無料ABテストツール「Optimize Next」の開発秘話からわかった、無料提供の理由と今後の野望
登場人物
田内広平
PROJECT GROUPの代表取締役社長。技術的なことはまったくわからないので、今回は登場が少なめ。ビジネスの展望の質問には雄弁に語っている。
植松風登
今回の記事の主役。PROJECT GROUPのエバンジェリスト(宣教師)で、オプティマイズネクストの開発者。京都大学に在学中にPGにてインターンを経験。その後、起業失敗×2回・ニート生活・大学中退を経てPROJECT GROUPに参画。開発に行き詰まったり、無理をしすぎるなどでたまに飛ぶ。
平野大地
元PROJECT GROUP社員でデータアナリティクス局の局長だった人。植松とほぼ入れ替わる形で退職。植松にすべての仕事を押し付けて引き継いで円満に退社ができたので、彼には感謝している。
オプティマイズネクストとは
「ABテストを、民主化する。」というミッションのもと、PROJECT GROUPが提供しているABテストツール。
Google Tag Managerの仕組みを応用することで、安全性を担保しつつサーバーコストをゼロを実現し、無料での提供を可能にしている。
本家Googleオプティマイズを踏襲しつつ、ユーザー視点からの改良を加えるなど、使いやすさを追求したデザインと機能性を装備。
2023年9月のローンチ後、導入サイトは1,000サイトを突破。(2024年1月23日時点)
公式サイト:Optimize Next
エヴァンジェリスト・植松風登
平野:いま植松はPROJECT GROUPで何やってんの?
植松:エヴァンジェリストやってます。
平野:エヴァンジェリストってPGでは具体的にどういうことをする役職なの?
植松:一言で説明するの難しいな……。田内さん、エヴァンジェリストって何ですか?
田内:……エヴァンジェリストです。
平野:あんた絶対意味知らんやん。具体的には何やってるの?
植松:いまはもっぱらオプティマイズネクストの開発と社外向けセミナーの講師をやってます。
田内:まあ、何でも屋さんだよね。
植松:もともとの経緯を話すと、1年半前にPROJECT GROUPに入社して、最初の田内さんからのオーダーが「社内で一番GA4に詳しくなれ」だったんすよ。
田内:平野が逃亡したからね。
平野:卒業ね。
植松:そうそう(笑) 平野さんが退職する直前に入社したのもあって、そのあたりの知見を引き継いでって言われたんですよ。他のスタッフが実務で忙しすぎるからって。だからまずはGA4の使い方から細かい仕様までを把握するところから始めて、必然的にGoogle Tag Manager(以下、GTM)についても詳しくなっていきました。
平野:そういえば俺がまだPGに在籍していたときにツールの開発もしてたよね。
植松:そうそう。GTM用のタグ設置を簡略化するツールを作ったんですよ。PGはすごく細かいデータまで解析するから、1000以上の大量のタグを作成して計測をする必要があって、その工数を削減する目的で開発しました。
平野:俺も使ったことあるけど、めちゃくちゃ業務が楽になるなって思った記憶あるよ。
植松:あと平野さんが退職した後ですけど、通常のコンサル案件の担当にもなりました。それに加えて営業戦略の一貫で社外向けセミナーに登壇することになって。
平野:業務領域がめちゃくちゃ広いね。
植松:でもそのおかげでGA4の技術と実用の両面から一気に学習できました。それでひとまず田内さんのオーダーには応えられたかな、と。
平野:応えられたどころじゃないよ。俺は細かいエンジニアリングの仕様は全然知らないもん。
田内:それで植松は社内のテクニカルサポートっぽくなったんだけども、そこでちょっとメンタル病んでたよね。
植松:その話いる?(笑)
平野:何それ、聞きたい(笑)
