【自主性・主体性ある会社・組織・チームの作り方】第5回 情報共有はなぜ大事か?「何を」「どこまで」情報共有すべきか?
この記事では、中小企業(特に成長を目指すベンチャー企業)として、マネジメント・組織作りをどのように行っていくべきなのか、実体験と実践内容をもとに考えていきたいと思います。
さて、前回(第4回 価値観・考え方をどう共有するのか?)の最後にも書いたとおり、今回は社内の情報を社員に、何を・どこまで公開・共有するのか、について取り上げます。
弊社では、原則として「共有されていない情報がない」という状況を作っていますが、これはそもそも、顧客・取引先対応のなかで担当者しか知らない・わからないから対応ができない、という状況を避けるために(徐々に)始めていったものです。
顧客・取引先が弊社に連絡してくるのは、「弊社に」問合せしたい事項があるからであって、「担当者」個人に問合せしたいわけではありません。
病気・ケガなどで担当者が出社していない際の対応はもちろんなのですが、社員が退社したからといって、過去のやり取りがわからないでは、顧客・取引先からの信用を失うことになります。
また情報を共有することは、ひいては担当者の業務変更・ジョブローテーションはもちろん、退社による引継ぎ漏れリスクをなくすことにも繋がり、属人性の排除も目的としています。
このように、社内のカルチャー・考え方として、顧客・取引先や業務内容のみならず、聖域を設けない徹底した情報共有に至ったという過去の経緯・前提はご理解ください。
■メルカリが「性善説」を言語化した!
弊社では、いわゆる「ティール(っぽい)組織」を目指しており、会社・組織運営の大前提として【性善説】に立っています。
「ティール組織」(フレデリック・ラルー著/英治出版)の中でも、ティール組織内で重要な情報を組織内で共有する理由は下記の3つだとされています。
(1)どのチームも最善の判断をするには入手可能なあらゆる情報を得る必要がある。
(2)情報が公開されないと、「なぜわざわざ隠すのか?」という疑念を生む。疑念は組織への信頼にとって有毒である。
(3)だれかが知っていてだれかが知らないと、非公式な階層が再び現れる。
メルカリは性善説に立って会社経営をしていることで有名ですが、もともと性善説がカルチャーとなっていたものの、英語圏の社員も増えてきたことから、性善説を言語化したところ、「Trust & Openness」になったようです。
メルカリのサイト「信頼によって生まれるオープンなカルチャー」
この根本には、社員一人ひとりを信頼し、必要な情報をもとに一人ひとりが自ら考え・判断する会社・組織・チームを作っていくというカルチャーがあります。
このように、情報共有が重要だとする考え方は、
性善説に立って経営する
▼
〇か×かで判断するルールを(できる限り)排除する
▼
カルチャーというガイドラインで各社員が(できる限り)自己判断する
▼
自己判断の前提となる情報は必要
ということになります。
■会社ごとに違いはあって当然
本連載の趣旨はタイトルのとおり「自主性・主体性ある会社・組織・チームの作り方」ですが、共有されない情報があるなかで、各社員に自主性や主体性、さらには当事者意識が生まれるわけもありません。
昨今よく言われる、「心理的安全性が高い」組織は強いということですが、社員同士が何でも指摘できる組織という前提には、情報が共有されていることがあるはずです。
ただし、会社のカルチャー・考え方以前の論点として、各社の業種や方向性によって、若干の相違はあるとも考えています。
カリスマリーダー的な経営者が会社を強く牽引し、トップダウン型の意思決定で業績を伸ばしている企業は、日本国内にも多いわけです。世界的な企業を見渡せば、中国企業の多くは、究極のトップダウン型のように思います。
また、業種として定型的なルーティン業務である場合、「早く・速く」「正確に」実施することが重要になりますので、「経験ある人から経験の浅い人へ」「意思決定者から現場へ」という流れから、組織形態がトップダウン型、上意下達が必要であり、階層が多くなるという、ティール組織は馴染まない要因となります。
その一方で、発想・企画がキーとなる業種であれば、ルール・制約が多いとイノベーティブな発想は生まれません。
まさに、メルカリがこの業種に該当するでしょう。
弊社もこの類の業種に分類されると認識しており、プロジェクト単位で仕事をすることが多くなります。
プロジェクト制では、各社員の個性・強み・経験値などの組み合わせが大事で、適材適所によって、チーム全体で生み出せる価値が大きく変わることから、自然と階層がない、もしくは階層が極端に少なくなって当然とも言えます。
後者のような企業が、いわゆるティール(っぽい)組織に向いており、かつ情報共有すること自体が非常に重要になるということです。
また、併せて触れておくと、前者のような企業でしか働いたことがない人を後者の企業が採用すると、仕事のやり方がまったく違うことから、素晴らしい職歴・実績があってもまったく成果が出ないということが多いです。
■社内のコミュニケーションにメールは向かない
