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僕の恋愛小説【第21章 恋愛の楽しみ方②】


デートを重ねて

二回目のデートの後も何度かマリコと二人で飲みに出かけたが、それ以降キスをする機会も得られず、特に進展はなかった。それでも、回を重ねる度にお互いの日常や好きな事を話して、段々と親密さが増した感じがして、それが楽しかった。会話の内容を段々と恋愛話に近づけようとしてみたが、親密さは保ちながら一定の距離を置くような受け答えだった。

「土日って何してるの?」
「たいていお昼間まで寝てるわよ。それから買い物かしらね」

距離を縮めるために時間に余裕の取れる土日に誘おうと思ってこんな事を聞いてみても、返ってくる回答はこんな調子だった。

少し諦めかけていた何回目かの飲みで、十分飲んだしそろそろ帰ろうかという時間、マリコがこんな事を言ってきた。

「いつも飲みに行くのばっかりだから、次の土曜日、東京タワーにでも行ってみない?」

マリコは東京タワーのデザインが好きで、前から行ってみたいと言ってたところだ。僕も初めて誘った時のようなデートをまたしてみたいと思っていたところだったので、すかさず了承した。いつもと雰囲気の違う場所で、恋の進展を図ってみたいとも思っていた。

「いいね。まだ行ったことない場所だし」
「なら、いつもの駅で朝の11時に待ち合わせってことでいいかしら_」
「了解」

飲みに出かけるのはたいてい会社が終わってからだったので、土日に二人で出かけるのは久しぶりだった。僕が何かしら不安そうな顔色になっているのを見越してなのか、マリコからの提案は意味深な感じがした。

次の土曜日、いつもの駅のプラットフォームについて辺りを見回すと、マリコがベンチに座っていた。

「おはよー」
「おはよー。良い天気ね。今日なら富士山見えるかも」

マリコと話しているとその内容から、男女問わずたくさんの友達がいて結婚歴があっても良さそうなのだが、ずっと独身だという。アドミの仕事で役員など職位の高い人達と接しているからか、人を見る目が肥えているし、アドミの仕事仲間は女性が多いので社内の噂話にも事欠かないらしい。

そういう環境にいると、男に対しての要求も自然と高くなっているのだろうか。天真爛漫な性格の上に、社内でも色々な種類の仕事をしてきているそうなので、仕事は仕事、遊びは遊びと日々の生活を楽しむ事に熱中していて、結婚とかあまり興味がないのかも知れない。
それでも、時折遠くを見つめてぼーっとする表情を見せる事もあり、心の奥底には何か思いを隠しているのかも知れない。

電車を乗り継いで東京タワーに着くと、屋台が出てイベントもあって結構賑わっていた。
かなり並ぶ事になったが、チケットを入手してエレベーターに乗って大展望台に上がると、どこを見ても一面に青い空が輝き、その下に都会喧騒が嘘みたいに静かに佇んでいるビル群がところどころに見えていた。
マリコは富士山が見える方向を見つけると、僕の手を引っ張って人の群れをかき分けて歩いて行った。

「富士山はどこかしら。ここから見えるはずよね」

展望台にある風景の案内版と実際の景色を見比べながら、マリコは目を細めていた。

「あれじゃないかな。思ったより小さいけど、左手の方にほら」
「ほんとだわ!上の方しか見えないけど、富士山は素敵よねー」

天気は良かったのだが、展望台のガラスの加減で少し見えにくい位置だったので、場所を移動したらよく見えるようになった。

「やっぱり富士山よねー。ヒデさんもそう思わない?」
「綺麗な山だよね、富士山って」

マリコは興奮のあまり、僕の手を握り締めているのも忘れて富士山に見入っていた。僕はその横で、マリコの横顔を見つめながら彼女の過ごしてきた恋愛模様を想像していた。

「なんで、富士山が好きなの?」
「あら、野暮な質問ね。綺麗だし、一番高い山だからよ」

天真爛漫な笑顔を僕の方に見せて、マリコは富士山の良さを説明してくれた。

僕の部屋で

展望台からは、他にも東京の周りに連なる山々や、東京の街並み、東京スカイツリーも見えた。
東京スカイツリーは街中でも一際目立っていたので、すぐに見つけることができた。

