近親相姦の禁止と知的後退

まだこんな「狼少女」のような非科学的なことを言っているのかと呆れた。なお、天才学者とはレヴィ=ストロースのこと。

モース的に言えば、インセスト・タブーの範囲にある女性だから交換するのではなく、交換するためにインセスト・タブーが生まれると言うべきなのです。

インセスト・タブーは、社会を閉じて消滅させてしまう不利な行為を禁止し、社会環境を人類社会にまで拡大発展させていくことを可能にする規則だとも言えます。つまり、インセスト・タブーの原理こそが、人類社会を成立させてきたのです。

近親相姦の回避は人間に特有のものではなく、他の動物にも広く見られることは、それが文化的・社会的に構築された規範ではなく、hard-wiredされた本能的なものであることを強く示唆している。

このことは人間の社会でいち早く指摘されていた現象だった。一八九一年に『人類婚姻史』を著したウェスターマークは、一緒に育った近親者同士は性的関心を失う傾向のあることを強く示唆している。ところが、この説は(ウェスターマーク効果)は同時代に精神分析学を創始したフロイトによって黙殺されてしまう。ウェスターマークの説は、後の人類学者たちからもほとんど無視される結果となり、人間社会における近親者間の交尾回避傾向は長い間実証されず、論議の対象にもならなかった。

https://anthro.zool.kyoto-u.ac.jp/evo_anth/evo_anth/symp0104/yamagiwa.html

レヴィ=ストロースの親戚のトッドは「知的後退」と酷評している。

ウェスタ―マーク効果と呼ばれているものが示唆するのは、近親相姦のタブーが文化事象ではなく、自然選択のプロセスに由来する無意識の行動だということである。

我々はどこから来て、今どこにいるのか?㊤
p.142

彼よりもあとに登場したフロイトや、レヴィ=ストロースその他、あんなにも大勢の学者たちが近親相姦の回避の内にひとつの文化事象を見ようとしたが、それは誤りだった。悲しいかな、人文科学の歴史はこうした知的後退に満ち満ちている。 

p.142

今日ではほとんどすべての性的タブーが消滅しているが、それでも例外が二つある。小児性愛に関するタブーと、近親相姦に関するタブーだ。たしかに1970年代の一時期には、幾人かの変わり者の社交界人士が、性的解放の究極の前進として、小児性愛を公然と主張したことがあった。しかし、それは束の間のことで、小児性愛はたちまちのうちに元の禁忌領域に戻った。子孫の保護という絶対的要請が、ヒトの自然の基底の内にしっかりと定着しているようだ。 近親相姦のタブーはというと、世は性革命のまっただ中だというのに、すでに無意識の域に達し、絶対的効力を発揮する段階に入った。キリスト教教会によるイトコ婚の禁止が世俗の民法からは消えたというのに、その数値はかつてなかったほどに無限小だ。第一、核家族内部での性的実験を習俗の進化のために必要だとして公然と主張する者は一人もいない。

p.142-143

レヴィ=ストロースの「驚きの学説」は数学的に綺麗な説明になっているので称賛されてきたが、優秀な人にありがちな考えすぎで、実際はもっと単純な理由だったというわけである。

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