つなげる30人、ついに世界へ!アメリカ初上陸イベントを徹底レポート
日本発の地域共創モデル「つなげる30人」が、ついに海外へ飛び出しました!
2024年10月18日、米国アリゾナ州フェニックス市(人口約160万人、全米都市人口ランキング5位)のサンダーバード国際経営大学院にて「Weaving Nest Session」を開催しました。地域の異なるセクターの関係者が集まり、地域課題に対する新たな取り組みを探る機会となりました。
今回は、その現場に密着し、参加者たちがどのように交流し、新たなアイデアを生み出したのか、その舞台裏をたっぷりとお伝えします。
初の海外展開、その意義とインパクト
「つなげる30人」の海外展開は、日本で培われた地域共創モデルを異文化の地であるアメリカに適応させる挑戦でした。多様な人種や文化が共存するフェニックス市で、このモデルがどのように機能するのか、多くの期待と関心が寄せられていました。 そして結果は大成功!参加者たちは、「個人の価値観や思いを共有し、信頼関係を築くことで、創造的な解決策を生み出す」という「つなげる30人」の理念に強く共感。多文化社会でもその有効性が証明され、国際的な地域課題解決に向けた重要な一歩となりました。
本フォーラムの主催者で、同大学院の学生でもある一般社団法人つなげる30人カタリストのササオルーフ侑希(ユークス)は、「つなげる30人」の理念を基に、セクターや立場にとらわれず、自由な交流と協力を促進するネットワーク作りを目指し、開催しました。
一般社団法人つなげる30人の代表理事である加生や、カタリストでビジネスコンサルタントの嶋本も日本から参加し、初めて海外で「つなげる30人」について発表・共有する貴重な機会となりました。
「Weaving Nest」という名前には、特定のテーマに縛られることなく、参加者がそれぞれ「自分の巣を編む」ように新しいつながりを作り出し、その過程で自然に生まれるプロジェクトやアイデアを大切にしたい、というユークスの強い想いが込められています。
これは、ユークス自身が、日米両国において、個人同士のつながりを築いたり、地域に溶け込んだりする難しさを体験したことが大きく影響しています。
特に多様な文化背景を持つアメリカの都市では、ゆるやかな対話を通して人と人とのつながりが自然に広がることが大切だと、彼女は考えています。
様々なトピックで対立が起こりやすく、そういった対立が表面化もしやすい社会です。個人としての本音の対話を通じて、参加者が深い関係を築き、地域課題に対して柔軟で創造的な解決策を生み出せる場を提供したいという強い想いを持っています。
本レポートでは、フォーラムの過程で得られた洞察や、参加者が共感と信頼をどう築き、結論へと導かれたか、その背後にある物語を紐解いていきます。
はじめに:海外展開の意義、与えたインパクト
今回の「つなげる30人」の海外展開は、日本で培われた地域共創モデルを異なる文化背景を持つアメリカの都市に適応させる挑戦であり、非常に意義深い試みでした。
日本では比較的、調和や協調を重んじる文化が根付いていますが、アメリカのように多様な人種や文化が共存する社会では、異なるバックグラウンドを持つ人々がどのように協働し、共創できるかがより大きな課題となります。
今回試みの成果が特に大きかったのは、私たちにとって、国際的に再現性の高い方法論の開発も発展途上にあるからです。
特に、フェニックス市はアメリカの中でも多文化都市として知られており、人口の約43%を占めるヒスパニック系住民が社会に大きな影響を与えています。南西部という地理的要因から中南米をはじめとする世界各地からの移民が多く流入し、文化的多様性が形成されているのが特徴です。さらに、多様な宗教や文化的背景を持つコミュニティが共存し、国際的なイベントや祭りが地域社会に多彩な色彩を加えています。
こうした複雑な経済、教育、インフラの課題が絡み合った多文化都市において、「つなげる30人」モデルがどのように機能するかを検証することは、本フォーラムの大きな目的の一つでした。
結果として、参加者たちは、「つなげる30人」が重要視する「個人の価値観や思いを共有し、信頼関係を築くことで、オープンで柔軟なアプローチが創造的な解決策を生み出す」という理念に強く共感したようでした。
さらに、「つなげる30人」モデルは、アメリカのような多文化社会や個人主義が根強い環境でも十分に適応できる可能性が高いと評価され、異文化への適応力を示す結果となりました。
この成果は、今後の国際的な地域課題解決に向けた重要な一歩であり、「つなげる30人」モデルがグローバルに展開される可能性を示唆しています。
1.参加メンバーの自己紹介
今回のフォーラムには、フェニックス市の多様なバックグラウンドを持つ参加者たち(途中入退室を含め約30名がエントリー)が集まりました。それぞれが異なるセクターや業界で活躍しており、まずはそれぞれの所属や、参加動機などが共有されました。
