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PdMのお悩み"あるある"とその解決法

プロダクトマネージャー(PdM)の役割をわかりやすく一言で説明すれば、「なぜ作るか、何を作るかを決める人」です。しかしその実務は多岐にわたり、ビジネスサイドとの調整、ロードマップの管理、ユーザーフィードバックの活用など、PdMの仕事には常に困難が付きまといます。

そこで本記事では、PdMがよく遭遇する10の「あるある」な悩みと、それぞれの解決策をProfitMakersの代表であり、ベンチャー企業などでCTOを経験してきた坂口 賢司が、詳しく解説します。より効果的なプロダクトマネジメントを実現し、チームとプロダクトの成功に繋がれば幸いです。

それでは、PdMの悩みあるあるとその解決法を見ていきましょう。

1:ビジネスサイドとの優先順位のすり合わせが難しい

これはよく起こる問題です。例えば、営業の人とすり合わせができない場合を考えてみましょう。営業はお客さんと直接対面する仕事なので、「こんな機能があったらサービスを前向きに導入できる」というお客様の声を聞き、実際に導入に繋げたいという思いから機能開発をPdMに依頼することがあります。

しかし、一社のお客様が欲しい機能をそのまま作るのは適切ではありません。開発することでどのくらいのリターンがあるのかを考える必要があります。例えば、その機能を導入することでどのくらいの契約数が見込めるのか、どのくらい売り上げアップが期待できるのかといった情報を出してもらう必要があります。

PdMは、これらの情報を基に判断し、「いまは難しい」ですとか、「他に優先するものがあります」といった説明をきちんとしなければなりません。役割として大事なのは、説明責任を果たすことです。

また、目の前のお客さんだけでなく、将来的にどのくらいの需要が見込めるのか、そのお客さんがいくら支払う意思があるのか、他の大手企業が導入する見込みがあるかなども考慮に入れる必要があります。例えば、「受注確度がBヨミがAヨミになる会社が10社あり、1社あたりの受注平均単価は3万円になります」といった具体的な見通しや数値を示すことが大切です。

2:プロダクトのロードマップが曖昧になりがち

これもよくある問題です。例えば3ヶ月のロードマップを作成し、機能実装の順番は決まっているという状況でも、デザイナーや開発の順番、バグ対応、プラグインのアップデート、サードパーティツールのアップデートによる更新など、予期せぬ差し込み業務が発生することがあります。

割り込みがたくさん出てくると、バグ修正や機能的な追加などにより、最初に決めたスケジュールがどんどんズレていきます。そのため、「ロードマップを作る必要がないのでは?」「作っても守られない、形骸化している」という意見も出てきがちです。
解決方法としては、きちんと優先順位をつけることが重要です。バグ修正にしても、スピードアップにしても、要望を取り入れるにしても、定量的・定性的な優先度分析を常に行っている状況が必要です。

さらにこれらを定常化し、習慣化することが大切です。新規サービスを作る時はバグ修正はありませんが、リリース後は割り込みも入るので、途中からやらなくなるのではなく、きちんと継続することが重要になってきます。

ですから、プロダクトロードマップがアップデートされる仕組みも必要です。理想は四半期に1回、細かいところまでできるなら本当の理想は1ヶ月に1回、最低でも半年に1回はアップデートすべきです。この頻度であれば、マーケットの変化の早さにも対応できるようになります。

3:機能のリクエストが多すぎて優先順位がつけられない

意見箱などを設置すると要望が増え続けることがあります。アイデアを含めて蓄積されていくのは大事ですが、意見箱から優先度リストに入れる際は精査が必要です。

また、ある程度優先度分析に載せるにはフィルタリングをかける必要があります。例えば、「ボタンの色を赤から青に変更して欲しい」といった細かな要望まで優先度を上げる必要はありません。

PdMがやるべきことは、単なる目安箱レベルではなく、優先度分析に加えたい要望については、開発工数などの項目をフォーマット化して提出してもらうようにすると、要望が溢れることもなくなります。本気の人はそこまでやりますし、「あったらいいな」程度の要望は備忘録的には残りますが、全体の優先順位と比べると上がってきにくくなります。

4:リリーススケジュールの遅延

リリーススケジュールの遅延には様々な要因があります。例を挙げてみましょう。

・差し込みタスクが多い
・開発見積もりが甘い
・バグが発生してその対応に追われる
・調査で思ったより工数が増える
・予算が足りない、思ったよりコストがかかる

一方で、見積もりの精度を100%にするのはやはり至難の業です。特にプロジェクトが大きくなればなるほど、見積もりは困難になります。例えば銀行の基幹システムを200-300人で、予算百億円、3年で終わらせるといった大規模プロジェクトの場合などです。

