『マンガでわかる 日本経済入門』は粗雑すぎる
中野剛志は素人を釣るために「嘘も方便」と割り切ってこのような主張をしているのかもしれないが、誤った認識は誤った対応を招く危険性があるので、反知性主義の素人ホイホイ的な言論活動は止めるべきである。
これではリフレ派と大同小異である。
インフレ(需要>供給)になると、経済は成長するということです。
デフレ(需要<供給)になると、経済は成長しなくなるのです。そのためには、日本経済を成長させるためには、まずはデフレやディスインフレを脱却し、インフレにしなければなりません。
「デフレから脱却できなくて当然」とあるが、1999年からの消費者物価指数の下落トレンドは2012年末から反転上昇に転じているので事実に反する。
デフレ予想のために消費と投資が抑制され、それがデフレ圧力になるデフレスパイラルが経済停滞の正体だと説明しているがそうではない。消費は企業の賃金抑制と将来不安、設備投資は人口減少→国内市場の量的縮小と株主資本コストの上昇によるもので、企業(特に大企業)の経営方針の大転換が主因である。
そもそも、物価の下落はリーマンショックと東日本大震災の直後を除くと年率0%台で13年間の累計でも4%程度なので、デフレスパイラルを引き起こすには程遠い。
漫画のグラフも不適切である。成長率を比較するのであれば、名目ではなく実質を用いなければならない。この期間にベネズエラ経済は実質ではマイナス成長だが、名目では30万倍以上に成長したことになってしまう。
「1人あたりGDP(名目)成長率」という説明も不正確で、正しくは「2005年=100とした2018年の名目GDP」になる。指数なので単位は%ではない。
実質GDPで比較するとこのようになる。上位は新興国と旧共産主義諸国が占めるのでドイツ以下の23か国に絞ると、日本は中間の12位で中野が強調するほど悪くはない。
人口減少社会への対応として政府部門のダウンサイジングを目指した橋本龍太郎の財政構造改革と、その路線を引き継いだプライマリーバランス黒字化目標が日本経済の足を引っ張っていることは事実だが、そればかりを強調しては木を見て森を見ずになってしまう。
この認識も不正確で、目的は生産性の向上ではなく資本効率の向上、あるいは投資家利益の最大化である。
問題は、財政政策だけではありませんでした。 平成の歴代政権、とりわけ橋本政権や小泉政権、そして安倍政権は「構造改革」「成長戦略」と称して、規制緩和、自由化、民営化、そしてグローバル化といった政策を推進してきました。その目的は生産性の向上にありました。
日本は資本蓄積が進んだ潜在成長率が低い国なので、設備投資→資本装備率向上→労働生産性向上よりも、このように(⇩)低賃金労働者を増やす方が投資家のリターンは大きくなる。経済運営が投資家利益第一になったことが家計部門の衰弱の主因である。
正規雇用者の給料を下げて、夫に600万円払っているのなら、夫に300万円、妻に300万円払うようにすれば、納税者も増えます。
中野の記事の締めくくりだが、インフレ時にも投資家利益第一の政策を行うべきではないだろう。インフレとデフレで何から何まで対称になるわけではない。この本は未読なので判断は保留するが、少なくともこの記事の部分に関しては論理展開が粗雑すぎる。
日本経済が成長しなくなった理由は、ひと言でいえば、インフレ時に行なうべき政策を、デフレ時にやり続けているからです。
補足
フェミニストが賃下げ・非正規雇用拡大の共犯だったことも見逃してはならない。フェミニストの正体は労働者を食い物にする『動物農場』の🐷で女の味方ではないので、普通の女は口先だけのsisterhoodに騙されてはいけない。
「男女共同参画社会は、新自由主義的なベクトルとフェミニズムとの妥協の産物だ」というのは、100パーセント正しいと思います。
ネオリベ改革がジェンダー平等政策を推進した理由はなんでしょうか?
答はかんたんです。女に働いてもらいたいから。