概念が浸透し、人間的にも、物質的にも、時間的にも、東京の他の場所とは異なるもので構成されている。

向島の素材

建築もとても興味深い。汚れたトタンや朽ちた木材のような長い歴史を感じる素材は今も現役だし、長屋の二階に張り出す空間や屋根に延びる足場など創意工夫の満ちたセルフビルド的建築もあちこちで見られる。七軒長屋も健在だ。人々の息遣いが聞こえるような小さな町に、これだけの時の蓄積が光を放っている。外部の人間も受け入れてしまう特別な美学がある。

七軒長屋

私たちの「京島LoRAプロジェクト」も、この凄みを体感したことで始まった。東京という近代都市の中で、自発的にそして人の手で維持された京島の建築スタイルを維持し、郷土的建築像を発展させていくことはできないか。これが私たちの課題意識である。郷土性というものに焦点を当て、画像生成AIの可能性を模索していきたい。


異質なものが交錯する地域芸術祭

そんな向島で開催された「すみだ向島EXPO」はふつうのアートフェスティバルとはかなり異なるものだった。地域との結びつきが大前提としてあり、その上で向島愛のあるアーティストや研究者がさまざまな展示をする。1か月まるまる使った展示は、地域住民の生活にも溶け込み、異質な作品群がまるで何事もなかったように日常風景を形作っていく。作家、住民、観光客という異質な文脈が、向島という強い場所性とともに交錯する。

メイン会場の京島駅(アート拠点施設)

―― 異質なものが共存する調和の数々

 手しごとや"職住一体"の暮らし、入り組んだ路地、個性的な商店があり、東京でもっとも多く戦前からの長屋が残るこの町には、世の中の様々な危機を乗り越える知恵がちりばめられています。また、ここは防災の観点からアートでの「ゆるやかな解決策」がいち早く導入された地域でもあります。下町の日常に現代アートなど創造的な景観が混在この地域に魅せられて集まった多種多様な人々が、「今を見つめ未来に残すこと」を表現した創作と展示をきっかけに、その後も地域での創造的な連鎖が生まれているのです。
 すみだ向島EXPOに参加することで表現者・地域住民の邂逅を通して、「異質なものが共存する調和がある」という長屋暮らしの感覚を50以上のコンテンツで次世代に継承していくことを是非ご体感ください。

すみだ向島EXPO開催文より

例えば、街角の空地に成長し続ける廃材屋台がある。木造住宅の下が掘られた部屋がある。靴屋による足形遺跡発掘調査の看板がある。向島の建築や防災の研究報告がある。美少女3Dモデルの姿をしたDJが出没する。街なか博覧会とも題されるように、異質なものが日常に調和している風景が広がっている。伝統や自治、コモンズやアナキズム的な要素を通して、アートがどれだけ街に浸透しているかを体感することができる。


非日常としての電気湯

私たちは「電気湯」という現役の銭湯をお借りして展示を行った。銭湯界隈では名の知れた昔からある銭湯らしく、随所に京島らしさを感じることができた。向島EXPOのために10/28は終日会場として開かれ、地元の人から外部の来訪者まで、多くの人々が訪れた。

浴槽、洗い場、脱衣所、昔からあるマッサージ機など、電気湯のいたるところが展示場所となった。私たちの展示は脱衣所で、ロッカーやタオル置き場、大きな畳の椅子などを使わせてもらった。向島EXPOがいかに街の一部となっているかが分かる体験だった。


#2. 画像生成・直感模型・地域らしさ

私たちは京島LoRAプロジェクトを発展させて展示した。
生成画像の市民による評価と、生成画像の模型化の2つの実験だ。
市民からの評価は、「京島らしさ」の妥当性だけでなく、合意形成ツールとしての可能性にも繋がる。
生成画像の模型化は、ワークショップの成果物を実際の設計で活用するための方法に繋がる。
NESSプロジェクトを発展させるうえで欠かせない2つの要素を実験することができた。

生成画像から模型へ

現状の生成系AIでは、設計に使えるクオリティの3Dを生成することはできない。
建築分野では必須の3Dデータを、2Dの画像からどう立ち上げるべきなのか試作した。
まちづくりワークショップにおいても、その成果物を地域計画に生かすためにも、画像生成からの建築設計の道筋を考える必要がある。
ここでは、「京島らしさ」をあらわす数枚の生成画像をもとに、8人のメンバーで要素を融合させながら模型を作っていった。

この「京島らしさ」を立体化するうえで重要となったのが、「多視点性」と「即興性」だ。
京島のような地域は、ある一つの計画に基づいて構築されたわけではなく、自然発生的・ボトムアップに形成されてきた。
このような自己組織的な地域を考える際、私たち計画者が上から構想するだけでは、その地域の特性を掴み切れない。
まちづくりワークショップのような下からのデザインを意識するために、この2つの要素に着目してみる。

模型制作のコンセプトダイアグラム


多視点性と即興性

多視点性
模型製作に参加した8人のメンバーは、それぞれ別の時間帯で別の個所を作業していく。
あえて指示を曖昧にすることで、彼ら独自の眼や考え方を模型に取り込んでいく。
一枚の生成画像から具体的な部分を抽出し、好きなように模型化していく。
部分から始まり、その文脈を汲んで次第に全体になっていく姿は、実際の街の成立と似ている。
追加学習・画像生成・模型製作、すべてが多様な視点から構築されていく。