見積もり自体にも時間とお金がかかるので、十分に時間を取れているかどうかは大事なポイントです。また、スケジュールに忠実になるあまり、なにかの機能開発を諦めるなど”削る”作業をする場合、皺寄せが起きそうなスケジュールや作業まで、見積もり変更に対する理解を得ることも重要です。ですがやはり、短期的にはズレないように調整し、見積もり精度を上げることがPdMにとって最も力の見せ所だと思います。

しかし現実では、リリーススケジュールが遅れる回数が増えるごとに、やっと見直しをはじめるパターンが多いです。これはエンジニア側に聞いても原因を聞いても、専門的すぎる理由で理解できないだろう、という思い込みや、あまり融通を効かせてもらおうとしすぎるとエンジニアが嫌がり、最悪退職してしまうのではないか、などと心配して厳しく言えないことも多いからです。

また、中長期的には開発効率が下がっていることも考えられます。例えば半年かけて(時間をかけて)つくる機能は見積もりの難易度が高くなります。これは別で進んでいるプロジェクトが影響していることもありますし、技術的負債が足枷になっていることもあります。そのため、スタートの段階からこれらを解消する動きに投資出来るのか、今後出来るのかを検討する必要があります。

5:ユーザーフィードバックの収集と活用が難しい

ユーザーフィードバックは、アンケート回収など様々な収集方法がありますが、そもそも聞くべきこと、内容をちゃんと設定できていないことが多いです。例えばマーケティング要素の属性インタビュー、ロイヤルティインタビューが混ざっていたりすることがあります。タイプの違うアンケート内容を混ぜることは、質問数が多くなり、アンケート回答率を下げることにつながりますし、ユーザーも目的が複数あると混乱します。

また、顧客ロイヤルティを計測したい時に満足度を見ますが、顧客ロイヤルティを正しく計測できる人は多くありません。

そこでまずは「どれくらいおすすめできますか?」というNPS(Net Promoter Score)形式で聴くのが一番効果的です。PdMが知るべきは、ある機能が顧客ロイヤルティにどのくらい影響しているのかということです。できればA機能はどのくらいポジティブ、ネガティブに、顧客ロイヤルティに影響しているのか?と詳細に聞いていく必要があります。A・B・Cの各機能がそれぞれどれほどロイヤルティに貢献しているのかがわかるようにすることが重要なのです。

ですから、アンケート設計を正しく行うためのノウハウややり方を身につけることが大切ですね。

6:チームのモチベーション維持が難しい

モチベーション維持には正解がありませんから、難しいですよね。

大前提として、会社のビジョンはもちろん大事ですが、業務の目的や背景が理解できていないから下がることもあります。会社で働くことのモチベーションに対してなら、会社のビジョンを明確に伝えることが重要です。

もしプロダクトやプロジェクトに対してモチベーションが上がらないなら、プロダクトビジョンをきちんと伝える必要があります。プロダクトのありたい姿がきちんと伝わっていないと、行き当たりばったりで短期的な定量的な数字だけを見ることになってしまいます。もちろん売り上げが上がれば喜ぶ人もいると思いますが、どのような背景のもとにサービスや機能をつくっているのか、目的は何か、はたまた、お金をもらえるならなんでもやっていいのか、といったバランスを考えることが大事です。

エンジニアやPdMだけでなくプロダクトに関わる全ての人にとってプロダクトビジョンは大事な役割を果たします。定量的、定性的にもきちんと把握することが重要です。

7:市場の変化に対応するのが難しい

これはプロダクトマーケティングマネージャーの役割に近い問題です。PdMは大きく分けてマーケティング要素とクリエイティブ要素の両方を持っていますが、最近ではプロダクトマネージャーとプロダクトマーケティングマネージャーに、職務も分かれてきています。

例えば市場の変化に対応するのが難しい例として挙げられるのが、Web系のサービスです。飲食や市販品であれば実物を持っていけますが、Webサービスの場合はフィードバックを得ようとしても簡単には得られません。

そこで、マーケットの課題やニーズをどのように拾うかが重要です。そのためには、アンケートやグループインタビュー、お金をかけたパネル調査など、様々な方法があります。選定してリストアップし、アポイントを取ってマーケット調査をするしかありません。

