「家ある子」2月24日公演 『麦茶 オン ザ パレード』脚本
場所
こたつのある一室
登場人物
高橋
田代
馬場
矢沢
真っ暗な部屋。コンロの青い光だけがぼうっと浮かんでいる。こたつに入って神妙な面持ちで鍋を見つめる四人。高橋が懐中電灯をつけて自分の顔を照らす
高橋「で、誰です」
馬場「・・・(懐中電灯をつける)」
田代「・・・(懐中電灯をつける)」
矢沢「・・・(懐中電灯をつける)」
高橋「黙ってたってね、終わりませんからね」
馬場「・・・」
田代「・・・」
矢沢「・・・」
高橋「怒りませんから、正直に言ってください」
馬場「・・・」
田代「・・・」
矢沢「・・・(鍋に端を伸ばす)」
高橋「待った待った待った待った。え、え?なんですか?え、今ですか?」
矢沢「あ、いや。冷めるんで」
高橋「え?」
矢沢「え?」
高橋「・・・」
間。
田代「あ、ゴメンなさい。冷蔵庫の牧場の牛乳プリン食べたの俺です」
高橋「いや違うでしょ、絶対に今の議題はそこじゃないでしょ。新たな罪を申告しないで。こんがらがるでしょ」
矢沢「え、こんがらがるんですか?何がこんがらがるんですか?プリンですか?あ、こんがりプリンですか?」
高橋「・・・え、何をおっしゃってるんですか?」
矢沢「・・・(理解できないという顔)」
高橋「・・・(恐ろしいと思って瞬き)」
間。
高橋「はぁ・・・これです。(部屋の明かりをつける)誰なんですか、みんなの鍋を真っ、青にしたのは(鍋を指差す)なんですかこの惨状は。ちょっとしたテロですよこれは」
馬場「・・・」
田代「・・・」
矢沢「・・・」
高橋「・・・はぁ。みなさんね、親しき中にも礼儀ありって言ってね、いくら闇鍋パーティーって言っても、これはダメですよ。え?よく考えてみてください。暗黙の了解ですよ。どこでもいい、どれでもいい、だれでもいい、なんでもいい。はい、これ魔の暗黙の了解四ワードです。どこでもいいーは、素敵なデートにできると仰るならならどこでもいいーでしょ?この場合どこでもいいーにお札と切手の博物館は入りませんからね?どこでもいい、だれでもいいも行間をよまないと大変なことになりますからね」
馬場「・・・(鍋に端を伸ばす)」
高橋「はいそこ。はいストップストップ。(全員に)え?聞いてますか?」
高橋以外みんな勢いよく頷く
高橋「はい(よろしい)。じゃあ今回のなんでもいいよの暗黙の了解はわかりますか?今回のなんでも入れていいよーのなんでもは、人間が食することのできるレベルに達する食材ならなんでも入れていいよーのなんでもですよね?」
馬場「ぶふっ(耐えるも思わず吹き出す)」
高橋「え?」
馬場「高橋さんお札と切手の博物館に因縁でもあるんですか?」
高橋「まーたあなたは話の腰折らないで、別にお札と切手の博物館と私は何の関係もありませんからね!?」
馬場「(絶対あるなと笑いながら)はい」
高橋「はい(よろしい)。この中に暗黙の了解を守らなかった方がいますね?もうこのままじゃあ埒があかないので、」
矢沢「(サクッと鍋から一口いく)」
高橋「あーーーーみましたいまみましたよ!矢沢さんレッドカード食べられないですよ退場ですよ!」
矢沢「いや、これ普通に食べれますよ高橋さん」
馬場「ほら毒味も終わったんで早く食べましょ」
田代「俺も食いたいっす」
高橋「えっ、えぇ〜?うーん・・・(しぶしぶコタツの中に入る)」
田代が器に高橋の分のをよそう。
高橋、目の前に置かれた醤油とポン酢を見比べる。
高橋「どっちの方がこの惨状を相殺できるんだ・・・」
馬場「酸味あるからポン酢じゃないですか」