即興性
この模型製作に計画はない。各メンバーは即興的に模型を生み出していく。
別の人が既に作った模型から解釈し、連想ゲームのように隣の空間を考えていく。
生成画像から読み取る「京島らしさ」と前任者の「京島らしさ」、両方の解釈が大切になる。
遊ぶように生み出された模型は、無意識で自然発生的な地域の姿に近づいていく。


伝言ゲームと伝承

画像生成と直感模型と地域らしさには共通点があるように思える。生成系AIにおける制御不可能性、直観における偶然性や即興性、地域らしさにおける自然発生的な要素は、すべて繋がってくる。建築や都市計画、ひいては科学や近代の視点とも相容れない、無計画で非制御的な、移り変わっていくものがそこにはある。伝言ゲームのように不安定で、しかし確かな軸は共有されている、そんな世界観を感じることができる。

AIを地域らしさの文脈で試しているときに感じたものが、口伝・伝承との類似点だ。(今回は使用していないが)ChatGPTは一人の語り部として十分に機能するような気がする。語る人の個性や話の面白さ、地域の性格や生活風景など、必ずしも正確な情報が重要ではない伝承において、間違うこともあるがユーモアのあるChatGPTはとても相性がいい。嘘すらも伝承では肯定される。

(著者の石牟礼道子自身が)『苦海浄土』は「フィクションとしての聞き書き」であると述べている。(中略)
石牟礼には水俣病患者と同質の共同体意識をもっているという自覚がある。だからこそ石牟礼は、患者を代弁するというよりも、「ひとりの〈黒子〉になって」患者に語らせる。あるいは「変身した筆者の口を借りてモデルが語ったり交互変身をやる」という方法を選んだ。

結城正美『文学は地球を想像する』

石牟礼道子の『苦海浄土』も伝承の一つと言えるが、そこでは聞き手が当事者から聞き出した話を嘘=フィクションも交えて語っている。仮にAIが京島らしさの聞き手=語り手となり、京島と「同質の共同体意識をもって」、「ひとりの〈黒子〉になって」住民に語らせたら、どのような伝承が流れていくのだろうか。メディア=仲介者となったAIは、地域に溶け込み一体化することで、「京島」のアーカイブ=長老となるのだろうか。


#3. 地域の方々に見てもらう

実際に京島で展示することの一番大きなメリットは、地域の方々からの感想や意見をもらえることだ。「京島らしさ」を最も近くで体験し、自身も「京島らしさ」の一部となっている地域住民にとって、この京島LoRAプロジェクトはどのように映るのだろうか。京島とは関係のない外部の建築学生とAIによって作り出された京島らしい写真を、地域の住民、参加アーティスト、向島EXPO運営など、さまざまな文脈で京島と関わる方々に見てもらった。

投票システムのプロトタイプとして

私たちNESSの大きな目標の一つとして、画像生成AIを用いた地域の意志データ抽出方法を研究するというものがある。合意形成や意思決定という政治的問題に本質的に大きな影響力を持つAIは、どのように地域や社会に貢献させていくことができるのか、させていく必要があるのか。地域の良さをボトムアップ的に集めるシステムを開発する上で重要な課題を、今回は小さなプロトタイプとして実装してみた。

生成写真に対してさまざまな感想を頂いた。ここが京島らしい・らしくない、この写真が好き、この風景が京島にあったらいい、この部分に可能性を感じる、などリアルな京島と結びついたコメントがたくさんあった。興味深い意見として、ガラスの家具や派手なアトリエといった、京島にない要素が京島に置かれている写真に高評価が多く集まったことだ。
実在の風景写真を集めて地域らしさを考える試みはこれまでも多く存在するなかで、地域らしさをベースにらしくない写真を生成できるという画像生成AIの特徴は、新たな地域を考えるうえで大きな強みになると再認識した。

「家をくりぬいたところで食べてるのおもしろい」

また、今回は実現しなかったが、小さな玉を用いた投票システムも作成していた。好み・らしい・あるべき、などいくつかの要素で色分けした玉を、そう感じた写真に置いていってもらう。SNSのいいねのように、住民の意見や思いを気軽に集めることができるようになると、愛着を軸とした地域計画の大きな役に立つはずだ。
生成系AIの功績の一つがデザインや意見表明の民主化だとすると、京島LoRAプロジェクトが目指す方向性は、より参加しやすいワークショップであり、それはワークショップという枠を超え「いいね」などで気軽に意見を集めるシステムの設計なのかもしれない。


住民と考えていく「京島らしさ」

これから先、画像生成AIのLoRAが京島に広がっていくロードマップを描いた。抽出・描写・探索・保存といった軸で、地域に貢献できるような何かを続けていきたい。

  1. 「京島らしさ」を掘り起こす
    フィールドワークと選定作業を通して、地域の目線による「京島らしさ」が浮き上がってくる。

  2. 「京島らしさ」を作り出す
    作成した「京島らしさ」をもとに、画像生成AIを用いて好きな/地域らしい景観を作ってみる。

  3. 「京島らしさ」を探し続ける
    生成した画像から「京島らしさ」を考えてみる。いつも歩いている風景から、好きな要素を探してみる。

  4. 「京島らしさ」を未来へ残す
    誰も説明できない曖昧な「京島らしさ」を、未来の世代の京島にも語り継ぐことが出来るようになる。



ご連絡など

ここまでご覧いただきありがとうございます。
ご連絡などありましたら、以下の森原か須藤のXまでお願いします。



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