さて、社内で徹底した情報共有をすることの前提となることなのですが、社内コミュニケーションをいまだにメールを利用している会社は、「グループウェア」に移行すべきです。
メールは、社外コミュニケーションとしては有用かもしれませんが、社内コミュニケーションには向いていません。
・誰宛なのかがわかりにくい
社内コミュニケーションの場合、情報の宛先が複数であることが通常で、そのためにメールで必要な相手方を選択するのが煩雑になります。
また、メールで途中から宛先に追加された社員は、過去のやり取りを全部追うのが難しくなります。
・添付ファイルなどが整理されない
メールは1メールごとにファイルを添付することになりますので、どのファイルが必要なのかが非常にわかりにくく、後で必要なファイルを探すのにも苦労します。
・読まれたかどうかわからない
メールはある意味、一方通行でのコミュニケーション手段で、チャットなどのように相手方に読まれたのかどうかわかりにくいです。
このように、社内コミュニケーションをメールで行うことは非常に煩雑で、だからこそ「面倒だから・メール数がムダ増えるから伝えるべきことを伝えない」という状況が起こりやすくなります。
また、弊社内では「個別間の連絡・やり取り」を原則として禁止しています。
メールの場合、「宛先・CCに入れ忘れた」などが頻発しますし、グループウェア上でやり取りすれば、必要な宛先は含まれているはずなので、情報共有の漏れも起こりにくくなります。
ちなみに弊社では、
チャットワーク:社内のコミュニケーション(+取引先の一部)
GoogleWorkspace:スケジュールやデータ・ファイルの共有
を利用しています。
■すべてのメール・スケジュールを共有・公開
とはいえ、弊社でも顧客や取引先などのコミュニケーションは、主にメールを使用しています。
以前はメールのCCに、関係する社内のグループアドレスを入れていましたが、これでは抜け・漏れがあったり、相手方から個別返信になっている場合もあるため、現在は各社員のメールが全社員に共有されています。
また、タスクの期限や来社・訪問などのスケジュールも全て共有・公開されています。
これによって、社内会議をどの時間帯に設定すべきかなど、事前相談・調整などの手間がほぼ省かれることになりますし、どこで・何をしているのか聞く必要もありません。
さらには、社内のデータ・ファイルなどは、社内サーバーもしくはGoogleなどの共有フォルダに一括管理されています。
全ての情報が必要となる社員はいないと思いますが、見ようと思えばすべて見ることができる状況を作っています。
取締役会の議事・内容などもこの例外ではありません。
多くの会社では、取締役会など意思決定機関が上になればなるほど、機密性が高いとして情報開示をしないことがほとんどかと思いますが、弊社では取締役会で何が議論され、どのような意思決定がなされたのかをダイレクトに知ることができます。
■全役員・社員の給与も公開している
情報共有・公開が進んでいる会社の方ですら驚かれることが多いのですが、弊社では役職にかかわらず、全従業員の給与もすべて公開しています。
全従業員の給与額を公開していることで有名な企業として「OWNDAYS」がありますが、情報共有・公開と当事者意識について、OWNDAYSの田中修治社長が下記のインタビューで語っていますので、ぜひ併せてお読みください。
「SNS活用しまくりのOWNDAYS田中修治社長。「有名人になりたいの?」的な問いに彼が本気で答えたら、深い話になった」
弊社が役員を含む全従業員の給与額を公開している理由は、まず「情報共有に聖域を設けない」と考えているからです。
他の情報は共有しておいて、給与を共有・公開しないということは、給与額に何か隠し事・やましいことがあるのではないかと捉えられると困ります。
また、「給与額を公開しているということは、社員間で競争原理を働かせるため?」とも聞かれますが、そうではありません。
そもそも弊社では、社員の評価が「360度評価」となっていることから、上司が部下を評価するという関係性になく、周りの誰しもが評価者になっています。
また、評価内容や評価点数まですべて公開されているため、そうなのであれば評価の結果である給与額まで公開しても何らおかしくない、という状況にあるのです。
■最後に・・・
全ての企業が、給与額まで共有すべきとは思いませんが、仕事における属人性の排除を含めて、「社内の見える化・透明性の確保」を重要と謳いながら、情報共有・公開に差を設けるのは、全社的な自主性・主体性を失う要因になることは間違いありません。
「重要な情報を握っている人は偉い」的な発想・考え方は、情報がオープンになっている現代社会では、もはや時代遅れ・時代錯誤でしょう。
ここまで、社内情報を徹底的にオープンにするカルチャーについて解説してきましたが、次回は社内の「階層と役割」について取り上げます。
ティール組織では「階層がない」と言われることが多いのですが、実際にティール組織を標榜する会社でも、組織内には階層があることの方が多いはずです。
弊社での階層設定やその背景となる考え方も含めて、次回に解説していきます。
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