コロナ時代、なぜ、今、プロティアンなのか? 心理的成功とは何か?キャリア目標とは?
4designs株式会社CEO/一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事の有山です。プロティアン・キャリア戦略講座が予定通り今月5月に開講しますが、1976年にダグラス・T・ホールが「プロティアン・キャリア」を提唱した際に目指すべきキャリア目標としてでてきた言葉「心理的成功」について書かせて頂こうと思います。
■アメリカも終身雇用制度であった
まず以下のグラフを見てください。こちらは、アメリカの労働省と日本の厚労省が発表した高齢者(55歳~64歳)の平均勤続年数のグラフとなります。(※元官僚の小塩丙九郎氏のホームページより抜粋)
アメリカがベンチャー企業育成と既存企業のリストラクチャリングに熱心ではなかった1980年頃まで、日米両国の高齢者(55~64歳)の現在企業での平均勤続年数はおよそ15年で同じで、アメリカも日本同様1つの企業に長く務めるのが当たり前の世の中でした。
しかしその後、アメリカの雇用の流動化が進み、数値が急激に低下し10年になった一方で、日本の数値は急速に増加。50歳代後半では、同じ企業での平均勤続年数が2000年頃までに23年に伸び、その後その数値を維持する一方、60歳台前半の同じ企業での平均勤続年数は2000年以降も一貫して伸び続け、2010年には17年になり、勢いよく伸び続けていることがわかります。
1989年バブルであった日本は、世界の時価総額ランキングで上位を独占し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という書籍もでるほど世界で競争優位をもつ国でしたが、1990年のバブル崩壊から失われた30年といわれて現在に至っており、そんな日本を横目に終身雇用から雇用流動化に舵を切り、インターネットビジネスによるベンチャー育成と既存事業のリストラという経済の新陳代謝を推し進めたアメリカは経済は、1990年以降も成長を維持しました。
■終身雇用終焉とプロティアンキャリア
このようにアメリカが終身雇用から決別したタイミングとほぼ同時期の1976年にアメリカの心理学者であったダグラス・T・ホールが、その社会背景から後押しされたのか、新しいキャリア開発の考え方として「組織視点ではなく個人が自身の価値基準による「心理的成功」を目指し、主体的にキャリアを開発していく」プロティアン・キャリア理論を発表しました。
以前、ソフトバンクの孫さんが、先進的なアメリカでのITビジネスモデルをITが遅れている日本に持ち込むことで先行者利益を得るモデルを「タイムマシン経営」という言葉を使われましたが、まさに終身雇用と先に決別したアメリカにおいて打ち立てられたキャリア理論が、約44年経ってようやく終身雇用が維持できなくなった日本において注目され始めています。(キャリアコンサルタント仲間のなかでも今後はプロティアンキャリアが大事との話に最近よくなります)
経済産業省も2019年3月の「経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会」報告書の冒頭にて「働き手においては、「自らのキャリアを自ら構築する」という意識と行動が必要となっている。他律的な形で一企業にその身を委ねたとしても、自身のキャリアを保障してくれるとは限らなくなっている」と終身雇用維持を明確に否定しており、主体的なキャリア開発は待ったなしの状況になっています。(以下、経済産業省のレポートより)
■過去のキャリア観における目標
いままでの日本においてキャリアを考える際に目標としていたのは、終身雇用が前提となった「40歳までに課長になって年収1,000万を目指す」「50歳までに執行役員」「この会社で定年まで働いて退職金をもらって再雇用される」などなど、あくまで新卒で入社した企業内でのキャリア目標=個人のキャリア目標が一般的でした。
組織内キャリア目標で「役職」「年収」という会社又は他人から与えられる基準を目標にする、又は終身雇用前提で会社という枠に入り、その中の先輩や上司を見て漠然とキャリアをイメージするというのが実態でした。
経済産業省がいっているように企業寿命が短命化し、人間の寿命(働く期間)が延びたいま、終身雇用は維持は難しく、組織内の外的な基準でのキャリア目標を立てることは、不確定要素が大きすぎること、自分自身でコントロールできることではないことから目標とするには適しません。