1. 地域社会への貢献と課題解決を目指すNPO職員や公共セクターのリーダーたち
まず目立ったのは、NPOの職員や地域社会の課題解決に取り組む公共セクターのリーダーたちです。例えば、約2,000億円を管理するアリゾナ・コミュニティ財団の代表は、アリゾナ全土の非営利団体に資金提供や支援を行いながら、地域の発展に貢献する役割を担っています。彼は、地域の社会的課題を解決する新しい手法を探るために参加しました。
また、フェニックス市の航空部に勤務する担当者は、フェニックスの空港と世界各国との新しい航空路線を開拓する任務を帯びています。彼女は、国際交流の拡大や異文化理解が、ビジネスや地域社会の発展にどう結びつくかを学ぶために参加。アジア系のネットワーク拡大に期待を寄せ、国際的な視点からもこのフォーラムに深い関心を示していました。
2. 国際ビジネスと多文化交流に携わるプロフェッショナルたち
サンダーバード国際経営大学院の卒業生や学生も多く参加しており、特に国際ビジネスや異文化交流の視点を持つプロフェッショナルが目立ちました。例えば、年間売り上げ約8,400億円を誇るU-Haul Internationalのプログラムマネージャーは、少数派の女性リーダー育成や業界のイノベーションに情熱を持っています。彼女は、業界横断的なコラボレーションや社会的インパクトを重視しており、「つなげる30人」のアプローチを学ぶことで、自社内のプロジェクトにも応用できる可能性を模索していました。
また、国際的な人道支援に携わるNGOのプログラムコーディネーターは、自身がウクライナ人であることもあり、ウクライナ支援プロジェクトを進めています。そのため、異なるセクターの協力が現場で即効性のある支援にどう結びつくかに関心を持ち、今回のフォーラムに参加しました。
3. スタートアップやビジネス支援を担うエキスパート
さらに、地域経済やスタートアップ支援に関心を持つビジネスリーダーも多く参加しました。例えば、地域の少数派コミュニティに向けたビジネス支援に従事する参加者は、少数派や移民経営者のビジネスエンパワーメントを目指しており、より多くのリソースと機会が少数派コミュニティに提供されるべきだと考えています。彼は、クロスセクターのネットワークを通じて、これらの問題にどうアプローチできるかを学ぶために参加しました。
また、教育リソースの拡充に関心を持つ参加者も見られました。例えば、フェニックスにおける地域の教育格差や低所得者層へのアクセス向上を目指すプロジェクトに従事する参加者は、特にデジタルリソースや奨学金の制度設計に関心を持っており、他国での成功事例に学びたいという動機でこの場に参加しました。
4. グローバルに活躍する若手プロフェッショナルや学生
若手のプロフェッショナルや大学生もこのフォーラムに参加し、次世代のリーダーとしてどのように地域社会に貢献できるかを模索していました。特に、サンダーバードの学生やアリゾナ州立大学(ASU)の学生たちは、今回のイベントがキャリア形成や社会問題へのアプローチにおいて大きなインスピレーションとなることを期待していました。
例えば、台湾からフェニックスに移住してきた参加者は、輸出入の仕事に従事しており、アメリカでの新たなビジネスチャンスを探る中で、異文化間のビジネスネットワーキングの重要性を再確認したいという意図で参加しました。彼女は、「つなげる30人」のようなネットワークが、どのように個人のキャリアやビジネス発展に役立つかを学びたいと強調していました。
また、多文化教育や国際的な人材育成に興味を持つ学生も、教育リソースの不足やアクセス格差の問題に対し、具体的な解決策を見つけたいという意欲で参加していました。彼らは、自身が学んできた理論と、実際に社会課題に取り組む方法を結びつけるために、この場を貴重な学びの機会と考えていました。
2.インスピレーショントーク#1
まず加生は、「つなげる30人」を紹介し(英タイトル:Connecting 30 A Community Building Model to Build Solutions without Fixed Goals -Made in Japan -)、地域内の企業、NPO、政府から30人の参加者が集まり、地域課題の解決に向けたプロジェクト推進することや、「渋谷発、日本発のプログラムであること」を強調しました。
特に、「セクター横断のプロジェクトにおいては、綺麗事のビジョンや目標を共有するだけでは強いコミットメントは生まれにくい」との見解を示しました。
なぜなら、企業は利益にならない限り動けず、NPOはリソースの不足を理由に行動が制限され、行政はリスクを取ったり、新たな予算を必要とする事業にはなかなか踏み出せないからだ、と指摘しました。
代わりに、「まず個人としての思いや価値観を共有し、そこから信頼関係を築くことが、強いコミットメントを引き出す鍵である」と強調しました。このアプローチにより、異なるセクター間でのリソース共有や協力が自然に進むとし、組織の壁を越えた協働の可能性を広げる考えを提示しました。
