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オプション取引入門 - はじめに

今回の入門シリーズのテーマはオプション取引である。オプション取引というと短期的なヘッジや投機に利用するものであり、長期投資勢には向かないものだと思われている方も多いかもしれない。しかし、長期投資をするにしても、どのタイミングでエントリーするかはそのパフォーマンスに大きく影響する。そしてオプション市場で起こっていることを理解することにより、よりよいエントリーのタイミングを見つけたり、またポジションを閉じるタイミングを決めたりすることができるかもしれない。また、オプションマーケットとオプション由来のリスクヘッジは現物の株式市場にも大きな影響を与える。これらを理解することによって一見不可解に見える株価の動きや日経新聞等で「利益確定の売り」や「押し目買い」などといった曖昧な表現の背景にある現象を具体的に捉えることができるようになる。いうまでもなく短期売買にとっても長期投資にとっても知っていて損になることではない。

さて、オプションは金融商品のうちでももっとも複雑でむずかしい商品であると一般に言われることが多いが、実はその数学・ファイナンスの背景を完全に理解しなくても十分に活用できる。むしろ数学的な背景に関していくら精通していても、実取引に活用できることは多くない。ファイナンス理論によく登場する測度論やルベーグ積分が理解できたところで実際のマーケットにおける取引手法を知らなければ意味がない。一足飛びに、すでに解明された数学的帰結から導かれたオプリョン理論を定性的に理解し、それを実トレードに活かすことで、はじめて多様な相場観をポジションに反映できるのだ。先にも言ったようにオプションは資産を守るためのリスクヘッジにも有用であるし、お金を儲けるための「投機(speculation)」にとっても非常に効果的な商品である。ここ近年、短期的なトレードは悪!といった風潮が強く、それはバートンマルキール氏の「ウォール街のランダムウォーカー」に端を発し、FIREムーブメントなどの"トレンド"により助長されているように見える。投機というと聞こえが悪いかもしれないが、金融商品の売買によってお金を儲けようとする行為自体はまったく悪いものではない。注意が必要なのはそれが度を越して、つまり自分のリスクの許容度を超えたリスクをとってしまうこと/リスク管理ができないままにポジションをとることであり、個人投資家は往々にしてその罠に陥りがちである。このシリーズを読み切った読者であればそのような罠に陥ることはないであろう。

さて、ここまでのところでなぜ全ての、すなわち短期あるいは長期の投資家にとってオプション市場について理解することが重要であるかがわかっていただけたと思う。つまり、オプションを理解することは
1. 現物市場の動きやセンチメントを理解する視点を増やしてくれること
2. 実際にオプションを活用し現物株だけでは表現できないようなリスクをとること
3. 現物株投資を多様化するような投資手法を実現できること(カバードコールやターゲットバイ戦略など)
につながるのである。
しかし、オプションについて学ぼうと思ったとき場合、多くはまず一般に販売されているオプション取引入門といった本稿と同様のタイトルの書籍を手に取ることが多いであろうが、それらのオプションの教科書は、まずオプションとは何かに始まり、そのプライシングモデル(二項モデルやブラックショールズ式等)の解説、そしてアメリカンオプションやスワップションなどの応用的事項の説明で終わり、上記のような事柄については説明がないことが通常である。本noteではむしろ通常の書籍で解説されているような数式やモデルについて詳細に解説することはない。目的はオプションを実際に活用するための「生きた」知識を身につけ、実際のトレードに生かすことであり、ファイナンスの試験でいい成績をとることではないからである。市販のオプションの教科書とは一線を画した、現場のトレーダー目線の入門シリーズとしようと思うのでお付き合いいただきたい。以下が予定している目次である。

オプション取引入門第一編 - 知識編

1 オプションとは何か
2 ボラティリティをトレードするということ
3 オプションのリスク - グリークス概要
4 代表的なオプション戦略と対応する相場観
5 ボラティリティプレイヤーとはどのような存在か 
6 ボラティリティプロダクトの概要 - バリアンススワップとボラティリティスワップ

オプション取引入門第二編 - 実践編
1 グリークスのマネジメント - デルタ・ガンマ・ベガ・スキュー・スマイル
2 相場観に合わせたリスク管理 - 4つのスポットシナリオで考える
3 上場ものとプロ市場 - オープン市場とプロ市場
4 ポートフォリオとしてのリスク管理 - 刻々と変化するリスクをマネージする
5 実際の取引で気をつけるべきこと -流動性・取引コスト

今回のシリーズを通じて十分に知識を蓄え、オプション取引とそのリスク管理にある程度精通したうえで、オプション取引にも自信を持って資金を投入し、Profit Takeできるレベルを皆さんと目指していきたい。

早速最初の記事をどうぞ。


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