田内:植松が複数の業務を並行していくなかで、だんだん技術のほうに業務の軸を置き始めて研究職っぽい感じになってきたんだよね。そうなると一気にこの作業まで進めないと中途半端になるみたいなことも増えるじゃん。その結果、深夜までずっと仕事しちゃって、翌朝の定時に来られないことが多くなっていって。これは普通の雇用体系は無理だなと。
平野:それはしんどいなあ……。
田内:ただやることはやってるし能力は証明されてたから、だったら通常のコンサル職とは切り離して自由に仕事してもらうほうがいいなってことで、エヴァンジェリスト(宣教師)っていう役職に指名したって感じ。
オプティマイズネクスト開発の経緯
平野:ということはGA4の仕様も把握して、その過程で開発したツールで業務の効率化もできて、さあアクセル踏んで仕事するぞ!ってときにGoogleオプティマイズ終了のお知らせが来たわけだ(笑)
植松:そうなんすよ。2023年の1月くらいだったかな。
平野:あれは衝撃だったよね。
植松:それでもろもろ調査して、お知らせの半月後くらいには開発に向けて動き出しました。
平野:そこ詳しく聞きたいんだけど、どうしてツールを作ろうと思ったの? ABテストツールは既存のものがたくさんあるじゃん。費用は置いといて、ぶっちゃけ良さげなツールを選んで使っちゃったほうが会社としても植松としても仕事が増えなくて楽だと思うんだけど。
植松:それで言うと、僕のPGでの役割は代替ツール選定ではないと思ったので。
平野:かっこいいな、おい。
植松:そもそもGoogleオプティマイズをいじっているときから、ひとつ気になってたというか、僕の中で仮説があったんですよ。
平野:どんな仮説?
植松:「オプティマイズって正体はGTMなんじゃね?」っていう。
平野:で、試してみたら実際にそうだったってわけか。
植松:そうなんですよ。GTMの仕組みを使って簡単なABテストをやってみたら問題なく動いたんで、「あれ、これAPIとか駆使してめっちゃ頑張ったらオプティマイズ再現できるんじゃね?」ってなって。そこから本格的に開発しようということになりました。2023年2月のことですね。
平野:ってことは発表直後くらいだな。動き出しが早いね。
開発途中で迫られた大幅な方針転換
平野:動き出しが早かった割には、ツールのリリースはGoogleオプティマイズの終了間際だったよね。
植松:そうですね。
平野:その理由は何だったの?
植松:実は当初オプティマイズネクストはChromeの拡張機能単体として開発してたんですよ。社内で使えればいいか〜くらいに考えていたので。
平野:そういえば、GTMの簡略化ツールも拡張機能だったな。
植松:そうです。実際に拡張機能としては、けっこう早いタイミングでプロトタイプができていました。でもそれを実際に使ってみて「これ、世に出せるな」って思って。そこから非技術者のマーケターでも使えるツールとしての開発を始めました。
平野:素人考えだけど、その方針転換であればそこまで大変じゃなさそうとか思っちゃう。
植松:いや、ほぼゼロからのスタートになりました(笑)
平野:なんで?
植松:たとえば、拡張機能単体だとディスプレイが2画面必要だったんですけど、1画面でできるようにするとか。ディレクターとかマーケターとか誰でも簡単に使えるようにするっていう調整が必要になったのが大きいですね。
あとは結局、技術的に新たに別の拡張機能の開発も必要だということもわかって。だから開発対象が2つになってめちゃくちゃ工数が上がったっていうのもあります。それがギリギリのリリースになった理由です。
田内:ちなみにその間に俺への報告は一切なかった。
植松:そうですね(笑) すいません。
田内:進捗聞いても「良い感じっす」としか返って来なかった。
植松:そういう感じだったので、社内的には既存の有料ツールを使おうみたいな動き出しもありました。クライアントも関わってくる部分だから、他のメンバーはセンシティブには動いていて。でも僕が「イケるから」って説得して、直前まで待ってもらいました。
田内:現場サイドは期限までに出来上がらないこと前提に動いてたけどな(笑)
どうして無料で提供できるの?