高橋「いや、新たな味覚くわえちゃって化学変化でも起こしたらどうするの、もうそれこそ取り返しつかなくなりますよあなた」
馬場「えー、口の中さっぱりしますよ?」
それぞれ思い思いによそって鍋を食べる。
矢沢「うーわ。あぁあぁあぁあぁ・・・(携帯でネットニュースを見ながら)今年も餅のどに詰まらせて死んだ人めっちゃいるみたいですよ」
馬場「一周回って餅が一番の凶器説ありますよね〜」
田代「餅だと何味ですか?」
馬場「・・・きな粉」
矢沢「私、あんこです」
田代「俺もあんこ」
馬場「(鍋から器によそいながら)高橋さんお餅何味派ですか?(お玉を鍋に入れたままにする)」
高橋「(お玉を小皿に戻しながら)醤油です」
馬場「えー、そこはきな粉で、ほら、(間を分けるフリ)南北対立てきなのやりましょうよ〜」
高橋「は、わかってないなぁ〜。きな粉なんてね、邪道の極みみたいなもんですよ。だってね、あれほらね、なんていうかね、口わああ〜ってなるでしょ、わああ〜って」
矢沢「(手を叩きながら笑って高橋を指差し)あははは、ウケる」
高橋「・・・(なんだという顔)」
矢沢「ああ〜。そういえば、みなさん今って何してるんですか?」
凝縮された間。
高橋「多分今の今世紀最大の暗黙の了解でしたよ」
馬場「うん、でしたね」
矢沢「あ、でした?」
田代「うん、でした」
全員なぜか意味なく笑い出す。
矢沢「で、みなさん今って何してるんですか?」
高橋「僕だって気になったけど聞かなかったのに」
矢沢「え、やっぱ気になりますよね?」
馬場「そりゃあまあ気にはなりますよ」
間。
田代「・・・え、これ言ってく感じですか?」
高橋「え、誰からですか?」
田代「俺嫌すよ」
高橋「僕だって嫌だよ〜」
馬場「あ、私フリーです」
高橋・田代「えぇ〜・・・」矢沢「へぇ〜(笑顔)」
高橋「言わなきゃいけない流れ作りましたねこの人」
田代「なんか嫌だなぁ。あ、フリーてフリーターですか?」
馬場「あ、無職です」
高橋・田代「えぇ〜・・・」矢沢「へぇ〜(笑顔)」
馬場「はい(高橋に促す)」
高橋「え、次僕ですか?え、いやぁ、別に普通ですよ?」
田代「はい」
高橋「まぁ僕は一応正社員としては働いてますからね」
馬場「はい」
高橋「まぁ生きていくっていうのは何かとお金がいりますから、えぇ」
矢沢「はい(促す強い眼差し)」
高橋「はい、田代くんどうぞ」
田代「えぇ〜マジすか、やだなあ。あの、美術品の、販売職です」
馬場・矢沢「へぇ〜」
矢沢「あれすか?壺とかすか?ペルシャ絨毯とかすか?」
田代「うん、まあ、そんな感じかな」
馬場・矢沢「へぇ〜」
馬場・田代・矢沢一斉に無言で高橋の方を見る。
高橋「え、えぇ〜・・・なんかずるくない?・・・言いますけど。はい。・・・
(ものすごくもったいぶって)営業です」
馬場「・・・」
田代「・・・」
矢沢「・・・」
高橋「え?」
田代「あははは、普通だあ〜」
矢沢「うん、全然ウケないっすね」
馬場「なんだったんですかあの勿体ぶりようは。期待しちゃったじゃないですか!」
高橋「なっ・・・あぁそうですか?すみませんね、勿体ぶりのウケない普通の野郎で」
田代「高橋さん何の営業なんですか?」
高橋「あー、食品メーカーです」
矢沢「え、まさかかりんとうとか宣伝したりしてるんですか?」
高橋「いや、うちはハムです」
矢沢「ハム!?あははは、ウケる、ハム、ウケる・・・」
田代「あーーーー。ああ、(高橋に向かって)今すかね?」
高橋「え?」
田代「あ、俺です(自分を指差しながら)」
高橋「あ、はい僕です(真似して自分を指差して)」
高橋「え?」
田代「え?」
高橋「え?」
田代「え?・・・青色一号入れたの俺です」
