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心の棲家との出会い

内覧に訪れた物件は、まるで5階建ビルほどの高さの山頂に佇んでいました。30メートルほどの坂を登り切った先に広がるのは、約200坪の敷地。その中に母屋、離れ、小屋が点在していました。最初に目に飛び込んできたのは、竹林の静かな翠緑の輝きと、離れの落ち着いた佇まい。この光景を目の当たりにした瞬間、訪れた縁に深い感謝の念が湧きつつ、『ここでの新たな暮らしを描いてみたい』という期待感が心に広がりました。


築100年の物件を内覧する

築100年と推定されるこの古民家は、売主様が相続により所有した物件で、取り壊しも視野に入れて取引されていました。室内には以前の所有者が使っていた生活用品がそのまま残り、電気などのライフラインも止まっている状態でした。不動産会社と工務店の担当者とともに、スマホのライトを頼りに物件を見て回りました。室内は至るところに蜘蛛の巣が張り巡らされ、『空き家』特有の静寂と荒れた雰囲気に包まれていました。でも、その奥には、時を超えて息づく歴史の温もりと重みが静かに漂っていました。

再生の検討

再生を検討する上で、住めるかどうかの判断が必要でした。柱や基礎の状態や、シロアリ被害といった古民家特有のチェック項目を確認しつつ、工務店の担当者に改修の概算見積もりを依頼しました。一方で、『土壁の小屋を坐禅の会場にしてみたい』、『床の間を茶室として活用したらどうだろう』、『離れをゲストルームに改装したら素敵だな』といった具体的なアイデアが次々と浮かび、まるで夢を描くような充実した時間でした。現場には残置物が散在し、電気も通っていないため詳細な内装の確認は困難でしたが、不思議と前向きな気持ちが湧き上がり、未来への期待感が膨らみました。次に、物件の契約に至るかどうかの判断をするわけですが、改修費用の検討がつきません。工務店の担当者に概算見積もりを依頼しました。

教えられたこと

理想の物件の登場を待つのではなく、気に入った物件を購入し心の棲家に整える気構えを学びました。水道メータも不明でこれまでの生活排水の経路も不明な上、物件の奥まったところに撤去せざる得ない小屋がある。その上で、母屋と離れの屋内外の改修となります。どこまで改修できるのかイメージが湧きませんでした。工務店担当者からは、どこまで改修したいのか希望も聞かれました。そうなんです。上限は予算と共に設定される運命です。

不安が膨れ上がる中、禅の精神に学びました。『最低限の改修で住み始め、必要に応じて徐々に整えていけば良い。』という考え方は、非常に新鮮で、禅の精神の学びの一コマでした。当初は、不安の方が大きかったのですがよくよく考えてみると理にかなっています。ライフラインを整える、水回りを改修する、冷暖房などを設置する。時代の進化を改修の工程に合わせてみていくわけです。心の棲家に必要かどうかが判断基準になります。

思い出した事

禅の精神に触れる中で、環境学で学んだ『歴史的建築物の再利用』や『3R(Reduce, Reuse, Recycle)』の理念が鮮明に思い出されました。環境学の中で数を減らしあるものを長く使うことがエコの基本と繰り返し学びました。古民家再生を考える中で、坐禅を通じての生活は環境配慮型の生活を指していることに改めて気づきました。禅の日常の一幕を環境学を通じ学んでいたのでした。過去と今が静かにつながるような感覚がします。大自然の中で過ごしていた時の、言葉では到底言い表せない豊かさが、静かに心の中に甦ってきます。

夏涼しくて冬暖かい家(砂漠地帯向け)
お水を使った断熱方法(砂漠地帯向け)

準備できていた事

学生時代にカルフォルニアで始めた夏山登山を通じて、動物や虫と共生する術を学びました。山深い場所でテントを張り数日を過ごせたことは、自然の中で生きる知恵であり、いま古民家での暮らしを迎える私の基盤となっています。また、日々の暮らしの中で、できるだけ環境に優しい日用品を選んでいます。環境に特別に配慮した洗剤や石鹸を既に利用していますので、生活排水による環境への影響は最小限に抑えられると思います。

始まり

古民家暮らしの現実を知れば知るほど、私自身のこれまでの生き方との共通点が見えてきて驚いています。忘れかけていた大切な記憶が蘇るような、まるで、自分まで再生されていくかのような感覚です。進みたかったけど進めなかった道にようやく辿りつけたような心境です。新しくも、どこか懐かしさを感じさせる道の始まりです。

内覧を終えた後、近くのお寺に立ち寄りました。拝観の最後に鐘をつかせてもらう機会がありました。釣鐘の澄んだ音が境内に響き渡り、その余韻が古民家再生への挑戦をそっと見守り、静かに背中を押してくれるような感覚に包まれました。その瞬間、心がふっと軽くなるのを覚えました。新たな一歩でありながら、どこか懐かしい温もりを感じさせる道の始まりです。

次回は、物件の購入を決める心境を綴ります。古民家探しの裏側を垣間見られる貴重な体験談です。