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『自動販売機に恋した子の話。』

※ 当note+記事は、角川ドワンゴ学園で提供するプロジェクト学習プログラム「プロジェクトN」での生徒の成果物として掲載しています。
プロジェクトNとは:https://nnn.ed.jp/project-n/

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著:Kちゃん

恋愛感情の中には、いつも若干の狂気が潜んでいる。とは言っても、狂気の中にもまた、いつも若干の理性が潜んでいるものである。
- ニーチェ -

■はじめに

僕は自動販売機が好きだ。
使うのも好きだし、ただ見るのも好きだ。何でもない自販機でも、目に入るとつい詳しく観察してしまう。筐体ごとにラインナップは違っていて、そこに出会いを感じる。
どれだけ現実が辛くても、自販機はいつでもそこにいてくれる。お金さえ払えばいつでも暖かいものを僕にくれる。そこにそれ以上のものはないが、普遍性や永遠性まで感じてしまうのはきっと僕が酔いしれているからだろう。
日常に溶け込み、時に目印にもなる。そんな自販機に魅了された話をする。
僕と自販機の出会いは中学生の頃だ。いや正確にはもっと幼い頃だが、自販機に対する感情の変化があったのはその頃だ。僕の地元はとても田舎で、コンビニやスーパーは徒歩15分以上かかる場所にある。しかし、自販機だけはすぐそばにあった。
嫌なことがあったり気合を入れるとき、自販機で商品を購入するのが自分の中でのルーティンになりつつあった。ゆっくりと過ぎていく時間の中、時間を感じるのは新商品に切り替わるタイミングだった。その度に写真を撮り思い出として残す。もはや、青春を共に過ごしたといっても過言ではないだろう。

■自販機旅行

時には県外にまで遠征し数多くの自販機に触れてきた僕だが、その中でも特に思い出に残っている筐体がある。

一つ目は茨城県北茨城市「あんこうの宿まるみつ旅館」にある手書き自販機だ。普通の自販機のように見えるが、見本品のラベルがあえて手書きで描かれている。

スタッフによる手描きラベル

そのきっかけは東日本大震災。震災によって客足も減り、旅館スタッフたちも手持ちぶさたに。こんな時だからこそ何かやろうと考えたのが「手作り感のある旅館づくり」だったと話を聞いた。
人の優しさを機械である自販機を通じて伝えているのだ。理論やデータでは計り知れない”エモさ”がそこには詰まっているのではないだろうか。

二つ目は青森県「JR青森駅」にあるりんご自販機だ。その名の通り、ラインアップは“ストレート果汁100%”の「青森りんごシリーズ」のみ。赤一色に染まりそうなものだが、王林やトキなどのバリエーションを採用することで見た目も可愛くお洒落になっている。

acure「りんご自販機」

「青森のりんごの魅力を伝えたい!」という思いから2017年に青森限定で産み出されたこの筐体。その存在を知ってすぐに現地に向かったことは、5年を過ぎた今でも鮮明に思い出せる。(ジョナゴールドが好みでした。)
その後、好評のため東京駅にも設置されたこともあり「青森りんごシリーズ」は現在でも多くのファンを集めている。地元のりんごを応援したいという愛さえも、自販機は受け入れて力になってくれる。これはもう、機械なのに人間的だというギャップ萌えを感じるよりほかない。

■おわりに

自販機を見ると気持ちが熱くなる。次はどの筐体に会いにいこう、そう思いこがれる姿はまるで恋だろう。面と向かいボタンを押す動作は一種のコミュニケーションだとも感じさせる。狂ったように見える日々も今では大切な思い出だ。


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