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【一般社団法人つなげる30人・理事インタビュー】第3回・日比谷尚武「課題解決に奮闘する人をほっとけない。応援したい」

一般社団法人つなげる30人の理事インタビューシリーズ。第3回は理事を務める日比谷尚武に話を聞きました。学生時代からネットベンチャー企業に出入りするなど、長らくIT業界やスタートアップ界隈に身を置いてきた同氏がなぜ、まちづくりに関わるようになったのでしょうか。その理由に迫りました。

●まちづくりの裏側を見てみたい

——「渋谷をつなげる30人」に関わるようになったきっかけは何ですか?

「渋谷をつなげる30人」が立ち上がって1年経ったくらいの時に、ロビイングや行政関係の若いメンバーが集まる飲み会があって。そこに加生(健太朗)さん(現 「一般社団法人つなげる30人」代表理事)がいたんです。

このプロジェクトがあることは小耳に挟んでいたけど、「あれ、大学の後輩が渋谷でまちづくりをやってるんだ」と、そこで初めて知りました。

当時、僕は企業の公共政策対応支援の仕事をしていたこともあり、国政の仕組みとかが気になっていたから、その延長線上で地方自治体にも関心がありました。地域のまちづくりを生で見られるんだったらおもしろそうだと思い、第1期の最終発表会を見学させてもらいました。

翌年度は、その頃に携わっていた(働き方改革の啓発団体である)「一般社団法人at Will Work」がNPO枠で参加できるようになったため、スタッフ1人を送り込んで、そのオブザーブとして毎回参加していました。3年目からは運営スタッフをやらせてほしいと申し出ました。

——それはなぜですか?

at Will Workなどで官民連携に関わっている際に、マルチステークホルダーの重要性がよく叫ばれていました。頭ではわかっていましたが、まさに「渋谷をつなげる30人」は、民間と企業と自治体がフラットの関係で合意形成して、物事を進めていくための優良なプロトタイプだなと感じたのです。その現場に出て勉強したいのと、裏側のリアリティを見てみたいという好奇心で、参加することにしました。

あとは、企業の広報をやっていたり、「コネクタ」と名乗っていたりしたから、いろいろな立場の人を合意形成させて、ムーブメントを作っていくことの大切さやパワフルさを理解していました。それを地域というフィールドで実践するのも面白いかなと。

何よりも、実際にプロジェクトの中に入って、回す側にならないと、苦労や醍醐味は得られませんし、そもそも人とつながれません。どっぷりと入り込んで、面倒くさい仕事をしたり、トラブルを解決したりしながら、他のメンバーと一緒に時間を過ごさないと駄目だと思いました。

——渋谷をつなげる30人ではどういう役割を担っていたのですか?

プログラムの設計やファシリテーションは、加生さんや野村さんが担当しているから、あくまでも運営のサポートがメインですね。あとは参加企業を募ったり、メディアの取材をとりつけたり、参加メンバーが何かを調べたいという時に、自分のつながりから適切な人を紹介したりしていました。いわゆるコネクタですね。


●国の未来を真剣に考える官僚との出会い

——日比谷さんは元々、ソーシャルセクターなどに興味はあったのですか?

学生時代、NPOに関わっていた人が周囲にいたけど、正直あまり認めてないというか、ちょっと馬鹿にしていたところがありました。当時はインターネットの創成期だから、僕自身はネットベンチャーに出入りしたり、フリーランスとして、バリバリ働いたりしていました。そんな僕から見ると、ソーシャル文脈で活動する人たちは、お行儀よく優等生的な価値観でやっているんだろうなと感じていたんです。

考え方が少し変わったのは、ずっと後になってからです。Sansanで働いていた時に、広報業務の一環で公共政策担当としても活動を始めました。そこで官僚と付き合う機会が増えて、自分が思っていた以上に、彼ら、彼女らは国のことを真面目に考えていることを知りました。ハードな環境の中でさまざまな社会課題に取り組む姿勢を見て、中途半端なスタートアップ企業よりも官僚のほうがガチで大変だなと痛感しました。

そうこうしているうちにSansanを辞めて、at Will Workに理事として関わることになりました。at Will Workは主に経済産業省や内閣府と足並みをそろえて働き方改革を推進していたのです。僕は個人的には、働き方なんて個々人の問題であり、ルールを作って啓発するなんてそもそもおかしいと思っていました。ただ一方で、国の動きを近くで見られるようなプロジェクトであれば、勉強になるかもと思って運営メンバーに加わったんです。

でも、いざ経産省の官僚たちとやり取りすると、Sansan時代に公共政策の仕事を通じて感じたのと同様、やはり官僚たちは国の未来を真剣に考えているわけです。そこで考えを改めるようになりました。

——そこからどのようにまちづくりにつながっていったのでしょうか?

