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【笑い話】ペンキ屋のおじさん

オフィスを移転することになり、退去の為の諸々のタスクをお願いする業者を探すようお達しがあった。

引越し業者の見積もりがあまりにも高額で、他のタスクはできるだけ安くおさえるよう指示された。

同僚が、

「エアタスクで探そう」

と提案して、まずはペンキ屋さんを探すことになり、早速3名がオフィスに見積もりを取りに来てくれることになった。

3名から見積もりをもらうと、格段に安い見積もりがあった。同僚にどんな人だったか尋ねると、

「普通のおじさんだった」

と言った。でも仕事の内容などもきちんと理解している風だったというので、この人に依頼しようということになった。

業務の妨げにならないように、週末に作業をしてもらうよう依頼したので、その日は私が出勤することになった。

土曜の朝、作業開始予定時間の9時に間に合うように出勤して、ペンキ屋のおじさんが来るのを待った。待つこと1時間。ようやく現れたペンキ屋のおじさんは、ランニングに短パン、ビーチサンダルという出立ち。手にはペンキの入ったアルミ缶数個とブラシの入ったバケツを持っていた。

「裸の大将かよ」

と思った。

遅刻したことを詫びるでもなく、唐突に、どの部屋のペンキを塗るのか聞いてきた。

「見積もりの通りにお願いします」

と伝えると。

「傷がついてへこんでしまっているところは、まずそのへこみを埋めないといけないから、その作業は別料金だ」

と言い出したので、見積もりを取りに来た時に応対した同僚に電話をして、見積もりを取った時にどういう話だったのか訊ねてみた。

「その作業をやらなきゃいけないって言ってから見積もり出してたよ」

と、言ってペンキ屋のおじさんと話しをしてくれて、おじさんも納得してくれたと伝えられた。

「俺、年寄りだからすぐ忘れちゃうんだ」

と、ペンキ屋のおじさんは言って作業を開始した。開始から5時間程経過した頃、ペンキ屋のおじさんが作業が完了したから帰るというので、帰る前に、見積もり通りに作業が完了したのか確認した。

各部屋の白い壁は全部綺麗になっている。問題はオフィスの一番長い廊下のバーガンディー色の壁。バーガンディーの壁に一部ピンクのペンキが塗られている、、、理由を聞くと、ペンキ屋のおっさん、堂々と言い放った。

「間違ってピンクのペンキ買っちゃったから」

唖然としてしばらく言葉を失ってしまった。気持ちを落ち着けてから、見積書通りに全部同じ色を塗るように伝えると、大きくため息をついて、

「君、明日も出勤になるけど。いいんだね?」

というので、ブチ切れそうになった。大きくため息をついて、もちろんオッケーだと伝えた。

日曜の朝、ペンキ屋のおっさん、今度は30分遅刻してやってきた。私を見るなり、

「バーガンディーのペンキ買ってきたから」

と誇らしげに言いながら、レシートを出して、

「この分は追加料金だから」

と、言い放った。
呆れ果てて、

「無事作業が完了するなら、もうなんでもいいわ」

と思った。

ようやく問題の壁はバーガンディー一色になって、ペンキ屋のおっさんも仕事を終えて安心したようだった。おっさん、帰り際に手を出して来るたので、握手だと思って手を出すと、

「そうじゃなくて、代金今払って」

とのたまった。とうとう怒りが爆発して、こっちもキレ気味に、

「いやいや、見積書に請求から2週間以内に口座振込って書いてありますよ」

と伝えると、

「俺、年寄りだからすぐ忘れちゃうんだ」

と言って帰っていった。

月曜日、ペンキ屋のおっさん、朝一に催促の電話をしてきた。

「やっぱり安いのにはわけがあるんだわ、、、」

と呟いた。


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