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「責任ある射精」ーー『射精責任』
「射精責任」
たった4文字の言葉にこれほど衝撃を受けたことは最近なかったのではなかろうか。
前回の「特殊出生率」との関連から、ネットの新聞記事をあれこれ眺めていたら突然、前触れもなく遭遇。
毎日新聞の有料記事
ガブリエル・ブレア『射精責任』(太田出版、村井 理子訳)
発売は2023年7月。
すでに一年以上前(執筆時)。
なので、知ってる人は「なにを今さら」といったところだろうか。
原題は Ejaculate Responsibly 。命令文なので「責任をもって射精せよ」
「エジャキュレート・レスポンシブリー」と声に出して読んで見る。
なかなか新鮮な感覚ではないか。
邦題の『射精責任』は確かにキャッチーで、出版社としてはこっちを選ぶ。
ただ、意図をもうひと匙、汲むとすれば、「責任ある射精」じゃなかろうか。
「射精責任」という語は、過去、つまり、射精した事実を強調する。
一方、「責任ある射精」は、未来(と現在)を志向する。将来におけるその行為には責任があることが強調される。
これは個人的な語感だろうか。
著者の意図の中心は、書評やら座談会、目次によれば、「未来」にある。
「読んでから書け」と言われるかもしれないが、こちらの関心は「射精責任」というタイトルの語感にある。
日本語は最初にくる語のインパクトが印象に影響することが多い。
だから、書名としての「射精責任」は正解だろう。
前置きをして「正しい」解答を確保して失敗している書名は多い。
かつて、この手の本は、ブラブラ書店を歩いているときに手にとってもらうことで売れた。ちょっとしたポスターやチラシを店内に貼ってもらうことで目を引いた。
書店が少なくなれば、本との突然の出会いが減って、本が売れなくなる。
店で売れなくなれば、書店はさらに減っていく。
言い古された悪循環は20年くらい前から本格的に進行した。
これについては、一定の評価はすでに決しているのではないか。
「本が売れなくなっただけで、活字を好んで読む人の数はさほど減っていない」
そこから言えることは「文章を生み出す力を衰えさせてはいけない」ということだ。
「書名を生成する力」と、その背後にある文章への感覚をもっていたいものだ。
さらに言うと、英語と日本語の語感はどのように違っているのかということか。
英語の命令形は日本語に訳すときには命令形にできないことの方が多い。
そこには一定の答えはあるかもしれないが、学校で教えられるようなことではない。
それを「英語教育の難しさ」で片づけていいのか?
話が取り止めなくなったので、終わりにします。