国政から地方自治体へと関心が広がっていきました。その頃、(政策支援企業である)青山社中の講座を受講していて、地方自治体の政策についても勉強していました。社会保障とか、地方の格差とか、いろいろな問題が出てくるたびに、教科書的なものはわかるけど、現場のリアルを知りたいという欲求が高まったのです。

ちょうどその頃ですね、冒頭に話したように、加生さんと出会ったのは。彼の話を聞いて、「渋谷をつなげる30人」は、地域やまちづくりを知る格好の題材だと思ったわけです。

——「渋谷をつなげる30人」で地域の現場を体験して、一番良かったと思う部分はどこですか?

まだまだ、地域とか、まちづくりとか、地方自治とか、そういったものに対する理解の解像度がちょっと上がった程度ですよ。完全にわかったとは言い切れません。

——この3〜4年、つなげる30人に関わる中で、日比谷さん個人の具体的な成果は何でしょうか?

ぶっちゃけてしまうと、僕がいなくても運営は回っていたと思います。でも、広報として取材を取ってくると、参加メンバーのプライド向上や、達成感にはつながったかなと感じています。

加生さんのメディア寄稿も取り付けたりして、プロジェクトのコンセプトとか、一見単純そうで、しかし複雑な仕掛けが組み込まれているプログラムの内容を、外部の人に「見える化」する一助にはなったと思っています。

直近ではスタートアップ企業への案内を強化し、「つなげる30人」の中にスタートアップマインドを持ったメンバーが増えて、結果的に刺激になりました。

また、メンバーの何人かは、僕がコネクタとしてあちこち飛び回っている姿を見て、「こうやって人と人をつなぐのか」「真似したいな」と思ってくれたようです。そういう影響も多少なりとも与えられたかな。


●一つの価値観に縛られず、常にフラットでありたい

——今回、一般社団法人の理事を引き受けた理由は?

いろいろな地域へ行ったときに、「つなげる30人」について説明すると、興味を持ってくれる人は多いんです。

ただ、当時の「渋谷をつなげる30人」は、多くの地域に広めていく余裕がなかったのです。エリアごとに事情を鑑みてどんなスキームで運営すれば良いかカスタマイズして立ち上げていくやり方だったので、かなり入り込んでコンサルティングする必要があり。「同じことをやってみたい」と言われても、あちこちに飛び回って丁寧に対応する余裕はなかった。それがもどかしかったのです。

一般社団法人になって、自分も理事になることで、具体的なアプローチがしやすくなります。あと、「つなげる30人」をきっかけに全国各地を訪ねる機会が増えるのは、役得でいいなと思っています。

それと、僕の性分として、課題にぶち当たっていたり、解決しようと奮闘したりする人はほっとけなくて、応援したいという気持ちがあります。

別にカッコつけているわけではなく、シンプルに、自分の知見や経験でよければ、お金がかかるものでもないから、いくらでも力を貸せると思っています。自分がどっぷり向き合う時間はないけど、頑張ってほしいから提供できるものはないかと探します。「つなげる30人」の活動をやっていると、地域の人たちに会って、自分が何かできることあると思えるチャンスが多いのです。

さらに付け加えると、スタンスとして、一つの価値観に縛られたくなくて、極力、フラットな立場でありたいという思いが強い。それはクロスセクターの発想に近いかも。

多様な価値観や、さまざまな立場の人がいるのは然るべきで、それがどううまく交わっていくのかを考えたいです。もちろん、それができない事情や状況にある人がいることもわかる。凝り固まった考えの人がいるのもわかる。でも、その中でどううまくやるかが面白いですよね。


●合意形成をうまく図るツールとしての「つなげる30人」

——そんな日比谷さんが考えるより良い社会とは、一体どんなものですか?

誰もが否定されずに生きられる世の中です。対立や争い、価値観が違うから攻撃したり、排除したりするようなことが社会には溢れていますが、それは決して良いことではないと、心底思っています。

もしかしたら、凝り固まった考えの人も快適に生きられる世の中が、良い社会かもしれません。当然、そうした社会の実現が難しいのもわかっています。でも、理想はそうした社会ですかね。

——理想の社会に近づけるための一つの方法が「つなげる30人」?

世の中のルールや仕組みを作るのは、誰かに任せるものではなく、当事者たちが意見を出して決めたり、妥協点を見つけたりするべきだと思っています。それを体現しようとしている一つの例が「つなげる30人」です。

自治体や行政だけに任せずに、自分たちの生活の場所は、自分たちで作っていく。そのために各所との合意形成が必要なのは、残念ながら避けられないことだし、多くの人たちが、実際にはやり方がわからずに苦労しています。その解決策をマイルドな形で提供しているツールが「つなげる30人」だと思っています。

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