なんのことやらと視線を合わせたあと、全員無言で鍋の方を見る。
高橋・馬場・矢沢「・・・あぁ〜〜」
馬場「これ青色一号なんですね〜」
矢沢「すご〜」
高橋「なんで身近に迫る危険な着色料ベスト3の青色一号を入れてるんですか」
田代「あ、わかります?(ちょっと嬉しそうに)」
高橋「わかりますよ。高校の時に家庭科で習いましたからね。ご丁寧にビデオ付きで。と言うか、え、今ですか?今種明かしですか?」
田代「いやなんか、告白ついでにいいかなって」
高橋「このタイミングなんだかずるいなあ〜何でまた青色一号なんて入れたんですか?自分も不利益被るんじゃないですか?前に仰天ニュースの仰天チェンジで『着色料で食欲減退30kg減!』とかやってましたけど、僕今仰天チェンジしそうですけど」
田代「なんか、全部いっかってなって」
高橋「社会に対する憂さ晴らしテロをこんな邪気のない会合で決行しないでください」
馬場「田代さんがっていうのが意外でしたけどね。てっきり私高橋さんかと思ってました」
高橋「え、僕ですか?」
馬場「はい。だって高橋さん、小学校の頃とかに窓ガラスとかわっちゃったら、逆に自分から先生に窓ガラスが割れてました〜って報告しに行くとか、姑息なことして難を逃れてそうですもん」
高橋「バカにしてます?」
馬場「はい。ちょっとしてます」
高橋「・・・(こいつはという顔をして声にならない小言を言っている)」
田代「あー・・・ほうれん草」
高橋「(無言で田代の器にほうれん草を入れる)」
田代「え?(高橋の器に雑に返す)」
高橋「・・・(なんだという顔)」
田代「俺、ポパイよりほうれん草の方がかっこいいって思ってたんすよ。あ、俺ん家、阿佐ヶ谷の1Kで、部屋に花が咲いたヘチマの絵飾ってあるんですけど。それ、近所で見つけた画廊で、緑のハンチング被った盲目の爺さんから勧められて。買って。十万四千円、十四万四千円渡したんですよ。そしたら、その爺さん、千円足りないって言ったんすよ。薄目開けて。気づいたんですよ、気づいたんですけど、俺、財布から五千円札出して千円札四枚と交換しました。なんていうか、俺って、だいたいそんな感じなんすよね。会社入ってからも、後輩と、彼女と、同期と、あとそういう色々で自爆して飛ばされた子会社の部長。ですね。子会社は、実家みたいなところでなんていうか、あー、やっと俺の居場所見つけたなって思ってたんですけど。異動してしばらく経って、誕生日に部長から飲みに誘われて、人に誕生日祝ってもらうの久しぶりだったから、もうかなり、ほんと嬉しかったんですけど。ビールのグラスが矢沢本くらい空いた頃に、部長、プレゼントくれながら言ったんですよね。誕生日おめでとう。そこでお願いなんだけど、百万円貸してくれないか?って。その時はとりあえず考えておきますって言って、家帰ってプレゼントの時計のブランドググったら、千円くらいのまがいもんでした」
矢沢「・・・(耐えられず吹き出し)ぶふっ」
高橋「・・・(目でこらと訴える)」
馬場「(つられて笑い出す)ふっ、ふふふ」
高橋「・・・(目でこらと訴える)」
田代「いやもうほんといっそ笑ってくれ、頼む」
矢沢「はい、ウケてます」
田代「ありがとう。ずっとねぇ、俺はほうれん草だーって思って頑張ってたんだけどねぇ」
馬場「ほうれん草?」
田代「うん。ポパイのほうれん草。ポパイって、結局ほうれん草がなくちゃただのちょっといかつい人じゃないですか。俺ずっと、自分はほうれん草だーって思ってたんですよ。ほうれん草は、捕食されるけどポパイを強くしてるでしょ。だから結局一番の勝ちなんだーって。でも、よく考えたらそんなことないんす。賞賛されるのは怪力のポパイなんです。俺、その次の日に退職届出しました。その時計、ちゃんとつけて」
