
第十回 久しぶりの新曲「晩秋ひとり」の歌詞について
はじめに
ろじぇぽっぷ公式的には8曲目の合成音声使用オリジナル曲「晩秋ひとり」を先日12月24日にニコニコ動画にて公開しました。その歌詞について、まだ制作の記憶がホットなうちに振り返ってみたいと思います。
最初は、この曲で参加した投稿祭「ボカローカル祭」のテーマである地域ネタを交えながらラブソングとして書けたらいいなと思ってたんだけど……。恋愛に絡む表現は入っているものの結局メインディッシュにはならず、書いているうちに恋愛よりも大きなテーマ(人生とか?)に吸収されてしまった感がありますね。恋愛描写は抽象的で申し訳程度。最初の狙いと逆になってしまいました。
最近見た他の身近なボカロPさんのラブソングの歌詞は違いました。もっと日常の些細なことをうまくクローズアップしてストーリーに具体性を持たせ、ディテールを描くのが上手いので羨ましくなりました。
今回完成した歌詞は、作曲(音楽的)観点からコンパクトにまとめようという課題もあり、歌の主人公は多くを語らず聴いた人に色んな想像をしてもらえるようになっていて、これはこれで気に入ってはいますが、光石も本当はもう少し解像度を上げた詞を書ければいいのにという気持ちも頭の片隅にあったりします。作詞と作曲、両方の理想があるのでバランスが難しいですが。
自分の作った歌詞を説明するのは個人的には野暮だと思っています。受け取った人それぞれ、色んな解釈があっていいと思います。それを作者が意図してなくても、間違っててもいい。それにこの新曲に関しても書いた本人的にはそんなに説明不足な歌詞だとは思ってないのですけど、最近のコンテンツの傾向は「よりわかりやすく」「誰でもわかる」みたいな感じなので、迷ったけど楽曲本編を補完すべく、そして制作背景や裏話など交えながら解説記事を書いてみます。
構想
まず「晩秋ひとり」というタイトルはこのプロジェクトの第一段階=まだ何も作っていない状態で最初に決めました。失恋した女性の一人旅という極めてベタな雛形を設定して。この時の光石は長い間歌詞が思い浮かばないスランプ状態でしたから、どうにか書きやすくお膳立てしよう、という狙いがありました。
23~30歳ぐらいの大人の女性を想定。めろうさんのヴォーカル起用も大体この時に決めています。光石が利用している合成音声サービスのNEUTRINOは他は子供っぽいイメージのキャラクターが多めなので、ヴォーカリスト選定はほぼ即断でした。
そしてこの時、「晩秋」というワードに歌の舞台となる地方(播州)も同時に織り込んでいたんです。これが発想のスタートでした。今年の5月に訪れていたこともあってイメージしやすかったし、以前からこの地方のノスタルジーを曲にしてみたいなと憧れていたのです。ボカローカル祭、ちょうどいいタイミングで巡ってきました。詞を書き始めた時はすでに12月。投稿祭の開催は年末なのですが、季節背景をそこに変更することは出来なくなりました(笑)。
ただ都合のいいことに今年は紅葉が遅くまで見頃が続いていて、歌詞の中の季節にドンピシャな状態だった現地に追加取材に行くことも出来て、作詞にも作曲にも有利に働いたと思います。