「あれは、味気ないわね。高ければ良いってものでもないわね」

電波塔としての高さはあちらの方がはるかに上なのだが、マリコは東京スカイツリーには惹かれなかったようだ。

まだ上に特別展望台があるらしいのだが、改装中ということで登れなかったし、富士山が見えたことでもう満足したようだった。お昼もとうに過ぎてお腹も空いていたので、マリコが上機嫌なうちに以前街歩きした時に見つけておいた、渋谷にある焼き鳥屋に連れて行った。一つ一つの串が大きく、うなぎの肝焼きも美味しいお店だった。

「ここの焼き鳥の串大きくて、美味しいよね。ビールにも良く合うよ」
「ほんとね。ビールも美味しいわ」
「ウナギの肝の串も美味しいし食べてごらん」

こんな会話をしながら遅い昼食をとった。

その後は渋谷をブラブラしてから帰りの電車に乗り、僕の家のある駅で一緒に降りた。東京タワーと焼き鳥でマリコが上機嫌だし、お腹は膨れてるけど飲み足りないということで意見が一致し、知っているバーで軽く飲もうと思ったのだった。僕は、今日は部屋に連れて行きたかったので、良い口実が出来た。

駅を歩いてバーまで行くと、開店直後でお客さんは他にいなかった。僕はバーのマスターに聞いておすすめのワインをボトルで頼んだ。

「今日は楽しかったわね。いいもの見れたし」
「そうだね。東京タワーって近くで見ると壮観で見応えあるし、結構いい観光地だね」
「そうでしょ。行ってよかったわね」

こんな会話をしつつ、マリコは上機嫌でワインをガブガブ飲んでいた。
ボトルが空になりそうになった頃。

「もう空きそうだね。次何飲む?」
「そうね・・・。喉乾いてきたし、ビールにしようかしら」

マリコはビールを頼んだので、僕も合わせてビールにして、グラスが空になった頃、店を出ることにした。

「かなり飲んだよね。うちに来て、酔い覚ましにお茶でも飲まない?」

酔って饒舌になっていたマリコに聞いてみた。

「そうね。ちょっとならいいかな」

マリコは素直に僕の部屋に来てくれる事になった。

部屋に入ってベッドの横に座ってもらっている間にお茶を用意していると、マリコが聞いてきた。

「ヒデさんって、普段の土日はどうやって過ごしてるの?」
「買い物とか、撮り溜めたドラマ見てたり」
「ふ〜ん」

お茶を持ってマリコの横に座ると、マリコはお茶を一口飲んで僕の方を向いてきた。
僕は、持っていたカップをテーブルの上に置いて、マリコの肩を抱き寄せて顔を近づけた。マリコはそのまま目を瞑ったので、唇を重ねた。マリコの口の中は、ビールとお茶の混じったような味がしたが、その味を確かめるように段々とディープなキスになってお互いの舌を吸い合った。

僕は黙って、マリコの胸の膨らみに手を当てた。マリコは少し身体を捻って手を退けようとしたが、腰をだいてベッドの上に身体を持ち上げると諦めた。ベッドに寝かせたマリコの身体を服の上からまさぐり服を脱がせようとすると、マリコは嫌がる事なく僕が服を脱がせる動作に従った。ショーツの上から股の間をそっと触っていると、すでに湿っっていた。

僕はこれがOKのサインだと思って、自分も服を脱いでマリコと繋がり、それまで溜めていた自分の思いを吐き出した。

恋愛の楽しみ方

性愛を恋愛の目的のひとつにおいている僕にとっては、マリコとのゆっくりした恋愛はもどかしかった。学生の頃に得た恋愛感情に比べれば、今はとても余裕があるので、ゆっくりしていても焦るような事はなかったが、時々溢れてくる情熱と付き合うのは難しいものであった。

マリコとの性愛関係は、一度寝たからと言って簡単に続くものではなかった。一緒に食事や飲みに出かける事はあっても、僕の部屋には中々来てくれないし、マリコの部屋にも上がらせてもらえなかった。

マリコと寝てから何度目かの食事の時、「好き」という感情がどうしても抑えられなくなり、店を出てから手を繋いで僕の家まで連れて行く事にした。その店は僕の家のある駅の隣の駅にある店だったのだが、僕の家まで歩いてもそれほど遠くなかったのだった。