矢沢「・・・いやぁ〜。うん、いい話ですよ。うん、いいなぁ、ロックだなぁ」
田代「だよね?ダサいんだけどさ、俺その時だけはポパイになった気がしたよ」
馬場「へぇ〜それで田代さんやめてたんですね」
田代「そう」
馬場「あれ?そういえば高橋さんは何で来なくなったんでしたっけ?」
高橋「え?このタイミングで僕に話振ります?」
矢沢「『世界の名言名句1001』です」
馬場「え?」高橋「ちょっと、」
矢沢「高橋さん、『世界の名言名句1001』放り投げて、窓ガラス割ってやめたんですよ」
馬場「ええ?」高橋「はぁ〜・・・(言っちゃった)」
矢沢「ある時ね、高橋さん部長に呼び出されててね、あーなんかやらかしたんかなーと思ってぼんやり横目に見てたんですよね、そしたらこの人、部長の机の上に置いてあった『世界の名言名句1001』を、バシィッと奪って、こう、思いっきり、窓ガラスに投げつけたんですよ!」
田代「あははは」馬場「へぇ〜(やばいという顔で高橋を見る)
馬場「高橋さんそんなパワーで押すイメージなかったですけどね」
矢沢「大丈夫です。『世界の名言名句1001』、何せ世界の名言名句が1001も入ってるんで、(両手で分厚さを真似しつつ)こんぐらいあるんですよ。15の夜初心者でも、結構簡単に窓ガラス割れます」
馬場「へぇ〜やば〜」
矢沢「あ!それでウケるのがね、のちに本屋で見てやばかったんですけど。その飛んでった『世界の名言名句1001』の帯にね、くっ、くくく(堪えられず笑いながら)、人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ、チャーリー・チャップリンて書いてあるんすよ。あははは、もう、ハンパないっすよね、そりゃ喜劇だわ、あははは」
高橋「そりゃどうも。全くあなたって人は人の一世一代の『ちょっとカッとなった』をむやみやたらに言いふらさないでください」
矢沢「え、ちょっとこのタイミングに聞くんですけど、あれ何で『世界の名言名句1001』投げるに至ったんですか?え、怒られてたからですか?」
高橋「いや、別に僕はあんなしょうもない部長一人に叱られたからって何でもないですけど」
矢沢「え、じゃあ何ですか?」
高橋「・・・いや、それはあいつが」
矢沢「はい」
高橋「同じ部署の、飼ってたインコが死んで泣いてた女性のこと、たるんでるだから仕事ができないんだってバカにしてたから」
馬場・田代・矢沢「えぇ〜〜」
田代「なんか急にいい人っぽくて腹たつんですけど」
高橋「いや、僕もオカメインコ飼ってたから感情移入できちゃったんだよ。ペットロスってすごいんだよほんとに、うん、ほんとにね」
矢沢「(ちょっとツボに入って)オカメインコ・・・」
馬場「あぁ〜でも聞けてよかったですよ。田代さんも高橋さんもある時からぱったり顔見なくなったから、何があったんだって気になってたんですよ」
田代「そんな見てるもんなんですね」
馬場「そりゃ見てますよ〜、受付なんて暇な時は人の顔見てるくらいしかすることありませんもん〜。次来る奴のネクタイの色当てるゲームとか、頭の中で一人でしてます。まあそんなのずーっと続けてたら、なにこれってなっちゃって、まぁやめたんですけど」
田代「あー馬場さんもやめてたんすね」
馬場「はい。私ね、これ特技なんですけど、人生でね、物事始めたらきっかり1年でなにこれがくるんですよ」
高橋「なんですなにこれって」
