ボトムアップの建築設計ツールとしての生成AI "京島LoRAプロジェクト"(1)
京島LoRAプロジェクト
築100年の木造長屋地域のリジェネラティブな郷土的建築文化の再発掘
生成AIを用いて建築や循環型社会を考えてみよう、という内容の国際コンペに応募し、ファイナリストに選出していただいた。
本記事では、プロジェクトのコンセプトから作業プロセスまで、生成AIで地域的建築を考えた軌跡の全容を紹介する。
3ページにわたって5章の内容を紹介する
プロジェクト概要 (p1)
最終成果物 (p1)
画像生成AIプロセス (p2)
詳細コンセプト (p3)
今後の展開 (p3)
1. プロジェクト概要
1-1. コンペ概要
今回応募したコンペは、SPACE10 というデンマークの研究・デザイン機関によるもの。リジェネラティブで持続可能な未来のためのデザインを探索している。
コンペの目的は、画像生成AIをどのように循環型社会のデザインに活用できるかの模索である。普及し始めてから日は浅く、しかし圧倒的な潜在能力を持っているツールをどう使いこなしていくか。知見を集め共有していくために、本コンペはオープンソースとなっている。
コンペ要件とリジェネラティブな要素を下にまとめた。これらを満たすような未来を生成AIを用いて考えていく。
1-2. メンバー
学生グループ「令和の農地改革」の一部のメンバーが参加した。
建築・都市・農など幅広い分野で連携してプロジェクトを進めている。
森原
https://twitter.com/hamorari3
森屋
https://twitter.com/eugene_mori
須藤
https://twitter.com/pseudoschiz0
1-3. コンセプト
リジェネラティブな共生コミュニティを考えるために、墨田区の京島を敷地とした。
関東大震災や東京大空襲、バブルの開発からも逃れた京島は、木造建築の伝統がいまだに残っている地域である。彼らは自治的にDIYによる改修やコモンズ的な協働認識を持ち長屋をケアし改修しながら住み繋いでいる。このようなケアする考えは大量生産大量消費とは考え方が異なり、これからの住まい方として重要な側面を持つ。
しかし近年、東京の宅地開発や防災対策により、京島の伝統コミュニティに危機が訪れようとしている。それに対抗して、自治的な保全活動が行われている。
東京という近代都市の中で、自発的にそして人の手で維持された京島の建築スタイルを維持し、郷土的建築像を発展させていくことはできないか。これが私たちの課題意識である。
この郷土性のために画像生成AIを用いようと思う。
食べ物には郷土性がある。SPACE10のリサーチにおいても、日本の地産地消の郷土的料理は高く評価されていた。建築にも郷土性はあった。しかしいまやほとんど残っていない。ユニバーサルデザインが模範となり無印世界へと進んでいく21世紀において、京島の郷土性を抽出し、住民たちによるボトムアップのデザインの参考となるような生成AIの使い方を考えていく。
画像生成AI ”Stable Diffusion”には、LoRAという追加学習の機能がある。
追加学習とは、画像を数十枚ほどAIに覚えさせることで、そのスタイルを再現できるようにする技術のことである。
集められた京島の原風景からAIが学習していく「京島っぽさ」は、非言語情報のぬるっとした概念となる。この曖昧な概念集合は、住民たちが抱く集合的な記憶として捉えることができないだろうか?
そして、そのAIにより形成された集合的記憶を、住民のための新たなデザインツールとして活用することはできないだろうか?大規模開発や建築家のようなトップダウンの決定方法とは真逆の、ボトムアップでオープンソースな計画方法を提案する。
また、共同作業者の森原は、実際に京島でシェアハウスなどのプロジェクトを行っている。地域の住民たちとも交流し、リアルな経験をたくさん話してくれた。そのような実際的な知見が、本プロジェクトにとても大きな影響を与え、より有意義で実りのあるプロジェクトにすることができた。
1-4. 作業プロセス
本コンペでは、画像生成AI ”Stable Diffusion” のみを用いデザインを作っていく。作業は4段階に分けられる
1_ 概念の生成
実際に京島に写真を撮りに行く
それらをもとにLoRAを作成し、「京島っぽさ」という概念を生成する
また、写真からキーワードも抽出し、言語情報としてのデザインコードも把握する
2_ 発散的な生成過程
さまざまなプロンプトから無数の画像を生成する
今回は2500枚ほど生成
上手く行きそうな方向性を絞り込む
最終的に数枚を選ぶ
3_ 収束的な生成過程
選んだ数枚をもとに、要素の配置や構図を指定する機能を使用して、それぞれのバリエーションを生成していく
今回は1枚につき100枚ほど生成
最終的に1枚を選ぶ
4_ 最終調整
選んだ1枚のクオリティを上げていく
画像の解像度を上げたり、一部分の修正をしたりする
このように、「京島っぽさ」という概念をベースに、まず発散させその後収束させるというプロセスを経て、最も良い1枚を作り上げていく。
画像を生成する作業はAIに任せるが、選定は人間が行う。これが新しい分業スタイルなのかもしれない。
詳しいプロセス、Stable Diffusion のマニュアルは次のページで解説している
2. 最終成果物
2-1. 風景
コンペの作品として提出した画像を紹介する。外観、内観、ディテール1枚ずつと、4枚の追加画像が要件だった。
「京島コミュニティにおける、減築による共有スペースと路地にまで広がる共有農場」をテーマとした。
外観
誰でも使える農場
休日なので多くの人が集まっている
一階を壊し裏の路地との回遊性を高めた
植木鉢文化
内観
元々あった部屋を壊し構造を露出させ、京島らしさの象徴を見せる
奥の道路と手前の農場を繋ぎ、地域のアクセシビリティを増やす
地域のコミュニケーションスペースとして、多くの人々が足を運ぶ
ドアはなく開放感のあるプラン
農場で採った野菜を調理できるキッチン
ディテール
農場で採った野菜を調理できるキッチン
町の人々が利用できるような大きいキッチン
ワークスペースに開かれてる動線
木の構造と天板の見たことのない接続
追加
複数の住宅が接する路地に農場を配置
街を歩いていると農場に遭遇する
地面が土になっていて生態系に優しい
あまり見たことない風景
ブリコラージュのような住人で修理されてきたファサード
休日に庭に集まっている
植木鉢文化
狭い路地と連続するファサード
野菜を扱っている店
昔から大事に使われてきた棚
採れたての野菜
ここでどのような生活が行われているかが分かる一枚
2-2. 京島っぽさ
京島の景観を形成している要素をいくつかあげてみる
などである。上の7枚を見てみると、これらの要素がかなり出ていることが分かる。
また、左は現実の写真で、右が生成写真である。この一枚からだけでも、様々な要素が抽出され反映されていることが分かる。
「京島っぽさ」をうまく作ることができた。
2-3. コンペ結果
コンペは惜しくもファイナリスト止まりだったが、日本では唯一のファイナリストでもあった。
空想的なプロジェクトから現実的なものまでさまざまな提案があった中で、地域性をベースとしたボトムアップザインとしての画像生成AIという使い方はほとんどなく、一つの可能性を示すことができたと思う。
I would be very happy if you gave me coffee!!
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