2月の1本+
お布団「ナイトドミナント 夜を治める者」
2月12日18:00 こまばアゴラ劇場
お布団の演出で最も特徴的なのは演劇を一種のゲームプレイのように表現する点で、この点は(最近お布団を知った人には信じられないかもしれないが)抱腹絶倒のメタコメディ路線だった初期から一貫している。そして昔のゲーム(古典演劇)を最新ハードウェア(現代的解釈)で無理やり動かしてみるお布団のプレイスタイルは常に「グリッチ技」的でもある。
そういう意味で、昨年のワークインプログレス版を経て作られた今回は完成型というよりデジタルリマスター版と呼ぶほうがしっくりくる感じだった。かの超有名ヒット作『ハムレット』を下敷きにしながら、時代的にも環境的にもオリジナルタイトル発売当時は存在しなかった要素をいたるところに盛り込み、バイナリデータを一つずつ書き換えるようにして物語を行方を本来の着地点から離れた方向へ歪めていく。
Character Data Loading...の表示や字幕の文字化けなど、歴代のお布団の作品でも1、2を争うほどハッキリと「ゲームっぽさ」が明確に表に出ていた。ゲームは、鑑賞者が決して鑑賞するだけで終わることのできない数少ないジャンルでもある。起こったことに対する何らかのアクション(またはリアクション)を強いられるし、なにより自分の頭で考えなければ物語に没頭することはおろか、話を前に進めることすら不可能な場合がほとんどだ。
そうは言っても「ナイトドミナント」は演劇なので、客席に座ってさえいれば物語は勝手に進むし、よきところで勝手に終わる。だけどこの「いかにもゲームっぽい」作品は自分の頭で考えることを、散りばめられた世界観の背後に蠢くストーリーを自分で見つけ出すことを要求してくる。娯楽のふりしてそっと手渡される小瓶の中身が聖水なのか毒薬なのか、それを飲むのか飲まないのか、自分で知り、決めなければいけない。
劇団森「今夜もあなたと歌いましょう」
2月**日 早稲田大学学生会館B203(予定)
「今月これだけは絶対に見に行く」と心に決めていた作品だった。絶対見に行くと決めていた割には行動を急いでおらず、そのうち予約するつもりでいたら早々に全席完売していて、配信があるかもしれないとの噂にわずかな望みを託して待っていたら公演自体なくなってしまった…というのが一連の経緯になる。どっちにしても見ることは叶わなかった。見ていない作品なので内容に関しては何も言えない。良かったとも悪かったとも言いようがない。そもそも何も書くべきじゃないのかもしれない。ただ、結果的に「絶対」の約束を破ってしまったことには変わりないので、触れないわけにもいかないだろうと思った。
劇団森から発表された「公演中断」という文言に、実はずっと引っかかっている。引っかかっているという言い方はあまり印象がよくないのかもしれないが、この感覚を過不足なく表現しようと言葉を選べば、うん、やっぱりずっと「引っかかっている」。
中止ではなく、あくまで中断なのだ。いや、それって要は「解散」と「無期限休止」の差くらいなものなんだろうけど、でも中断と言われると対になる言葉がどうしても脳裏をよぎる。「再開」である。現象として・結論としては同じことなのかもしれないが、ここには何かの強い意図を感じる。
現在Twitterを引き払っているので時々直リンクで覗きに行くことしかできなかったが、かれらは中断が決まった後も手を変え品を変え、公演当日までカウントダウン動画を毎日アップし続けていた。どうしてそんなことをするのか。もちろん、中断だからだろう。やめたつもりは、すごすごと諦めて片付けるつもりは毛頭ないからだ。
公演中断。
数々の公演中止や公演延期を目の当たりにしてきた2年間をもってしてもなお耳慣れないフレーズに後ろ髪をずっと引かれながら、こういう「含みのある希望」になら縋ってもいいかもしれないなと思い続けている。