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世界を旅した人が選んだ、本当に「旅を感じる」ゲーム【Wonder World Walkers】

ゲームといえば、「旅」をイメージする方も多いだろう。しかし、ゲームにおいて“旅”をテーマに置き、かつ表現できているものはかなり少ない。
多くのゲームはストーリーを軸に話が進む。序盤に起きる事件をもとに主人公たちは行動し、その過程で旅をするので、“旅”そのものがフィーチャーされることは少ないのだ。

私は旅人である。北中南米を自転車で約5年半、現地の雰囲気を味わいながら旅行してきた経歴を持つ。そこで、数あるゲームのなかから私なりに“旅”の味を噛みしめられる作品を紹介したい。
今回話をするのは、『Wonder World Walkers(ワンダーワールドウォーカーズ)』というフリーゲームだ。

Wonder World Walkers(ワンダーワールドウォーカーズ)とは?

Wonder World Walkers(ワンダーワールドウォーカーズ。以下、WWWと表記)は、2人組のクリエイターチームAriAru(ありある)が2006年に公開した、RPGを作って遊ぶゲーム。いわば、RPGツクールのインディーズ版だ。

専用のエディターを使い、並べたマップチップの上にイベントを置くことでオリジナルRPGの作成が可能。さらに、作ったゲームのファイルをネット上の『追加シナリオwiki』に貼りつけて公開することで、ほかのプレイヤーにプレイしてもらうこともできる、画期的なシステムとなっている。

酒場でプレイヤー(旅人)作成する。10人まで登録可能で、それぞれに過去の経歴が付与される。

しかしこの記事で私が紹介したいのは、RPG作成部分ではない。制作者があらかじめ作った「サンプル」だ。
本編に同梱されたサンプルシナリオは非常によくできている。ストーリーもよく練られていて、分岐エンディングや隠しシナリオがたっぷり仕込まれており、良作と言っていい出来だ。

ストーリーは、主人公が旅人(ウォーカー)となって各地の町をさまよい歩き、住民に依頼される仕事を請け負っていくのが大筋となっている。目的なく旅をするシナリオにも旅の匂いを感じるところだが、特に私が注目したのが、寒封渓谷のワンシーンである。

寒封渓谷のフィールドには多くの旅人が歩いている。

山小屋イベントに旅情を感じる、当時世界を放浪していた私

『WWW』の初期設定で入っている寒封渓谷のマップでは、賑やかな川岸の町と寂れた山奥の村を行き来しながら仕事を探すことになる。そして、仕事の道中に山小屋へ泊まるとイベントが発生する。
特段大きなイベントではなく、出会った仕事仲間との何気ないやり取りがあるだけ。酒や食料を分けあいながら、仕事のうわさや昔話に花を咲かせるという、いたって普通の内容だ。しかし、実際に似たような旅を経験している自分には、これが心にぶっ刺さってしまった。

本当にあるのだ。この通りのことが。
偶然会ったバックパッカーやチャリダー(自転車旅行者)と食料を分けあって食べ、訪れた場所やこれから先の情報を交換する。地元の人と酒を飲みながら笑いあい、楽器を弾いたり歌を歌ったりして過ごす。翌朝には拍子抜けするほどあっさりした別れを告げて、別々の道をゆく。
本当に自分が経験したことが、ここに再現されていた。

一夜を共にするのは、名も知らない旅人たち。

落ち着いたBGMやほの暗い画面演出が、さらにノスタルジックさを加速させる。ゲーム的には、会話のなかにこの先のヒントを紛れ込ませているだけの短いイベントだが、私はこの雰囲気にいたく感動してしまって、このゲームをするためにペルーの山奥の村で4連泊したほどだ。

そう、私はこのとき、自転車旅行の途中だった。小さなホテルのベッドの上で疲れた体を休ませている最中、ゲームに飢えていたゲーマーの私は、Macでもできるゲームを探してこの『WWW』を見つけた。
当時はMacでできるゲームが少なかったので、とてもありがたかった。しかも、ダウンロード式のゲームだ。ネット回線がなかなか手に入らない旅の途中でやるには好都合だった。

昔のゲームなのでレトロな手触りがある。初期のドラゴンクエストのような3人称視点による戦闘で、ドット絵のグラフィックも素晴らしくキレイとはいいがたい。
それでも、貴重なRPGを大事に大事にプレイしていた当時の私の感情移入度は凄まじかった。ちょっとした心づかいのあるテキストを読むたびに、胸のなかがじんわりと温かく、くすぐられる感覚に陥る。適当にテキストを飛ばしていたら、このような感慨は得られなかっただろう。
ぜひ皆さんも、じっくりとプレイしてみてほしい。

レトロRPGを意識したという戦闘画面。

ちなみにこの山小屋イベントは、請け負った仕事や訪れるタイミングによっていくつかパターンがある。共に過ごすキャラが変わるのだが、どれも旅の疲れからくる気だるさや、知らない相手がかけてくれる気づかい、狭い空間のなかで生まれる繋がりを感じさせてくれる。

私が特に好きなのは、村の狩人と一緒に過ごすイベントだ。

山奥の村で狩猟の仕事を依頼される。

狩人から狩りの仕事を受け、ともに雪原で罠をしかけていく。獲物が罠にかかるのを待つため、朽ちた山小屋に泊まることに。
点けたたき火が室内をほのかに照らす。そばに腰を落として体を暖める主人公と狩人。珍しい地酒をごちそうになりながら、狩人の身の上話を聞くことに。
夜も更けてきたころ、狩人が得意とする弦楽器と冒険譚の歌に身を委ねながら、主人公は眠りに落ちていく。

狩人との会話イベント。

旅人や詩人としての才能を持ちながらも、すべてを捨てて雪に覆われた小さな村に一生を捧げる決心をした彼の人生を知ったあと、親近感を覚えてしかたがなかった。
あんなちょこっとのテキスト量なのに、ここまで心を揺さぶられるなんて。しかもこのキャラ、ただのモブ(主人公とほぼ関わりを持たないエキストラ)である。

レトロゲームは味わい深さが魅力。のんびりプレイしてほしい

拠点となるHOMEの町で準備を整えて、各シナリオへ。

昨今のゲームはとにかく時間的なストレスを消すように制作されている。しかし『WWW』を含むレトロゲーム(もしくはレトロゲーム風に作っているもの)の多くは、プレイ時間への配慮をしていない。同じシーンを何度も繰り返し、やり直し、少しずつ進んでいくものだ。

今では敬遠されがちなシステムだが、じっくり遊んでみることで、何気ない登場キャラやシーンにも愛着が湧き、深い味わいをしみじみと感じることができる。現代のゲームのように便利にはできていないが、時間を使って隅々まで味わってほしいと思える趣き、それが『WWW』にはある。

6つ入ったサンプルシナリオはそれぞれのストーリーが繋がっていて、クリア済みのクエストにも多くの秘密が隠されている。隠れたシナリオやアイテムを探すのが好きな人、会話に出てくる選択肢をすべて試してセリフをチェックしたくなる人におすすめだ。

また、戦闘面は単調に見えて意外とよくできており、装備やバフ・デバフをうまく利用しなければならないボス戦なども出てくる。会話のノリにインディーズ感はあるものの、ちゃんとやってみると本当によくできたゲームなので、気になった方はぜひプレイしてみていただきたい。面白いから。完全無料だし。


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