馬場「なにこれはなにこれですよ。高校の時も、天文部入ったんですけど星見てたけどなにこれってなっちゃってやめて。それで体操部に転部して股開かされながらなにこれってなっちゃってやめて。大学も考古学先行してアンモナイトの渦巻き眺めてたらなにこれってなりました。それで、一年で辞めて、働いて、変わらず一年に一回のなにこれです」
田代「それだいぶ社会に向いてないっすね」
馬場「そうなんですよ。でも私、最近一個気づいたんです。一個だけ、いくらやってもなにこれがこないことがあるんです」
高橋「なんですか?」
馬場「寝ることです」
高橋「・・・(こいつという顔)」田代・矢沢「ああ〜(納得)」
高橋「私、社会に培養されて生きていきたいんです。ほら、映画とかでもよくあるじゃないですか。未知の生物とかエイリアンとかが、なーんかよく分からない黄緑っぽい液体に入れられて、こう、チューブとかで栄養送られてるの。私、ああいうのが理想なんですよ。え、だって夢みたいじゃないですか?本当に、何もしなくても、心臓動かせるんですよ?もうご飯食べるのもめんどくさいし、ベッドまで歩いていくのもめんどくさいんで。私がジュラシックパークのヴェロキラプトルだったら、絶対逃げ出したりしませんもん。人様の恩恵に預かった方が、快適に暮らせるに決まってますもん。あ、そうだな、こたつで培養されたいな」
田代「ああ、いっすね」
高橋「待って、田代くんまで俺の分かり得ない思想の世界に行ってしまわないで」
馬場「高橋さんはもうちょっと他力本願の念を覚えた方がいいですよ」
高橋「は、そんなの信用してたらね、いつ殺されるかわかりませんからね。チューブから流れてくるのが明日も美味しい栄養だなんて保証ないでしょ?現にこうでしょ?(鍋を指差して)明日チューブから流れてくるのは、青色一号かもしれないんですよ?」
矢沢「あははは、それウケる(ツボに入る)」
高橋「でしょ?怖いでしょ?(ちょっと上手いこと言ったなと嬉しくなっている)」
馬場「あれですね、青色一号送られっちゃったら、アバターなっちゃいますね」
なんやかんやツッコミ合いながら和気あいあいとみんなで笑う。
矢沢「あ。あー、そういえば。(毎回好きなモモンガの名前をいってください)のお墓なんですけど」
凝縮された間。
田代「・・・暗黙の了解だ」
高橋「はい、です」
矢沢「あ、でした?」
馬場「うん、でした」
矢沢「高尾山にしました」
田代「高尾ですか?」
馬場「何でまた高尾ですか?」
矢沢「なんか、東京で野生のが生息してるのは高尾山ぽいんで、一応、故郷に」
馬場「へぇ〜」
高橋「野生かもわからなかったですけどね。どちらかというとペットのコジマとかにおられるようなタイプの方だと思いますけど」
矢沢「はい、でも一応」
高橋「うーん、まぁ、はい」
矢沢「頂上の、やまびこ茶屋の裏の木陰に穴掘って、そこに埋めました」
田代「え、あれから、えっと」
馬場「三年です」
田代「もうそんなもんかあ。長生きだったんですかね?」
高橋「モモンガの寿命はだいたい五年くらいらしいですよ」
矢沢「あ〜じゃあ上々ですね」
高橋「会社の前にいた時はびっくりしましたよ本当に」
馬場「高橋さん(モモンガ)抱えて絵に描いたようにあたふたしてましたもんね」
矢沢「あの慌てようじゃ人集まりますよね」
田代「可愛かったすね、(モモンガ)。矢沢さんたまにみんなに写真送ってくれたじゃないですか。俺、あれにちょっと癒されてるとこありましたもん」
馬場「うん、可愛かった」
矢沢「永遠に飛ぶことなかったですけどね」
高橋「可愛かったなあ・・・」
沈黙が流れる。
突如として矢沢が机を叩き大きな音がする。
矢沢「あ、すみませんコバエです(ふきんをとり手を拭く)」
高橋「矢沢さんそれ台拭きですよ」
