救済についての一考察
十字架に括りつけられた女が
憎悪のまなざしで群衆を見る時
一匹の白鳥が
彼女の上空を舞った
火はつけられ
ただれていく表皮を見つめながら
そして口から泡を噴きながら
女は罵倒の声を聞いたのだった
『いい気味だ
お前のような少女が神を語るなど
千年早い
この地上に神が来るのは
もっと先でいい
縄を引きちぎってみろ
その十字架を砕いてみろ
お前が神の代行者だと言うなら
やって見せろ』
突如として十字架は薙ぎ倒された
女の体は下敷きになり
人々は半ば炭になりながら震え睨みつける
白濁した眼球を見た
口から臓物が飛び出し
(人々の中には後ずさりした者もいた)
痙攣かそれとも彼女の意志か(それとも寒さのせいか)
彼女の激震はとまらなかった
神よ
私に人々を愚弄させてください
高笑いという名の救済を
(そう言うと彼女は再び業火の中に身をやつしたのだった)
*
明くる朝
炭となった彼女の肉体を
痩せこけた子供たちがくだらなそうに
裸足で弄くりまわした
そして
一人の少女が冬の冷気に晒された手を
そおっと自らの額に当てた
神秘が受胎した瞬間であった