多種多様なツールをうまく使えるかどうかも重要です。いかに情報を拾えるか、情報を取得する仕組みを作れるかもポイントになります。

例えば、AI文字起こしサービスを考えていてマーケットリサーチをしたい場合、リサーチパネルの活用や知り合いに聞くだけでなく、その領域に知見がある方たちを集めてリアルで話を聞く機会を設けることも大切です。そのためにイベントを企画し、AI文字起こしツールを作っている会社にゲストとして参加してもらうのも1つの手です。そこで今について語ってもらいながら、興味がある、詳しい参加者からその場で聞くといった工夫も考えられます。このように、情報収集の仕組み化をすることが大事です。

8:ステークホルダーの期待値管理が難しい

ステークホルダーには、お客さん、自社、取引先、一般ユーザー・法人、投資家など、様々な立場の人がいます。そのため、まずはどんなステークホルダーに対してどんなことをするのか、どのような情報提供をする必要があるのかを考える必要があります。

例えば、楽天アワードのようなショップを表彰するアワードや、システム関係の取引先向けの表彰など、アワードやカンファレンスで期待値調整をすることがあります。

投資家・出資者に対しては、アクティビスト(物言う株主)もいるので、どう対応するかが重要です。きちんと情報共有・提供し、回答を持っていくことが大切です。事前準備として、事業計画や中期経営計画を用意することも重要です。

あとは、プロダクトのミッション、ビジョンを理解してもらい、どうやってファンになってもらうかを考えることが大切です。スポーツ、特にプロサッカーなどは、いかにファンになってもらうかという観点が重要ですが、企業ではこの視点が抜けがちです。

例えば数字だけを公表して「売り上げや成果が上がっています」と言うのもいいですが、会社はいい時も悪い時もあるので、悪い時に差し掛かった時に批判されないようにすることが重要です。

しかしファン化ができていれば、少しの落ち込みは大目に見てもらえる可能性がありますし、事業を本当によくしようという意見をもらいやすいはずです。もちろん「こうしたら?」という提案はあるかもしれませんが、それも愛ゆえの提案であるかどうかは大きな分かれ目です。いかにファンになってもらうかがステークホルダーマネジメントで大事なポイントになります。

9:データ分析のリソースが不足している

データサイエンティストやデータアナリストは人材的にも少ないので、リソース不足は仕方がない面があります。採用も大事ですが、解消するためには自社で育てることも考えるべきです。

もちろん本当の統計分析をやろうとすると難しいですが、正直そこまで必要ないケースも多いです。例えば集計レベル、集計なら比較的容易にできます。外部コンサルタントに依頼して、内部人材を育成してもらうのも一つの方法です。

ただ大前提として、最近ではデータ活用のためには、SaaSの分析ツールを使いこなすのがほぼ必須スキルとなっています。正直、既存のものを使わずに何もない状態から製造や開発をする人はほぼいない領域でもありますし、多くの場合は各社様々なプラグインを使っているので、エンジニアに限らず作業することも考えられます。

もちろん、プログラミング知識がなくても使える分析ツールは多くあります。要所要所で適切なツールを使えるかどうかが重要です。

10:プロダクトの長期的なビジョンが描けない

まず、会社のミッション、ビジョン、パーパスを確認しましょう。そして、それに沿ったプロダクトやサービスであるかどうかを考えます。本来は会社のミッションやビジョンを達成するためにサービスがあるはずですので、もし当てはまらないなら別会社化するなども1つの手になると思います。

さらに言えば、プロダクトやサービスが会社のミッション・ビジョンのどの部分を担っているのかを明確にすることが重要です。中長期ビジョンを描くときは数字の積み上げも大事ですが、ミッション・ビジョンに沿った形で達成できるものになっているのか、因数分解できるのかを考える必要があります。

そのために必要なことは何か、またマーケットニーズは何かを考えることも大切です。
もし会社にミッション・ビジョンがなければ、まずそれを作ることから始めましょう。

ここまで、PdMのお悩みあるあるとその解決法についてご紹介しました。もし課題に直面した際は、ここで説明した方法を参考にしてみてください。

より効果的なプロダクトマネジメントが実行できることを祈っています!

話し手:ProfitMakers代表取締役社長・坂口 賢司プロフィール

2009年にSI企業からWeb系の事業会社へ転身し、2012年株式会社トライフォートの設立を経て、同社運用統括本部長として事業成長に貢献。2014年ランサーズ株式会社へCTOとして参画しエンジニア部門を統括。2015年株式会社 Emotion Techに参画、取締役CTOに就任し、同社の成長に大きく貢献。現在は2015年に創業した株式会社ProfitMakersの代表取締役を務めつつ、株式会社HandsOnの取締役CTOなど複数社の取締役や顧問、アドバイザーを務める。

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