パニック・ルーム(2002)
映像テラーのデビッド・フィンチャーが誘う
鋼鉄の扉を隔てた心理戦の攻防
謎めいたプロットをスタイリッシュな映像で膨らませ物語世界に引き込むデビッド・フィンチャー監督。そんなストーリーテラーならぬ、映像テラーのフィンチャーが過激な映像なしの正攻法で密室サスペンスを製作しました。
【ストーリー】
メグ(ジョディ・フォスター)は慰謝料を払う前夫への当てつけに大富豪が遺した4階建ての高級タウンハウスを購入し、娘のサラ(クリスティン・スチュワート)を連れて移り住みます。
しかし、その家で過ごす初めての夜、3人組の強盗が侵入し、メグとサラはとっさにパニック・ルームへ逃げ込みます。
ところが、強盗たちは部屋の前で執拗な脅しをかけ、扉を開けるように強要します。その部屋には彼らが狙う富豪の遺産が隠されていたのです。
本来は防犯用の避難部屋として使われるパニック・ルームは、鋼鉄のフレームと厚いコンクリートで固められ、扉の開閉は内部からしか操作できず、外部から破壊して侵入することは絶対に不可能な安全地帯です。
ところが、引っ越し第一夜というのが番狂わせの始まりで、強盗は新しい住人の存在に動揺し、その対処を巡って仲間割れ寸前、また母娘は緊急用の外線電話の接続を翌日に延ばしたことで部屋に閉じ込められた格好になります。
強盗たちもプロじゃなければ、母娘にも闘う術がありません。そんな素人同士の闘いを描いた脚本は「わずかに開いた壁の穴から隣家の人影に助けを求める」「強盗のいないすきに寝室に充電中の携帯電話を取りに行く」など、おそらく文字にすると何の凄みもないト書きの羅列だったことでしょう。
それだけストーリーはシンプルなのですが、わずかな油断や判断の誤りにより状況が二転三転する心理戦の攻防は緊迫感に溢れています。
両者の目的は鋼鉄の扉を開けることで一致しているのに、それができないあせり、いらだち、もどかしさ、そして恐怖――。
過激な映像表現を封印したフィンチャーはもうひとつの得意技、デジタルトリックを駆使したキャメラワークにより、窮地に陥ったキャラクターのさまざまな感情をスクリーン中に充満させました。
見えないものを感じさせ、観る者の想像力をかき立てるフィンチャーの映像マジックに酔わされます。
芸達者のジョディ・フォスターが本格アクションに挑戦し、闘う母親を大熱演。後に『トワイライト』のヒロインで大ブレイクするクリスティン・スチュワートが娘のサラを演じています。