最初から(A→サビ)×2コーラス+ラスサビのシンプルな構成を前提に書き出しました。Bメロなし=冗長でなくてかつサビにインパクトがあり、語感に過不足のない均整の取れた美しいポップソングを目指しました。3拍子で書くことも既に構想していましたが、作詞の段階でさすがにそこを見越しての計算まではできませんでした。
あと前もって言っておきますが、視覚情報が補助してくれる動画作品の一部としての音楽ではなく、単体の音楽コンテンツとして詞を書くという方針で常にやってますから、映像との連動という観点はここで考慮しません。ボカコレアプリなどを使いスマフォはポケットの中で、目を閉じて音楽だけを聴く場合でも通用するような作詞を前提にしています。
歌詞解説 1A
さてここからは歌詞の本文を見ていきます。
>5年越しの恋が終わって
>風は随分冷たくなって
>思い立ったら旅に出てたの
>車窓からじゃ見えない海いま薫る
光石は過去にXでも何度か「歌詞は最初の四行が大事」って呟いてます。第一印象で何が見えるかが重要なんですよね。神経使います。一行目、最初は何となく「2年」にしてました。この長さで二人の関係性や別れの意味が変わってきます。ここはある程度長い方が後半の内容と整合性が取れるので伸ばしました。お互い大きな問題もなく無難に続いていた関係だったのです。じゃあ何で?と思わせるのも狙いです。
タイトルが晩秋なので季節は間もなく冬を迎えます。二行目はラフメモの時点では「涼しくなって」だったけどいくら温暖化といってもそれだと初秋の印象までカバーしてしまってフォーカスが甘くなる。バッサリ変更。ここはもちろん気候だけでなく「(別れて)寂しくなった」気持ちも出してます。程度は分からないけど気持ちに変化があることを示します。
次ですがとても悩んだ部分。光石はボツにした部分もある程度書き残してますがここラフでは「誰にも内緒で計画立てて」だったんです。「旅」って単語を使わずに旅に出たと匂わせたかったんだと思いますが、状況をはっきり書いてあげないと見えにくくなるケースでこれをやると逆に効率悪化して裏目に出ます。はっきり旅と書きました。突然思い立ったのなら誰にも言う暇ないの当たり前にわかりますからそこもクリア。内緒という説明的な単語はここで使わずあとに取っておきます。
四行目も推敲に苦慮した部分。ラフでは「車窓からは海」とそもそも事実と違う事を書いてました。車窓と書いてるから電車だろうなと分かりますが、よくよく調べてみると舞台にした播州地方を走るJRも山陽電車も車窓から海は一度も見えないんです。ギリ見えそうな微妙な区間もありますが目を凝らしてる間に過ぎてしまい旅情を盛り立てるには足りない。だったらもう、見えないという事実を書いちゃえ、と。そして電車から降り街へ出てやっと「海だ!」って感動が湧き上がってくる流れが面白いかも、ってことでこうなりました。結果的に大成功です。
さらにこれでこの四行分の時間軸も一点に収まって、リスナーの頭の中が一枚の絵になりやすくなりました。視点が「電車から降りた後」に統一された訳ですね。車窓から海を見ながら考え事をしている描写を入れると時間の幅が出来てしまい視点が時間に沿って流れてる感じで良くないです。それだとリスナーが曲の進行するテンポに追いつけません。
歌詞解説 1サビ
いよいよ1サビです。今度の曲はもったいぶらずサクッとサビに到達。これがやりたかった。そして頭から直球でタイトル歌い上げ!