■現代のキャリア目標「心理的成功」の2つの軸
そこで、プロティアン・キャリア理論の中での「心理的成功」ですが、これは言葉の通り外的な基準ではなく、あくまで各個人の内的な基準による成功、もう少しかみ砕いていうと「いまのありのままの自分を認め、自分が幸せであると感じている状態」を目指すものです。
もう少し分解すると以下の図でいう右上の状態の時が心理的な成功の状態といえると思っています。これは一度達成すると終わりではなく、社会も個人の環境も変化する。例えば、「社会提供価値」は、異動になりやりたい仕事ができなくなった、「個人の環境(関係性)」も、仕事が多忙で夫婦関係が悪くなった、祖母が介護が必要になった等により常に変化が訪れます。
その変化に適応し続けることで、自身の価値基準での「心理的成功の状態」を維持する。つまり、キャリア目標は、外的な基準ではなく、「内的な基準による心理的成功の状態を1日も長く維持すること」と言えます。
■「社会提供価値」とは
「社会提供価値」は、年収が高いこと、上場企業で役員をしていることなどの外的な基準ではなく、社会の一員として自身のやりたい仕事ができていることが大事であると思っています。社会にとって価値が高いと自身が考えることや好きなこと、例えば、スポーツを広めること、医者で命を守ること、安全な人の移動を担うこと、美味しい料理で笑顔を作ること・・・・人ぞれぞれの基準で、その仕事をしているときに自分が笑顔になれる、夢中になれる、やらされ感がなく主体的に取り組める仕事による社会への提供価値です。もちろんスキルが高ければ、より多くの方に貢献することが可能となり一般的には収入が増えます。
100年時代、年金支給も延長され、今後働く時間が更に延びることが想定されるなか、自分が得意でないこと、好きでないことで成果を出し続けることは難しい。やはり自分が好きなこと、得意なことで社会に貢献することが長期に渡って稼ぎを得るためにも必要不可欠です。
■個人の環境(関係性)とは
「個人の環境(関係性)」は、一流大手企業で仕事している、結婚している、子供がいるなどの外的な基準ではなく、誰と働くか(自身が成長できると感じる上司のもとで働く等)、どこで働くか(自身の価値基準にあった理念、ビジョンの会社で働く、家族と一緒に住める場所で働く等)、周囲の環境(子供の教育や自身の趣味、親の介護等)が自分にとって満足できる環境か、という点が基準となります。
好きな仕事ができていても単身赴任で家族で会えない、大企業で年収が高くても自分のことを全く理解されず能力が発揮できない上司のもとで働いている等、外部からみた上っ面の一面ではなく、自分自身のいま置かれた環境が自身の価値基準に照らして幸せと感じている環境か、という視点も大事なことだと思っています。
自身の価値基準にそった社会への貢献(仕事)に取り組んでおり、自身の環境(周囲との関係性)が良好な状態が「心理的な成功」であり、その状態を維持するために変化を楽しみ学び続けることが求められています。
■最後に
ここまで「心理的成功」について書かせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。プロティアン・キャリア理論における心理的成功、終身雇用が崩壊を始めた日本において、組織内キャリアではなく、個人が主体的にキャリア開発するために必要な考え方ではないかと思っております。
弊社が運営企画する「プロティアン・キャリア戦略講座」では、禅(ZEN)という手法を用いて今の自分と向き合うことによって「心理的成功」について探索、言語化していきます。
また、プロティアン・キャリアではこの「心理的な成功」を獲得し、維持し続けるために自身のアイデンティティ(価値基準)を明確にすることはもちろんのこと、変化に合わせて適応する力(アダプタビリティ)も大事な要素となります。
変化に対応するためには、未来を見越して戦略的にキャリア資本(ビジネス資本、社会関係資本、経済資本)を蓄積していかないとなりませんが、また長くなりますので今回は「心理的成功」について記載しましたので割愛します。プロティアンについてキャリア資本の蓄積等含めて気になる方は、田中研之輔先生の「プロティアン~70歳まで第一線で働き続ける~」をご確認頂ければと思います。
禅によってどのようにアイデンティティを言語化していくのか、につきましては5月からの「プロティアン・キャリア戦略講座」の実施も踏まえてこちらのnoteを通じて等によりお伝えできればと思っております。