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渡辺亀吉を知っていますか?

 渡辺亀吉は神戸教会の信徒だった人物です。1857(安政4)年生まれ。父親には酒と博打癖があったため、亀吉が6歳の時に母親は亀吉を残して郷里に帰ってしまいました。さらに彼が8歳の時に父親が蒸発したためおばのところに引き取られましたが、10歳になると家から追い出されてしまい、彼は生きるために盗児(子どもたちの犯罪者)グループに入って盗みを繰り返しました。

 彼は監獄に入っては出、また入っては出ということを繰り返します。当然ですよね。出所したって生きるためには盗むしかないのですから。しかし亀吉は神戸監獄で教誨師と出会い、勉強を教えてもらいつつキリスト教の話を聞くこととなりました。またキリスト者の原胤昭が亀吉を自宅に引き取り(出獄人保護)、家族同然に接して育てました。亀吉は何度も悪癖による失敗を繰り返したそうですが、原は彼を見捨てることなく支え続けました。

 そのような支えもあり彼は彼自身の力で少しづつ生きるために身につけた盗癖から離れて生きられるようになります。やがて彼は神戸監獄で働くようになり、かつての自分と同じような境遇の子どもの囚人たちに教育を施す一方で孤児となった子どもを自宅に引き取って育てるなどしました。

 亀吉の歴史を知ると彼に盗癖があったのは彼自身の性格に問題があったからでも彼の血や遺伝子によるものでもなく、彼の育った環境がそうさせたのだということが分かります。そして亀吉の出獄人保護を引き受けた原胤昭はそのことをよく理解し、環境さえ変われば亀吉が徐々に神さまに造られた彼本来の姿に回復していけることを信じて寄り添い続けたのではないでしょうか。

 よく犯罪を犯した人に対して「この人はこういう人間(性分)なんだ」という言い方がなされますが本当にそうなのか、生育環境がそのような歪みを生じさせたのではないかと疑ってみることも大切なのだと思いました。

<参考>

濱田栄夫『門田界隈の道 もうひとつの岡山文化』吉備人出版、2012年

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