>晩秋ひとり
>穏やかな波 霞む小島
>視界は広い
>港を見下ろすみかん畑
>風と登ろう
Aメロでは行動や心の動きを中心に描いたので、その余韻を持って今度はひたすら目の前にある風景を歌います。実際の地名や名所を指す固有名詞は意図的に入れてません。瀬戸内海に面した風光明媚な地域という播州の特色を存分に出せてて大体察してくれればそれでいい、という感じで言葉を並べました。
最初に閃いたのが「みかん畑」。実を言うと構想時はたつの市単独で扱うことを考えてたので市内のみかん園を調べますがヒットせず。そこで西播地方全体まで広げて探したら赤穂市の塩屋がヒット。「赤穂みかん」というブランドになっているようです。しかも高台にあり海が見下ろせるようです。このネタは採用するしかない。赤穂は三度行ったことはあれど山側は全く行ったことがなかったので使える写真素材がない…。急遽撮りに行くことに(行ってみてもし綺麗に撮れるポジションがなければイラストで代用しようと思っていました)。
この流れで、一番が赤穂市、二番がたつの市に相当するように構想を変更しました。広域化してタイトルにより近づいたことにもなります。
作詞をとりあえず完成とみなして作曲に入った段階で、1サビの詞は「~みかん畑」の所までで終わってました。ところが作曲時にメロディが宙ぶらりんで小節枠が余る感じだったので、蛇足にならないように気を付けつつ少し言葉を足そうという流れになり「風と登ろう」を加えました。ここまでの描写では一人で旅をしているとは明言されてませんが、このフレーズによって「私のお供は風だけだよ」とさりげなく伝えられます。一番の締め括りに更にふさわしくなりました。
歌詞解説 2A
二番に進みます。作者的にはこの2Aが最もニュアンスの調整に凝った部分です。
>5センチ切った髪 すまし顔
>デニムの上下 軽い靴音
>「愛って相手を縛らないこと」
>uh ありがとね 最後まで優しかった人
数字の5は結果的に一番二番の頭が揃う形になりました。普通の失恋ソングとして見たら、5センチなんて別に5年分の恋愛清算には見合ってない気もしますが、この歌の狙いやベクトルは違う方向にあります。実はそれぐらいでよくて、ちょっと気分変えたかったんだよと。一行目二行目で伝えたかったことは、引きずっていない、もう概ね気持ちの切り替えが済んだサバサバした心境、そして次の二行で、でもちょっとだけ申し訳なさが残っている、相手を思いやっているという気持ちが出るように書きました。
原因は女性側のわがまま(相手の優しさを窮屈に感じていて、一度自由(ひとり)になりたかった)であって、別に仲が悪かったとかじゃない設定なんです。むしろ凄く理解してくれてたので、自分から切り出した別れ話がすんなり通っちゃった。そんな感じです。だから「ごめんね」と書いた方が意味は通りますが未練とか後腐れが残るあからさまな失恋ソングのムードが漂ってしまうのであえて「ありがとね」で主人公のサッパリした性格や切り替え感を演出しました。この方向性の方が瀬戸内の爽やかなバックグラウンドとの相乗効果が出るだろうということで。
主人公の散策シーン描写が主体のこの2A前半の歌詞を考えてる時に頭に浮かべてたのが、動画の扉絵にも使った赤穂御崎海岸の「きらきら坂」です。ここも最初知らなくて、グーグルマップで付近を調べてた時に「きらきら坂」の名前でピン打ってあるの見つけて「どんな所?」とさらに調べたらインスタでもお馴染みの映えスポットだと知り、みかん畑と一緒に現地ロケ巡回地となった次第です。
そしてここらへんから、今まではバラついていた韻律が揃ってきます。1サビまではストーリー重視で「ひとり」と「ひろい」ぐらいしか揃えきれてませんが2Aでは「がお、おと、こと、ひと」と綺麗に揃ってます。これ実は2Aだけは狙ったんじゃなく後で気づいたんです。一番と同じように内容の整合に気を取られてたので。いつもこんな感じで無意識にやってて自分でも「天才?!」とびっくりします。
そんな末尾のリズムは2サビへそのまま流れ込みます。
歌詞解説 2サビ
>晩秋ひとり
>ホームでお出迎え 童謡の碑
>清流渡り
>町並み抜ければ紅葉谷
>落ち葉の騒めき