具体的には、渋谷での落書き消しプロジェクトがその成功例として紹介されました。このプロジェクトでは、参加者たちがまず自分の「思い」を率直に共有し、その上で信頼を築き、組織のリソースを共有したことが、プロジェクト全体の円滑な進行につながったと説明されました。加生は、この信頼を基盤としたアプローチが、「つなげる30人」のモデルを成功に導く鍵であると述べつつも、「課題を解決すること」を目的にするのではなく、「ただ、目的もなくつながること」の素晴らしさを共有したいと訴えました。
また、日本国内での多地域展開の実績を元に、再現性と柔軟性の高さにも触れ、今後の海外展開の可能性についても言及しました。
最後に「つなげる30人」の方法論を用い、市民と政治家が共に対話を行い、東京都で実際に政策を実現した経験を共有しました。このプロセスは、官民の対話が地域政策に結びつく力を持つことを示しており、従来のトップダウン型の政策決定モデルとは一線を画すものとして紹介されました。
参加者からは「個人の思いを共有し信頼関係を築くことで、プロジェクトがスムーズに進む」という点に多くの共感が寄せられました。また、普段は組織の目標やリソース確保が優先されがちであるが、個人の価値観や信念を共有することで、協力がより効果的になるという考えに強い興味を示しました。
※プレゼンテーション全文(日英併記)はこちらからもご覧になれます。
スピレーショントーク#2
嶋本は、なぜこの「つなげる30人」が有効なアプローチなのか、やその理論的背景に焦点を当て発表を行いました。(英タイトル:The Effectiveness and Theoretical Backgrounds )
まず、「弱い結びつきの強さ」と「プロソーシャルモチベーション」に焦点を当て、イノベーションが生まれるメカニズムを解説しました。嶋本は、イノベーションが親しい関係(「強い結びつき」)ではなく、あまり親しくない相手との交流(「弱い結びつき」)から生まれやすいと指摘し、これが新たな視点やアイデアを生む鍵であると強調しました。
具体例として、「京都をつなげる30人」から生まれた「かもがわミュージックプロジェクト」を紹介しました。このプロジェクトは、当初は具体的な目標がなくとも、参加者同士の協力によってアイデアが形作られ、成功に至ったものです。嶋本は、「オープンで柔軟なアプローチ」がイノベーションと社会的影響を生み出す上で重要であると説明しました。
参加者からは、「弱い結びつきの強さ」という理論が共感を呼びました。異業種やあまり親しくない相手との交流がイノベーションに繋がるという考えは、特にビジネスセクターの参加者に新鮮な視点として受け止められました。また、「プロソーシャルモチベーション」の考え方も、参加者が自身の仕事や対人関係におけるモチベーションの向上に役立つと評価しました。
さらに、目標を事前に固定せず、柔軟に進めるアプローチについても、コミュニティプロジェクトやスタートアップに携わる参加者からは、精神的負担を軽減し、自然なアイデア形成を促す手法として高く評価されました。
4.テーマ発表
加生・嶋本のプレゼンテーションを受け、参加者はそれぞれが身の回りで感じている個人的な課題や関心を持つテーマを発表しました。
発表されたテーマは非常に多岐にわたり、参加者たちの多様な専門性や経験を反映したものでした。主なテーマとしては、以下のようなものが挙げられました。
教育の民主化とデジタルリソースの活用:低所得層や国際学生への奨学金プログラムの拡充、オンライン学習リソースの提供。
公共交通の改善:バスやライトレールの運行効率を高め、地域住民や学生の移動をより便利にするための取り組み。
地域コミュニティの活性化:公園や公共スペースを活用し、住民同士の交流を促進する環境整備。
メンタルヘルスケアの充実:コロナ禍後の精神的健康問題に対応するため、地域での支援体制を強化する取り組み。
少数派ビジネスの支援:少数派起業家のエンパワーメントを通じて、ビジネス機会の公平化を図る。
芸術と文化の振興:地域の文化資源を活用し、クリエイティブな活動を通じて地域経済を活性化させる取り組み。
環境問題への対応:地域レベルでの持続可能な取り組みを推進し、リサイクルやエネルギー効率の向上を目指す。
テクノロジーを使った社会課題の解決:AIやデジタル技術を活用して、社会的課題に対処し、デジタルインクルージョンを促進する方策。
食品安全保障:地域での農業支援や食糧生産の強化を通じて、食の安全と自給自足率を高める取り組み。
福祉サービスの拡充:高齢者や障がい者に対する地域福祉を強化し、包括的な支援システムを構築すること。
このように、参加者が提案したテーマは、教育や福祉、交通、環境、ビジネス支援、文化振興、技術革新など、幅広い分野にわたりました。
5.4つのグループ形成/プレゼンテーション