平野:まあ紆余曲折あってなんとかGoogleオプティマイズの終了前にリリースできた、と。
植松:そうですね。
平野:リリース後に実際に画面を見てみたんだけど、ほぼGoogleオプティマイズと同じデザインになってて笑ったわ。
植松:そのあたりのUIは完全に本家を踏襲しにいこうと決めてましたからね。
平野:あとはやっぱり無料で使えるっていうのはすごいな、と。事業主サイドとしては、これまでお金がかかってなかったものにお金をかけるっていう判断はものすごく難しいから、こういうツールはめちゃくちゃありがたい。
植松:ありがとうございます。
平野:ただ、同時に無料というのは不安なところでもあるんだよね。既存のABテストツールはほぼ全て有料だし。
一応その理由として「サーバーレスだから」というのがHPに書いてあるけど、技術に詳しくない人はこれだけの説明で無料ってなると、なんか裏があるというか、巨大なトラフィックがあるサイトでは使えなさそう、他のツールにはない不具合がおきそうとか思っちゃう。そのあたりの仕組みを含めて改めて教えてほしいな。
植松:ものすごく簡単にいうと、「GTMを使用してABテストできるツールだから」というのが理由です。
平野:ごめん、全然わかんない。
植松:そもそもABテストの仕組みとして、サーバーにリクエストを送り、そのレスポンスに応じて各パターンの画面を表示するわけです。これは当然1PVにつき1リクエストになるので、そこでサーバーに負荷がかかります。他社のABテストツールはこのサーバーを自社で抱えているから、その費用をユーザーに負担してもらわざるを得ないんです。
一方でオプティマイズネクストでは、そのサーバーの役割をGTMに担ってもらっています。GTMは無料で使えるので、そこのサーバーコストをPGもユーザーも負担する必要がない。それが無料で提供できる理由です。
平野:つまり、GTMを介している=Googleのサーバーにリクエストを送っていることになるので、実質サーバーレスということ?
植松:そうですね。
平野:なんとなくわかったが、なんとなくわからんな……。
植松:実際に導入検討の際に質問してもらえればもっと詳しく説明しますよ。
平野:隙あらば営業すんな。
“ABテストの民主化”の真意
平野:とはいえどうして無料で提供することにしたの? 他社が有料で提供していて、かつほぼ開発時の人件費のコストしか掛かっていないなら、他社よりも安く提供できそうだし、売れそうとか思っちゃうんだけど。
植松:一言でいえば、「ABテストの民主化」が目的だからですね。
平野:HPにも書いてあったね。もう少し具体的に教えてほしい。
植松:これは僕の考えですけど、ABテストは実施すること自体が目的なんじゃなくて、そこで得た結果を分析して仮説を検証するための「手段」なんです。だから、そこでお金を取るというのはあんまり健全じゃないなっていう感覚が僕の中であったんですよね。
平野:あぁ、つまり他社でお金取ってABテストツール提供してるところは拝金主義の悪徳企業だと言いたいということね。
植松:そんなこと言ってないじゃん(笑) 他社さんの有料ツールは機能が豊富だったりサポートが充実してたり、有料である理由がちゃんとありますからね。そんな中でひとつくらい無料のものがあっても良いんじゃね?ぐらいのノリです。
田内:有料にするという案も出てたんだよね。ただ俺はガン無視で。そもそもGoogleオプティマイズが無料で使えてたってことは、無料だからABテストやってた人たちもいるわけじゃん。うちは効果検証がサービスの軸の一つだから、ABテストができない企業が増えるとうちの顧客も絞られることになる。
平野:そうだね。ABテスト自体やめるとかいう企業も出てきそう。
田内:データを使ってマーケティングしていこうという動きは健在だし、今後伸びていく市場というのは容易に予想できる。とはいえまだまだABテストをうまく使いこなせていない企業もある。さらに「ABテストは有料になります」ってことになると市場が収縮していくのは目に見えているという状況。だったらその中で営業活動を頑張るよりも、ABテストをしやすい環境を作って俺らの市場を拡大していったほうが、どう考えても効率が良いよね。
平野:たしかにそれは納得できる理由だね。
リリース後の反応は?
平野:実際にリリースしてみて、反応はどうだった?
植松:想定以上に良かったです! コーポレートサイトからもたくさんお問合せを頂いたし、それ以外にもABテストツールのまとめ記事に取り上げてもらったり、X(旧Twitter)上で「こういうの待ってた」みたいな反応もあって。ほんとに開発がんばって良かったなと思いました。
平野:田内さんは? 使った?
田内:使うわけねえじゃん。俺現場じゃねーのよ(笑)
平野:ちょっとは触ったり見たりしたでしょ(笑)
田内:見たは見たよ。
平野:本家のGoogleオプティマイズと比べてどうだった?
