僕の恋愛小説【第4章 初めてのチュー】
おさななじみ
小学生低学年の頃は、学校から帰ってきて宿題を済ませたら先を争うように外に出て、近くの原っぱや公園に集まって男女の区別なく遊んでいた。
その頃住んでいたのは都心から少し離れた郊外で、ベッドタウンとして機能させるため当時としてはモダンな作りの集合住宅が何十棟もある公団住宅に若い世代の働き手がたくさん住んでおり、自然と同い年くらいの小学生の子供達もたくさんいた。
まだ開発中の団地の周りに田畑や竹林や小高い丘が残るその地域では、おたまじゃくしや昆虫はそこら中にいて、虫取りや木登りも出来たし、公園に行けばジャングルジムやブランコなど子供向けの遊戯設備があり遊び場所には事欠かなかった。
「ヒデちゃん、今日は何して遊ぶの?」
宿題をして、おやつを食べて外に出た時に最初に出会ったのは、同学年の男友達の妹S子だった。一つ下で、お母さん似のふっくらとして体格の良い、ハキハキとした女の子だった。
「Kは?」
「お兄ちゃんはまだ宿題やってるよ」
「しばらく出て来れないと思うし、二人で先に遊びに行こうよ」
女の子は好きなのだけど、いつもは男同士の遊びについてくる感じでしか遊んでいなかったので、行き先に戸惑いつつもこう答えた。
「それだったら、木登りしに行こうよ」
S子が軽く頷いたので、僕はいつも木登りしている大きな桜の木のところまで走った。
「ヒデちゃん、早いよー」
S子はそう言いながらも、なんとか僕の後について走ってきた。
「いつものあの枝のところまで登ろう」
僕はそう言って先に木に登って、後から登ってくるS子の手を引きながら、目的の枝まで登れるよう引き寄せた。大きな木の枝に座ると少し見晴らしが良くなり、原っぱの奥にある池の様子まで見えた。
二人並んで木の枝に座りながらたわいもない話をして池を眺めていたのだが、しばらくすると同じ団地の子供達が何人もやってきたので、鬼ごっこをして遊んだりしてその日は過ごした。
好きと言われたとき
学校から帰ってからの子供同士の外での遊びはたわいもなく過ぎていき、遊び相手が女の子であっても意識する事はないのだが、たまに遊びの興味対象が違っていて別々に遊ぶこともある。その頃の女の子は原っぱに咲いている草花を使って腕輪や髪飾りを作って遊んだりしていて、その集団を男同士で遊んでいる中から見ていると、可愛らしい仕草や、花輪を髪に乗せて遊んでいる姿に女の子らしい面を見たりする。
二人で木登りをした時からしばらくして、遊びの帰り道でS子から声をかけられた。
「ヒデちゃん、ちょっと話があるんだけど」
そう言われて、周りに人影が少ないところまで連れて行かれた。
「ヒデちゃんの事好き!」
「私と結婚しようよ!」
突然の告白に、僕は何を言われているのか分からなかった。
結婚って、小学生の僕には具体的にどういう事か分からないのだけれど、この子はどういうつもりで言っているのだろう。毎日遊んでいるので、お互いの事は良く分かっているかもしれないけど、まだ子供だよ。将来どうなるか分かんないのに結婚だなんて。
「えぇ・・・???」
「別にいいけど・・・」
おさない女の子の気まぐれのようにも思えたし、告白された事は満更でもなく、S子の事も嫌いではなかったので、なんとなくそう答えてしまった。
別の日に母親が、S子が僕の事を好きで、結婚したいらしいという話を食事の席ではじめると、
「S子ちゃんとの結婚はどうかと思うけど」
などど、小学生同士の事なのに、もっともらしい事を父親が言ったり。
「この人、なんか真面目に答えて、意味分かってるのだろうか・・・」
と心の中では大人なことを思っていた。
S子は自分の親に話をしていたらしく、僕の母親にもその話が伝わっていたようなのだ。
S子の家族はしばらくして、市内の別の地域に引っ越しをして離れ離れになったのだが、年賀状のやり取りは続いていて、再会するのは高校生になってからだった。
くちびるの感触
S子に告白された時の話には続きがある。
告白されて照れながら呆然としていた僕のほっぺたに、S子がくちびるを押し付けてきたのである。
そのあと、くちびるにも直接、チュッと。
これが僕にとって初めのチュウだったかどうかは、実は定かではない。幼稚園生の頃の初恋の彼女はおてんばだったので、ほっぺにチュウもされた気がする。普段の女の子との遊びの中でも、ほっぺにチュウというのはあったような気もする。ただ、この告白のおかげでこの時のチュウはハッキリと僕の記憶に残ることになった。
ほっぺに感じたくちびるの感触は、少し湿った何か柔らかいものが触った感じ。されたあとは、手で拭き取りたくなるような湿り気があって、ちょっと気になる感じ。
くちびる同士の感触は、まだそれが将来気持ちいいものに変わるとは分からないくらいの、軽い粘膜の接触だった。
心に響いたBGM:Melody Fair by Bee Gees
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