その後、「マグネットテーブル」という手法を使い、同じような興味関心を持つメンバーと4つのテーマグループが形成され、具体的なアイデアを深めていきました。
その際、特に所属組織のリソースをどのように用い、協力できるかを考えることを強調しました。
その後、各グループから発表があり、交渉学が専門のDenis Leclerc教授からフィードバックがされました。
1. 教育支援体制の強化
このグループは、特に教育に焦点を当て、奨学金制度やテクノロジーを活用した教育支援の強化について議論しました。アイデアとしては、政府や企業とのパートナーシップを通じて、低所得家庭や移民の学生にアクセス可能な教育リソースを提供するデータベースを構築することが提案されました。具体的には、学生が奨学金情報に簡単にアクセスできるようにするアプリの開発などが挙げられました。
教授のフィードバックでは、このプロジェクトが現実的かつ広範な影響を持つ可能性を指摘し、特に技術を活用してリソースの管理やアクセスを効率化する方法を検討するよう提案しました。
2. 公共交通機関の改善と教育アクセスの向上
このチームは、公共交通機関の改善を通じて教育機会を拡充するアイデアを共有しました。主な提案は、バスやライトレールの運行を改善し、通学の利便性を高めることで、学生がより安全かつ確実に学校へ通えるようにすることです。さらに、教育機関と公共交通機関が連携し、交通費の一部補助や、学生専用の交通ルートを設けることも提案されました。
教授からは、公共交通の問題は都市全体に影響を与えるため、地域政府との連携が不可欠であるとのフィードバックがありました。また、公共交通に関するデータを活用し、具体的な改善策をより明確にすることが重要だと指摘されました。
3. メンタルヘルス支援
このチームでは、コロナ後のメンタルヘルス支援をテーマに取り組みました。地域の住民がメンタルヘルス支援にアクセスしやすくするために、オンラインプラットフォームを利用して専門家とのカウンセリングを受けられるシステムを構築するアイデアが提案されました。また、コミュニティスペースを活用して、住民同士が交流できるプログラムを実施し、孤独感を和らげることも議論されました。
教授は、この問題が地域社会全体に広がることの重要性を認識し、既存のメンタルヘルスケアサービスとの連携や、支援の持続可能性を高める方法を検討するようアドバイスしました。
4. 地域コミュニティの活性化と文化交流
最後のチームは、地域コミュニティの活性化を目指し、文化交流イベントや公共スペースを活用した活動を提案しました。具体的には、地域住民がアートや音楽などを通じて交流できる場を提供し、異文化間の理解を深めることを目指しました。フェニックス市内でのオープンエアのイベントや、ボランティア活動を通じて、住民同士がつながる場を作り出すことが話し合われました。
教授は、コミュニティ活性化に向けたこの取り組みが持つ長期的な影響に注目し、特にイベントの持続可能性と資金調達の課題についての指摘を行いました。また、行政との協力を強化することが成功の鍵となると指摘されました。
6.次のステップに向けた展望
フォーラム終了時には、今後のフォローアップとして、ASU(アリゾナ州立大学)やサンダーバード国際経営大学院の学生との継続的なミーティングが計画されました。
特に、「教育リソースの改善」や「地域コミュニティの活性化」といったテーマについて、数ヶ月以内に再度集まり、進捗を確認する場が設けられることが発表されました。
また、オンラインでのミーティングも活用し、実際に立ち上がったプロジェクトのフォローアップを行う予定です。参加者の多くが、次回のフォーラムや定期的なミートアップに参加する意向を示していました。
参加者たちは、つなげる「30人モデル」をアメリカの文化や地域課題に適応させる挑戦を続け、フェニックスでのさらなる成果に向けて動き出す準備が整いました。
最後に加生から「日本でもワークショップで多くのアイデアが生まれますが、その多くは現実に形になることが少ないのが実情です。でも、心配しないでください。『つなげる30人』は、1つのアイデアを実現することに過度にこだわっていません。私たちの目指しているのは、今日のようにアイデアを次々と出し合える関係を築き、新しいクラスメイトのように信頼関係を深めることです。このような信頼関係こそが、都市や地域に変化をもたらす原動力になると考えています。」と述べ、締めくくられました。
このメッセージに、多くの参加者が共感し、特に、フェニックス市の公共交通機関に関わる参加者は「普段の仕事では、まず組織の目標やリソースの確保が優先されるが、今回のフォーラムを通じて、個人の思いや価値観を共有することでプロジェクトがよりスムーズに進む可能性があることを学んだ」と話していました。異なるバックグラウンドを持つ参加者同士が、お互いの強みやリソースを活かし合うネットワークの重要性が改めて認識されました。