_景岳全書__婦人科を読む_

【「景岳全書」婦人科を読む】2.婦人規上 2-1.総論類 論難易二(2)

【本文②】

蓋以婦人幽居多鬱、常無所伸、陰性偏拗、毎不可解。
加之慈変愛憎、嫉妒憂恚、罔知義命、毎多怨尤。
或有懷不能暢遂、或有病不可告人、或信師巫、或畏薬餌。
故染着堅牢、根深帯固、而治之有不易耳。此其情之使然也。

【書き下し】

けだし婦人は居に幽し(くらし)鬱多きを以て、常に伸ぶる所なし。毎に解くべからず。
これに加え恋を慈しみ愛憎し、嫉妬し憂い恚り(いかり)義命を知ることなし。毎に怨み多く尤し(はなはだし)。
あるいは懷(おもい)あり暢遂すること能わず、あるいは病あれども人に告ぐべからず。あるいは師巫(かんなぎ)を信じ、或いは薬餌を畏れる。
故に堅牢に着き染まり、根が深く帯が固く、これを治するに易からざることあるのみ。これその情、然ら使むるなり。

【口語訳】

思うに女性は室内に居り、鬱が多く常に心身ともに伸びやかでない。陰の性質で偏り心が拗ねている。つねに心情をつかみにくい。

これらに加えて恋を慈しみ愛憎し嫉妬し憂い、物の本質を知らない。つねに怨みとがめることが多い。あるいは思いあり、滞りなく成し遂げることができない。あるいは病があっても人に告げられない。あるいは占いや祈祷師を信じる、あるいは薬や食べ物を守らない。

故に病が根深くこれを治すのは難しい。そのため治療が困難になる。女性の心情がこのような状態の原因となる。

【山口解説】

「陽」は外向きに発散する性質があります。そのため「陽」に属す男性の心は、自身と外部との関わりにおいて考えをめぐらせ、世間の目や社会的な在り方、常識をもとに物事を論理的に考えて決断する様々な知恵を持ちます。また、他者と比較し、競争し、使命をもって未来に思いをよせ、発展しようとする性質を持ちます。これが男性的な心の性情です。

「陰」は内向きに収斂する性質があります。そのため、「陰」に属す女性の心は、他者や外部との関わりではなく、自身の内側とのかかわりにおいて、自分らしくいる、ありのままでいる、他者との比較ではなく自分と向き合う、また競争ではなく共存を、未来ではなく今に思いを寄せ、発展ではなく本来の自分に戻ろうとする性質を持ちます。これが女性的な心の性情です。

ここでは、かなり女性を皮肉った書き方がされていますが、これは当時の比較的裕福な女性たちの生活習慣からくる心の傾向をいったように思います。

当時の裕福な女性たちは、家事や仕事をせず室内でじっとして過ごすことが多かったようです。陰の性質をもち、気血を内向きに収斂する傾向にある女性が体を動かさないでいれば、陰の内向きの作用がより強くなり、極端に陰に偏ってしまいます。したがって、気は停滞、鬱滞しやすく、そのために心と身体が伸びやかではありません。そして、心が極端に内向きに偏り、本当の思いを自身の中に隠し潜め、他人に心の内を打ち明けることをしなくなります。また、心が内向きになり過ぎるため、自分が自分がという思いが強くなり、拗ねてしまいます。

女性が恋を慈しむのは今も変わりませんが、極端に陰に偏ってしまった女性は、他人の思いを推し量ることが出来なくなります。愛の本質は「自我をこえて生じる、他者への無償のこころ配り」であるのにもかかわらず、常に自分だけに意識がいくため、愛とは反対の憎しみが生じ、怨み、内向きの強い気の作用が固摂に転じ、それが執着となれば嫉妬心が生じてしまいます。また、肺気のめぐりが悪くなることで欝々として憂い、その鬱滞を発散したいがために、グチグチ言って誰かを咎めてしまうのです。

このやり切れない気持ちをどうにかしたいために、占いや祈祷師を信じ、気持ちが自分へと向かいすぎるがために、他者である医者の指示に素直に従うことが出来ません。

このように当時の女性は極端な気の停滞や気の鬱滞が根本にあり、それをもとに様々な病を生じていたのではなかいと推測出来ます。これは私たちが現代の患者さんを治療する時にも大事なことを示しています。鍼灸は補瀉によって気の停滞を循環させる治療法です。

したがって、難しい病や慢性病ほど、鍼灸で気を巡らせるとともに、患者さんにも気を停滞させるようなことを避けてもらい、気を巡らせるような養生法を積極的にしてもらうとよいと思います。

そのためには先ず、歩かせることです。現代人は動かな過ぎです。日々散歩をして、小まめに気を循環させるようにしてもらいます。激しい運動は気は巡りますが血虚が生じることがあります。よって女性の場合は血を消費させず気を巡らせるために、散歩程度の軽度な運動を習慣とさせます。

次に考えすぎをやめることです。心の停滞は身体の停滞を生じさせます。日々楽しめる何かを見つけ、積極的に遊ばせることで、気を巡らせるようにします。特に陰に属す女性は気のめぐりが収斂に偏っているため、ややもすれば心も収斂され、ここに書かれているような欝々とした心の状態になりがちです。女性は如何に日々を気分よく過ごすかということが何よりも大切です。

この2つがここで言われている心身ともに伸びやかにする方法です。

それと、現代においてもう1つ付け加えるのであれば、食べ過ぎに気をつけることです。これも気の停滞を生じ、食滞や湿邪へと発展していきます。食滞や湿邪が生じればさらに気のめぐりは阻滞されてしまいます。


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目次

書き下し・口語訳/仁木小弥香
解説/山口誓己

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