良い人
バツイチ独身、青年との関係も終わり、一人で借金を抱えながら店を切り盛りしていく。
ようやく私は面接を受けるところまで進んだ。
自分の仕事だけでは食べていけないのに、なかなか心や体がついてこず、ようやく、おしりに火が付き始めてから、こんな状況。
毎月の返済もある中で、余裕もないなか、ようやく少し動き始めたのです。
3年もの時間がたっているはずなのに、全然傷は癒えない。
苦しくて苦しくてたまらない。
好きという気持ちこそもうないが、自信がまるでなく、店という負債を抱え、自分の老後をうまく描けずもがく日常。
睡眠薬も飲まないで寝ると悪夢に襲われる。
飲んだと思って眠った日、息子が血まみれになっていて指をなくした夢を見て飛び起きた。
誰にも相手にされず、信用されず独りぼっちなんだという気持ちでいっぱいで、それでもまだ、「これから」を生きていかなくてはいけないっていう気持ちもいっぱいで、もう何が何だか分からなくなる。
先のことを考えると気持ちが深く沈むので、なるだけ考えず目の前にあることをやっていく。
次の返済までに間に合うだろうか?何をしたらいいんだろう?
お金のこと、生活のこと、吹っ切れることが何もない。
そんな中で親身になってくれるお客様がいた。
世の中的にいうところの太客。
「私、値段見て買わないから。」
同性で同じ年で心配してくれて、いつもたくさんお買い物をしてくれる。
私のためを思って色々手を尽くしてくれているのはわかるのだけれども、時々どこかちょっと引っかかる。
最初は「良い人」だと思った。
でもちょっと癖がある。
その癖がどうも私とかみ合わない。
かみ合わないでお互いにヒートアップするとその人はすぐこう言った。
「なんで言ってることが伝わらないんだろう?みんなには言ってることがスムーズに伝わるのに、あなただけ伝わらないのよね。」
みんなは理解できるのに、私だけが理解できない人間だという言い方。
ほんとにそうなの?
そんなことないと思うけれど、自信はなく、やっぱり私がダメなんだろうかと思う。
人間関係は難しいと、つくずく思う。
そんな時、些細なことでその太客と喧嘩してしまった。
インスタのDMでぶつかり合ってしまった。
面倒を見てやってるみたいな気持ちになっているのは常々感じていたが、その言い争いでも、私が物事をわかってない風にしか言わない。
言い方が悪いとか、さっきから同じことを言っているとか、
自分の言うことがさも当然のような、諭すような。
ああ、またかと思った。
そして、あの一言が繰り出された。
「私はあなたのためを思って言っているのに。」
この一言は、私の中のどこかを取り返しのつかない気持ちにしてしまった。
お世話になっているのは十分わかっていた。
面倒を見てやってるような気持ちになっているのもよくわかっていた。
「確定申告結果、出たんだけど、昨年あなたの店で○○円使ったんだって、すごいよね。」とか、どれだけ自分があなた(私)のことを心配し、面倒を見てやってるかわかってるの?というような態度も気づいていた。
喧嘩後から「良い人」は私の知り合いの店に通い始めた。
そこでも太客ぶりを発揮しているらしい。
周囲は、
「あの人良い人じゃない、なんでそんなことに…。」
と口をそろえて言う。
私だって「良い人」だと思っていた。今までは。
癖のある部分が気になってはいたけど、その癖を受け入れるには私の心は狭量だった。
私のためと言いながら、結局自分の思うように操作したかったんじゃないか。
あなたはこの店のオーナーじゃないし、あなたが計画した先に私を埋め込むのも迷惑だし、彼女が購入してくれる大きな金額がなくなってしまうのはこの状況下では苦しいけれど、それで店をたたむのが早くなったとしても、関わってはいけない人間だと思えた。
とことん、人間関係がうまくいかない。
気持ちは沈むばかりだ。
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