キャピタリズム ~マネーは踊る~(2009)
未曾有の世界不況に立ち上がった
マイケル・ムーア監督渾身の1作
2008年、リーマン・ブラザーズの倒産で顕著になった世界金融危機。世界的な不況といわれた当時、実際に泣かされているのは一般庶民たちばかりと感じた人は多かったのではないでしょうか。(もちろん、その思いは今なお続いています……)
2009年に発表された本作では、地位や権力を盾にした金持ちばかりが優遇され、私腹を肥やしているアメリカの恐るべき資本主義社会の実態を、アポなし突撃取材でおなじみのマイケル・ムーア監督が暴き出します。
【ストーリー】
2008年秋、アメリカが震源地となった世界同時不況。それは信用度の低い低所得者向けの住宅ローン、いわゆるサブプライムローンの焦げ付きから始まりました。
映画は未曾有の世界不況の象徴として、住宅ローンを払えずに自宅を追われた人々の悲惨な光景で幕を開けます。
人々が路頭に迷うのを承知で家を差し押さえる銀行関係者、「仕事だから」と平然と差し押さえ物件を転売して儲ける不動産業者などがいる実情には、ムーア監督ならずとも怒りと疑問がわき上がりますが、すべては資本主義(キャピタリズム)社会の産物です。
では、人間の人生をも狂わす資本主義とは何なのか、ムーア監督は独自に調査を進めていきます。
本作では、1980年代のレーガン政権から始まった、一部の大企業幹部や政治家ら富裕層が自分たちに有利に作り上げた金融システムのからくりを明らかにし、その巧妙で傲慢なシステムに平気で乗っている金の亡者たちを次々と断罪していきます。そして、異様な経済システムから抜け出すための方法を提示します。
『華氏911』ではブッシュ大統領政権を、『シッコ』では医療制度の問題点に切り込んだムーア監督。その信念は、「真面目に働く労働者たちが苦しまない世の中を作ること」というのが、本作で一層鮮明になります。
金融機関救済のために投入された公的資金は7千億ドル(約63兆円)。これを「返せ」とウォール街を巡り歩く、庶民の味方ムーア監督渾身の抗議行動は愉快痛快。要求が通らないことなど百も承知ですが、声を上げ、立ち上がることが1%の心なき富裕層に苦しめられる99%の一般庶民が対抗する手段なのです。
この映画を見て、過剰な利益を求める資本主義者たちの考えが改まるとは思えません。彼らの思考は常人の想像の域を超えています。だからこそ「こんな国に住みたくないから闘う」と言い切るムーア監督の熱い志を、素直に支持したいです。
独断的な主張が賛否の分かれるムーア監督ですが、周到に事実関係を調査し、厚顔無恥な強敵をつるしあげた本作は、ムーア監督面目躍如の一作となりました。