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私の貌。

いつからか思っていた。

私の中には、誰かがいる。
いつもじっと、澄んだ目で私を見ている。

気付いたのは高校1年生の三学期頃だった。
その頃の私は自信が無く、いつも何かにビクビクしていた。

何故か、教室にいると自分が酷く場違いな場所にいるような、周りのクラスメイトと何かが決定的にズレているような、そんな感じがしていた。


休み時間はだいたい寝るか、スマホゲームで暇を潰した。最初の頃は、 周りとできるだけ会話する努力をしていた。会話ベタで気持ち悪い人だと思われたくなかったのを覚えている。

その決定的にズレた違いは、思わぬ形で現れた。
ある時、可愛らしい男の子や男の子同士の恋愛が描かれた絵が好きだと思うようになった。
所謂、BLと言う奴だ。
そこから私は男性を好きだと思う自分がいることを、戸惑いと嫌悪を感じながらも認めざるを得なくなった。

女性には苦手な所も多かったが、嫌いになったわけではなかった。
ただその時の興味が、可愛い女の子より、可愛い男の子に移っていた。

そんな自分を認め出した頃、ある日の夜に洗面所の鏡の前で私はもう一人の自分と対面した。

それは女性性の自分だった。
鏡の中の自分の姿に、何故か湧き上がる女性を感じた。自分でも訳が分からなかった。
ただ、内面の女性を自覚しつつも自分の男性の体を否定する気も起きず、かと言って女性らしい振る舞いや女装などをする気も起きなかった。

しかし、自分の恋愛対象や性愛対象はどんどん拡がっていった。拡がるままに広がりすぎて、タイプの顔や性別など、こだわりが自分で分からなかった。恋愛自体、うまく自分の中で理解できないところがあるし、好きだと思う相手に嫉妬したり独占したいと思う気持ちが私にはよく分からなかった。好きな人とはただ一緒にいて、話をしてもらうだけで嬉しかったし、相手の幸せが私の幸せだった。付き合う付き合わないにはあまりこだわりがなかった。

私は結局、人類そのものが好きなようだった。
調べてみるとパンセクシャル(全性愛者)と呼ばれる人に属するらしい。内面的には、男性と女性が溶け合って、まばらにくっついたような性格だ。

何度か女の子になってみたいと思うこともあったが、私には当然の事だが乳房も、子宮も、柔らかく靱やかな体も、高音で綺麗に響く声帯もない。

あるのはある程度筋肉の付いた体と、がっしりした骨格と、低く響かせる声帯、精巣と陰茎ぐらいである。

なれるわけが無い。
芝生が青く見えただけかもしれないが、女性がかなり羨ましかった。

高校卒業後に専門学生になると、生活は一変した。寮生活になり、自分のスケジュールを全て管理し、介護施設での実習カリキュラム等もあって私は環境に忙殺された。プレッシャーとダメ出しの嵐で心はボロボロだったが、自分で決めた道を逃げられないと思いながら無理やり足を動かした。

そんな時に自分の頭の中で声がするようになった。声が実際に聞こえるのではなく、それは人物のイメージだ。女性のようだった。

「何言われても気にすること無いのよ。あなたはやるべき事に集中すればいい」

「辛かったら私に頼りなさい。もし何もかも嫌な時は私があなたの代わりになるから」


など、辛い状況の私を度々励まし支えてくれた。
無理な時は彼女に体を代わってもらった。

ずっと私を見つめてくれていた。
彼女はただ、優しかった。

今も私の中にいる、何通りかの私の貌の一人である彼女のお話。

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