「どこ行くの?」

駅までの帰り道とは反対方向に歩き始めたので、マリコが聞いてきた。

「僕の家でお茶でも飲まない?」
「・・・いらない」

それでも、手を繋いだまま歩き続けると、マリコが繋いでる手をほどきにかかった。

「行かないからね」

マリコは繋いでる手を振り解こうとして、手を振るように引っ張った。僕は繫いでいる手を握りしめて離さないようにして歩くのだが、マリコは歩みを緩めて行こうとはしなかった。

「なんで嫌なの?」
「今は嫌なの」

聞いても理由を教えてくれない。僕はそれでも諦めきれずに、手を握ってマリコの気持ちを確かめるために歩き続けた。マリコは抵抗を見せたが、僕の考えが変わらないのに観念したみたいで、歩き始めた。

「行ってもしないからね」
「わかった。訳を聞かせて欲しいんだけどな」

僕はマリコをなだめるようにそう言って、部屋まで連れて行った。マリコは玄関に入っても中々上がらなかった。

「誕生日が近いし、プレゼント用意してるんだけど、上がってきたら渡してあげる」

先日一人で雑貨屋さんに出かけた時に、フワフワモコモコのガウンを見つけたので、誕生日プレゼント用に買っておいたのだ。フワフワモコモコは、マリコの好きなものの一つだった。誕生日に渡す積もりだったのだが、物で釣ろうと話してみた。

「嬉しいわ。誕生日覚えてくれてたのね」

マリコはそう言って、靴を脱いで部屋に上がって来てくれた。
僕はコーヒーを淹れて、マリコの座っている前のテーブルに置いた。

「なんで、ダメなの?好きなのに・・・」
「そう言われても困るんだけど・・・」
「教えてくれないと分からない。なんで?」

僕が諦めそうにないのを感じたのか、マリコが話はじめた。

「いるのよ」
「ん?」
「他に付き合ってる人が・・・」
「・・・!」

僕は言葉にならない驚きの声を発した。二股なのか、どういう事か中々理解できなかったが、話してくれたので、怒らないように一呼吸置いてから聞いてみた。

「それなら、なんで寝たの?」
「ヒデさんが、したそうにしてたから・・・。ヒデさんのこと嫌いじゃないし、したいならいいかって思って」

思いがけない理由だった。

「その人と出会ったのが、ヒデさんと初めて明治神宮行った頃で、成り行きで付き合うことになって・・・。しょっちゅう会ってる訳ではないのだけど、二股になるのは嫌だったので」

僕に好意を寄せてくれているようだけど、タイミングが悪かったって事なのか。複雑な思いが湧き上がってきたが、さらに問いかけてみた。

「その人と別れられないの?」
「そうして欲しいの?それなら、考えてみるけど。今日はしないわよ」
「その人とは別れて、僕と付き合おうよ」

僕はマリコの傍に座って肩を抱き寄せた。マリコは目に涙をうっすらと浮かべて、頭を肩に載せてきた。

マリコの頭の重みを感じながら、まともな恋愛をしているかもって変なことを考えていた。一皮剥けてからは性愛中心の恋愛だったが、なんか学生の時の恋愛感情に戻った感じだった。性愛中心の恋愛において昂る気持ちはもちろんあるが、楽しみは身体を使っての方が多かった。気持ちのやり取りを恋愛の中心として楽しむのは、僕には恋愛小説の中だけの感じで実際には中々想像し難かった。こうやって、身をもって体験する気持ちは中々むず痒く、重々しくもあったが、これが恋愛の楽しみ方の一つなのかと後で思うようになった。

気持ちと身体は別。

恋愛の立ち上がりがゆっくりだと、その恋愛関係は長続きするというような心理学的解釈を見た事があるが、マリコとの恋愛関係はとても長く続いた。

それでも変化はあるもので、付き合いが長くなるにつれ、段々とお互いの感情や環境も変わる事になった。この恋愛はそんな風にまだ続くのだが、この先の展開はまた別の恋愛物語として後ほど。

心に響いたBGM:中島美嘉 - 『雪の華』

#セクシャルなひらめきで潤いのある生活を
#僕の恋愛小説

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