今度は舞台がたつの市に移ります。サビだけにここの韻は意識して作りました。推敲前のラフメモではここまで綺麗じゃなかったです。Xでも披露した裏話ですが「清流渡り」はもともと「駅から近い」でした。あまりにも無粋なので考え直しました(笑)。清流はもちろん地元名物「揖保乃糸」の由来にもなっている揖保川を指します。そして国の重伝建に指定されている龍野の町並みを抜ければ……この歌詞に登場する唯一実在の名所となっている「紅葉谷(もみじだに)」へたどり着きます。固有名詞だけど地名っぽくない、一般名詞に近い響きなので使ってみました。広義では地元の人にも親しまれている龍野公園の愛称としても使われています。もちろんここも直前ロケで再訪し、その時の写真をMVで使用しています。
最後の「落葉の騒めき」も1サビ最後と同じように作編曲作業中盤になって追加されたフレーズですが、「今から間奏ソロが始まるぞ」と落ち葉たちが騒めいているよ…というミュージシャンのエゴ全開な発想を実際の風景に重ねました(笑)。
歌詞解説 3サビ~
いよいよ終盤、3サビ~ラスト。主人公の時間軸はまだ旅の最中ですが、見据えている時間軸が過去や現在から未来へフォーカス移動します。
>来週ひとり
>先の事なんてまだ曖昧
>自由は惑い
>内緒のアカウント 自己紹介
>ささやかな誓い
>郷愁浸り
>また明日からね いろんなこと
>わたしを生きよう
制作期間のかなり後になって、3サビ頭がタイトルの晩秋ひとりから「来週ひとり」に変わりました。
突然降ってきた自由。とりあえず今、思い付きで旅をしてるけどこれから何しよう?と。でも考えが及ぶのはせいぜい一週間先ぐらいまで、っていう感じです。さらにこの「来週」の一言だけで次に来る「先の事」に日常感を伴う平日のニュアンスが付加されたり、この旅の時間軸(視点)が週末であることもわかるので、この変更は、意味なく無難にタイトルを歌わせるよりは一石二鳥で効率いいなと思って変えました。
そして温存しておいた「内緒の」というワードを満を持してここで使います。旅先でまだ誰も知らないアカウントを作って、記念すべき最初の投稿をして、何となく今後の目標を掲げてみる……って感じかな。「いろんなこと」は想像を掻き立てる言葉でここもお気に入りです。良質の余韻を残してくれて。
ここは作曲との兼ね合いや文字数の関係でかなり迷走した箇所でもあります。だからここだけ作詞と作曲が同時進行みたいになってて、いや同時というか交互進行というか…あちらが立てばこちらが立たずみたいな状態。メロディが流動的なので言葉も揺れる。最初「アカウント」じゃ字余りになったので本垢とかサブアカとかにしてみたり、それで意味が合わなくなったり…。途中、気分転換に普段SNSで仲良くさせてもらってるボカロPユニットの方々と話しながらそこからまたヒントを貰って、結局メロディを1サビと一致するように固定してメロディの問題を解消。ようやく「アカウント」というプレーンな表現に落ち着きました。スッキリ。
そうして苦闘した末に「ひとり、あいまい、まどい、しょうかい、ちかい、ひたり」とこれまた最終的に綺麗に揃ってるのが見事過ぎて今や自画自賛しかないです(笑)。
ラフメモではこの3サビは仕上がりと内容は近いけど並んでる言葉は全く違ってた。「わたし始め」という表現を思いついて使ってたんだけど検索してみると植村花菜さんの歌のタイトルに既に使われてて、新鮮味も何もないのでボツにして全面改変。そして最後に出てきたのが「わたしを生きよう」というフレーズです。歌の主人公がSNSに書いた「ささやかな誓い」って、多分この言葉じゃないかな…って詮索できそうなエンディング。もう調べるの怖いので誰かが同じ表現使ってるかは検索してません(笑)。自分なりの言葉作るのも難しいですね。
おわりに~楽曲リンク
以上、ろじぇぽっぷの新曲「晩秋ひとり」歌詞の解説を思いつく限りしてみました。失恋のネガティヴなイメージではなく、今はまだ何も決まってないけどもう切り替えて前向いてるよ、というポジティヴな印象になるよう詞も曲も書けたのは狙い通りです。よろしければ、曲を聴いて頂いて、MVのスライドショーを見て頂いて、魅力を感じたらこの地方を旅してみてください。播磨国の観光地は姫路だけじゃないですよ!