やっぱり小道具は面白かった
自分はこのLINEスタンプの使いどころを日本で一番わかっている人間なのかもしれない、という妙な自信がある。
一言で説明できないヘンなものばっか作り続けて十余年、ついに「小道具ワークショップの講師」という立場で招いていただける日がやって来て、そして終わりました。これは何よりも速報性を優先した読みづらい箇条書きの記録です。あとで若干清書するかもしれないし、ずっとこのまま残すかもしれない。
当日の朝。13時に現地入りして準備ということで話はまとまっており、12時50分にアシスタントと駅で待ち合わせてから向かうつもりで家を出る…はずが、どういうわけか「12時50分」の「50分」だけが頭からすっぽ抜けて12時に間に合うように家を出てしまった。途中で気づいてウィンドウショッピングで時間をつぶし調整する。まさか「ウィンドウショッピングで時間をつぶす日」がこんな形で訪れるとは思わなかった。ほしい帽子が見つかっちゃったりなんかしたけど、時間をつぶすことが目的なので我慢。
13時、予定どおり現地到着。会場となるカナリアホールは広々とした会議室といった感じの部屋なのだけど劇場としても使われていて、翌週にはかるがも団地が公演を控えている(見に行きます)。14階に位置する窓際へ立てば王子の町が一望でき、海などないのにオーシャンビューだ。とりあえず荷物はこっちへ、と楽屋に案内される。ふだん小道具やってて単独の楽屋が与えられることなんか滅多にないので(場当たり等で誰もいなくなった楽屋の一角を間借りして黙々と作業することはあるけど、それはあくまで他人の部屋にお邪魔している感覚の延長上にある)緊張と相俟って気持ちがふわふわしてしまった。
ワークショップ開始時刻の15時まで楽屋で一人きり待機しながら、なるべくわかりやすくワークショップの主旨、小道具さんって主に何をする人なの?というプチ情報、そして具体的な内容に至るまでを自然な一連のシークエンスで説明できる構成を脳内で組み立ててみる。大勢の人の前で話をするのが昔からどうにも苦手で、これは一言発するたびに相手がどんなリアクションをとるのか気にしすぎる性格のせいなんだと思う。でも皆がマスクを常用するようになって、目元以外の情報が表情から読み取りにくくなったことで少し緩和された気がする。今ならそれほど緊張しないで話せるかもしれない。
前言即撤回。「講師」の肩書きで呼ばれているのだから当然といえば当然なんだけど、さながら教室のように整然と並んだ椅子と机に座して待つ参加者7名の前へ一歩進み出た瞬間に頭の中で組み立てていた構成が一瞬で全部まっしろになる。さすがに変なことを口走ったりはしていないと思うが、何をどういう順序でしゃべったのか、はたまた必要事項を過不足なくしゃべり終えられたのか、このあとの10分ちょっとの間の記憶がない。そして「10分ちょっと」で終わった話は当初の打ち合わせで「1時間はかからないと思うけど最低30分くらい見積もっておきたい」と言っていたものだった。ぼくには時間配分の才能がない。そんなわけで、怒涛の20分巻きでワークショップが始まった。
とはいえ始まってしまえば自分の本職・自分の領域なので、実際に道具を手に取りながらの解説や質問への回答をするうちに自然と緊張はほぐれてきた(遅い)。講師と呼ばれることによって「この人の言うことだけが正解であり絶対」みたいに思われるのだけは避けたかったので、小道具に正解はないんですよ、あるのは「個性」と「味」だけなんです、みたいな話をしたのは覚えている。作業のために確保した時間は約90分あったのだけど、文字どおり矢のように過ぎて行った。事前に買い出しで集めてきた「市販の量産品」たちが、汚し加工を施すことで「一点ものの小道具」へと変身していく。たった一滴の塗料、たった1mmの擦れ跡にも個性があり、エピソードが宿る。
最後に、それぞれが作った小道具に背景となるストーリー(妄想)を添えて、テーブルに置かれたそれらの周囲を、密を避けつつ美術館めぐり形式で一つ一つ眺めながら品評していくスタイルでディスカッション。これが予想を大きく上回る盛り上がりを見せ、目の前にある「その品」が自分では絶対に思いつかない裏設定や物語をいくつも通過して今ここに着陸したのだと、疑いもなく信じてしまえる瞬間が何度もあった。
進行に関してとか、話が10分で終わるなら別にエリア2つに区切る必要もなかったなとか、改善すべき点は山ほど見つかるんだけど、改善すべきと思えてるってことは裏を返せば「もう一度やってみたい」ってことで。あと、昔の自分だったらこういう小道具のノウハウ教えます的な企画は「そんなの教えちゃったらライバルが増えるから嫌だ」とか言って突っ撥ねてた気がする。でも最近はそう思わなくなってきたというか、普通にこの職能に後継者がいないのは困るぞ、って気持ちのほうが強くなっている。あるていど歳を重ねたこととも関係あるんだろうか。あるんだろうな。
なにより、長らく現場を離れて(なにしろこれが今年最初の「小道具さん」としての仕事なのだ)半ば錆び付いてしまっていた気持ちのネジを締め直してもらえたというか、「また何か作ろうかな」の火が戻ってきたことが今回一番の収穫だったのかもしれない。結局ねえ、なんで小道具やってるかって、考えたり作ったりしている時間が(あと稽古場でみんなの反応を見たり劇場でお客さんの反応を知ったりするのも)面白いからなんですよ。もうね、ほんとにそれは20年近く変わらず、ただそれだけの気持ちで動いてるんですよ。
ということで、すごく月並みなまとめですけど、
2022年も引きつづきお仕事の依頼待ってます。
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