矢沢「(聞いていない)ちょっと思い出したことがあるんですけど。私、小さいころずっとばあちゃん子でね。どれくらいばあちゃん子だったかというと、自由研究、卒業文集その他もろもろ全部ばあちゃん題材にやるくらいにはばあちゃん子だったんですけど。ばあちゃんね、私が東京来るちょっと前に、死んじゃったんです。ばあちゃん、夜中にカップ酒片手にね、町うろうろしてたみたいなんですよ。大声で、沢田研二の『カサブランカダディ』歌いながら。翌朝、ばあちゃん停泊場で見つかって。私ね、ばあちゃんが死んだって聞いた時、ちょうどひたちなか市の干しいもかじってたんですけど。なんかあ、悲しいとか悔しいとか、そういうの全然なくて。むしろあーばあちゃんやってくれたなあ、やっぱり期待を裏切らないなあみたいな、そういう謎の感心的なのがあったんですけど。まあそのことを母ちゃんに言ったら打たれました。でも、やっぱりばあちゃんの死に方こそピカピカのキザだと思うんすよ。だって、めちゃめちゃウケるじゃないすか。やっぱり世の中めちゃめちゃウケる奴が勝ちだと思うんすよ。その時のことを、なんか思い出しました。たまにね、(モモンガ)の顔ちらつくんですよ。こう、頭の中の、テレビで言うとワイプの位置に(ワイプの手真似)。でもね、やっぱり悲しいとか悔しいとかじゃないんすよ。だから、今日の鍋めちゃくちゃ美味しかったです。(モモンガ)のお通夜の鍋、めちゃくちゃ美味しかったです」
田代「はい」
馬場「うん」
高橋「・・・だいたいお通夜に闇鍋なんておかしいと思いましたけど。まあ確かに?なんだかんだ美味しくはありましたけど・・・(不覚にも涙がこぼれ、ふきんで涙を拭う)
矢沢「高橋さん、それ台拭きっす」
高橋「(聞いていない)あぁ〜もう、うどん。うどん入れますか?」
田代「はい(手を挙げる)賛成です」
馬場「はい(手を挙げる)」
矢沢「はい(手を挙げる)」
高橋「はい(小さく手を上げて頷く)」
うどんを入れて適当に混ぜて分ける。
高橋「なにこれ、青色一号とうどんの相性果てしなく悪いなぁ〜・・・」
うまいなど言いながら食べる。
馬場「(思い出して)あー、そういえば、あれ知ってます?この前目黒で行ったんですけど、あれ、寄生虫博物館」
田代「あぁ!俺行ったことありますよ!」
馬場「おお〜初めて行ったんですけどめっちゃよかったです。もう大集合って感じで。(うどんを見せて)ちょうどこういうのいましたよね」
口に運ぼうとして高橋・矢沢の手が止まる。
田代「あそこめっちゃいいっすよね〜、なんか、ぞわぞわしますよね」
馬場「ですよね。あのうわあ!寄生虫だうわあ!って感じいいですよね。うん、ぞわぞわします」
高橋「僕は今あなたたちの食欲カウンターにゾワッとしてますけど」
馬場「え?」
田代「どういうこと?」
高橋「・・・(恐ろしいという瞬き)」
矢沢「・・・(恐ろしいという顔)」
高橋「あ、皆さん。そろそろですねはい。計画の中で言うと第二回目の具材投入の時間です」
馬場「あ、はい」
田代「もうそんなですか?」
矢沢「やばいな〜こりゃウケるな〜」
それぞれワイワイ言いながら具材を取りに散らばる。
高橋「みなさんもうさすがにわかりましたよね?覚えてますよね?暗黙の了解ですよ、ええ。はいじゃあ電気消しますからね」
馬場・田代・矢沢「(席に座り直し)はーい」
高橋「いいですか?・・・オッケーですか?・・・大丈夫ですか?もう一度言いますよ、暗黙の了解ですからね。これフリじゃないですよ。押すな押すなは押せ押せだじゃないですよ。よろしいですね?はい。じゃあ電気つけますよ〜」
部屋の明かりが点灯。
鍋が今度は紫色になっている
高橋「誰ですか!?」
暗転。終わり。
(作 おしうみあゆみ)