「自殺者急増」予想が外れた理由
自殺が1997→1998年のように急増して3万人を突破しなかったことは、テレワーク仮説を持ち出さなくても、二つの要因で説明できる。
僕は去年、自殺者が急増して、また3万人を突破すると考えていました。経済的な状況が悪化。家にこもることでセロトニンの出が悪くなる。他人に泣き言を言えない。一人酒が増える。治療が必要でも感染が怖くて病院に行かない……。これだけの悪条件がそろえば、自殺者が大幅に増えると心配したんです。
なぜなんだろうと考えて、仮説を導きました。テレワークなどをすることで、対人ストレスから解放されたからではないか、と。
会社に行かなくていいことで、9千人が自殺を踏みとどまったというのであれば、働き方を根本的に変えればいい。
一つ目は、GDPの減少はリーマンショックを超える減少となったが、労働者への影響はそれに比べると小さかったことである。
雇用者報酬の減少と失業率の上昇は小幅にとどまっている。
もう一つの要因は、失業率上昇→自殺増加の関係が弱まっていたことである。
過去に失業率が急上昇したのは1997年11月の金融危機後と2008年9月のリーマンショック後で、1997年度末からは自殺者は急増している。
しかし、リーマンショック後には目立った変化はない。
金融危機~リーマンショックの間の構造改革によって、経済状況が自殺に及ぼす影響はかなり弱まっていたと推測できる。
男の自殺が増えなかったことはこの二つの要因で十分に説明可能なので、テレワーク仮説の「対人ストレスから解放されたから」は必要ではない。女の自殺の増加は恐怖や不安に弱いこと(→コロナ鬱)とWerther効果で説明できる。