世界を覆う反日という名のキツネ憑き現象
『きつねつきの科学』(高橋紳吾/ブルーバックス)という本に面白いことが書いてあった。
「ヒトは差別をする唯一の動物である。多くの場合,近代的自我や理性でそれを抑えているが、子どもは本能的にそういう行動をとる。たとえばいま学校で問題になっているイジメがその典型である。
クラスのおとなしい子どもが「くさい」という理由でいじめの対象にされる。実際にはくさくもなんともないのだが、その子にくさいというレッテルを貼ることで、いままでなんの存在感も無かった子どもに特別の意味が与えられることになる。つまり「くさい」ものと「くさくない」ものに二分され、その子以外の子どもは優越感にひたることができるのだ。こうしてイジメの構図が一度できあがってしまうと、心優しい女の子や指導的位置にある優等生でさえも、なかなか「そんなかわいそうなことはやめよう」とはいいだせない。なぜならその子たちも「くさい子」と同類とみなされる可能性があるからだ」
「差別や呪いは、閉ざされた刻印という性格を帯びる。閉ざされたとは情報の発信者に有利に他の情報を遮断するということだ。「Aはキツネツキである」とか「Bは魔女である」という情報は聞くものCを強引にうなづかせる力をもっている。CハモチロンAやBとなんの利害関係をもっていない一般大衆である。AやBのために彼らがキツネツキや魔女でないことを証明する必要はなく(もちろん証明はできないが)、むしろその主張に反論すればC自身が危険な目にあう。つまりAやBと同類とみなされるからである。
さらにその次にくる刻印は「魔女ならば火あぶりにされても死なない」という論述である。Bが焼け死んではじめて魔女でなかったことが証明されるという具合に、情報の発信者に完全に有利な仕組みになっているのだ」
「注目すべきなのは、負の体系の象徴としてキツネツキの「意味」が共有されていた社会においては、完全な憑依現象としてのキツネツキも多々確認されていたということである。人々は、これまでにない不安や葛藤に見舞われたとき、容易にキツネツキとなりえた」
ここで、世界の不幸という負の体系を象徴するものとして、ナチスドイツや大日本帝国を考えてみたい。戦後,世界の不幸や悪徳はすべてナチスドイツと大日本帝国に淵源をもつものとみなされた。つまり両者は戦後、この世界に住む人類にとって負の体系の象徴としての「意味」が共有されてきたのである。では、そこでの憑依現象とはなにか?軍国主義であり、民族主義(それに対する盲目的な反感、嫌悪感も含む)ではあるまいか。だからこそ戦後の世界は、これほどまでに軍国主義と民族主義に対して、異様なまでに差別的な対応をするのではないだろうか。
ところで、こうした病気や憑依現象を、身体的な健康を取り戻すためのホメオスタシス的な反作用という視点でながめたらどうだろうか。繰り返し世界にわきあがっては徹底的に非難され、弾圧される民族主義と軍国主義というものは、世界がなにかを見失っていることへのメッセージというようにもとれるはずだ。それを機械的に非難するのではなく、その底にあるメッセージを真摯に読み解く作業がいまこそ求められているのではないだろうか。
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