桜田門外の変(2010)
日本を守るために立ち上がった無名の侍たちの波乱の運命
歴史の重みと平和の尊さを改めて知る
近代日本の夜明けを目指し、一体どれほど多くの熱き志が砕け散ったのだろうか。坂本竜馬や西郷隆盛ら、後世に名を残す幕末の志士の活躍に先立ち、日本の未来のために倒幕を試み、無念の涙と血を流した侍たちがいました。
徳川幕府の悪名高き大老・井伊直弼暗殺事件として知られる「桜田門外ノ変」。これまで史実に基づいて描かれた事のなかった事件の顛末を、『敦煌』『男たちの大和/YAMATO』の巨匠・佐藤純彌監督が見事に映像化。実行者である元水戸藩士たちが辿る波乱の運命を明らかにします。
【ストーリー】
物語は襲撃前の水戸藩士たちの動きから幕を開けます。
水戸藩の関鉄之介(大沢たかお)は大老襲撃計画の決定を受けて江戸へ向かいます。迷惑をかけないよう水戸藩を脱藩し、妻子や愛人と静かに別れを告げた関は、18名の実行部隊と合流。水戸藩・尊王攘夷派の金子孫二郎(柄本明)の下、実行部隊は決行日や場所、襲撃方法や薩摩藩の挙兵等を確認、関は部隊の指揮官に任命されます。
安政7年3月3日、雪の桜田門。井伊直弼襲撃シーンは序盤にやってきます。不遜な態度の井伊直弼(伊武雅刀)、静かに時を待つ襲撃直前、白銀の大地を真っ赤に染める大乱闘、そして衝撃的な井伊の斬首と、実行者たちの逃亡の様子まで、歴史に名高い「桜田門外ノ変」を精巧に再現。その生々しい描写に圧倒されます。
物語の中心になるのは、「桜田門外ノ変」の後のこと。薩摩藩の挙兵を頼り、金子や関ら実行部隊は京都へ向かいます。しかし、薩摩藩は時期尚早として挙兵を中止、援軍を失った実行部隊は、幕府はもちろん、かつての同志だった水戸藩からも謀反の罪で追われることになります。
日本のために立ち上がった関らが追い詰められていく様子に胸が詰まります。孤立無援となってもなお望みを捨てず、賛同する藩を求めて、鳥取や薩摩へ向かう関。日本を変えようと静かに闘志をみなぎらせる一途な関を大沢たかおが好演しています。
佐藤監督は襲撃後の様子と並行して、ペリー来航から始まる井伊直弼の悪政の数々を描き、「桜田門外ノ変」に至る道程も的確に説明。リアリティとスケール感、深みのある人間ドラマを融合した巧みな演出は観る者の心をしっかりと掴みます。
今は、平和の象徴である天皇が居を構える皇居。その一角にある桜田門がかつて惨劇の舞台となり、多くの尊い魂が奪われました。
本作を通し、歴史の重みと平和の尊さを改めて噛みしめることでしょう。胸を熱くする歴史大作です。