田内:いやもう本家を覚えてない。
平野:まあ指示や決定をする役割だとそうだよね。
植松:社内のエンジニアにも触ってもらったんだけど「マジで操作感が良い、ほぼ本家と変わらない、なんなら本家よりサクサクで早い」っていうフィードバックをもらって、それは本当に嬉しかったですね。Googleオプティマイズを使い倒してきた人たちのお墨付きをもらえたって感じ。
田内:あと「おまえ競合だろ」ってやつからの電話とかあったな。「なんで無料なんですか?」ってやたらと詳しく聞こうとしてくるみたいな。
平野:たしかに有料で提供している会社からしたらウザいもんね(笑)
最強のマーケティングツールを目指す
平野:機能的なところもGoogleオプティマイズとほぼ同じなの?
植松:そうですね。厳密にはまだすべての機能が備わっているわけではないけど、今後アップデートを重ねて本家を越えたいとは思っています。ユーザー視点からの改良を加えて、多くの人が使いやすいような機能を追加していく予定です。
平野:いま取り組んでいる機能アップデートは?
植松:ここ最近はずっと、マイナーアップデートの積み重ねって感じですね。割とユーザーさんからツールの仕様について質問を頂くことも多いんですけど、その対応をしていると「こうすればもっと分かりやすくなるな」っていうのが見えてくるわけで。そこから生まれたアップデートがだいたい週に1〜2件あったりします。
平野:じゃあ実質CSみたいなことまで担当してるってわけだ。すごいね、君。
植松:すごいです。
平野:ビジネスサイドとしての展望はどう?
田内:独自ツールであるPROJECT BASE(※下部の画像参照)みたいな「施策管理機能」は強化していきたいね。
平野:しさくかんり?
田内:まずABテストをガンガン回してるとそのデータの管理が課題になってくる。人材の流動も激しくなっているから、重要なデータが引き継がれず、もう一回同じテストするとか、あるあるじゃん。あとはテスト結果から別の業態のアプリやサイトに流用できる施策とかもあるのに、データが管理され
ていないから気づけない。
植松:そうですね。実際に案件を見ていてもそういう事例は頻繁にあります。
田内:これをPROJECT BASEのように、半永久的に自社のデータを保持して、社内でいつでも誰でも確認できるようにすれば、無駄な施策や議論を徹底的につぶすことができる。これが実現できればあらゆる企業にとって有益なツールになる。
植松:僕も事前に自社のクライアント20社くらいにアンケートを取ったんですけど、ちゃんとマーケティング施策の検証データを管理しているところってほとんどなかったんですよね。
平野:確かに自分も肌感覚ではあったけど、きっちり管理しているところは少なかったね。
植松:担当者の頭の中にしか残っていないとかも多いんですよね。あとはデータは残しているけど、Googleドライブとかバックログ、Slackとかのチャッ
トツール上とか保管先が分散していたり。
平野:あるあるだなぁ。しっかりマーケティングを行っている企業ほど属人的な管理の方法だったりするよね。
植松:だからABテストはもちろん、そのテストを実施するに至るまでの思考のプロセスやデータをすべて一つのフォーマットに収めて管理するために、オプネク上にPROJECT BASEのような機能を追加するように進めています。
平野:たしかに一つのツールでデータ抽出から解析、ABテスト、それらのデータの保管までできたら、すごく使えるツールになるな。
植松:この部分は「ABテストの実施」というインフラ的な領域からはプラスアルファになるところだと思うから、部分的に有料化して「プレミアムプラン」みたいに切り出すことにはなるかもしれないです!
最後に
平野:最後にオプティマイズネクストについて、あらためて開発者としての思いを語ってください。
植松:オプネクはすでに多くの方に使用してもらっていて、その中でやっぱり開発者としてありがたいのは、ユーザーさんから問合せや指摘がもらえることです。今後もガンガン送ってもらえると嬉しいです。それらをベースにこれからもアップデートを進めていくのでご期待ください!
平野:Twitterやってること言わなくていいの?
植松:Xね(笑) そうですね、僕あんまメール見ないので、XのアカウントにリプライやDMしてもらう方がレスは早いと思います!
田内:頼むから普通にメールは見てくれ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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